【官能小説】 Cerberus 第7話 『邂逅』
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ホテルを後にした2人は駅で別れ、
自宅の最寄駅から帰路に着く香澄を
再び金木犀の香りを纏った涼やかな風が包む。
香澄は自宅までの道のりを歩きながら
今日の出来事を思い出していた。
つい先程まで一ノ瀬の手で性玩具のように扱われ
盛りのついたメス犬のように快楽を貪っていた
自身のあさましい姿を思い返すと、
今更ながら恥ずかしさが湧き上がってくると共に
再びあの快楽が欲しくなってしまう。
(ダメダメ!
思い出しただけでまた濡れてきちゃう…
それに私、今変な顔して歩いてたよね…)
頭の中が淫らな妄想で一杯にならぬよう
他の事を考えようとしたが、
どうしても一ノ瀬の顔が浮かんでくる。
(あれからもう2年が経つんだなぁ…)
香澄は一ノ瀬との出逢いや調教を受ける
きっかけになった日の事を思い出していた。
あれは3年前の秋…
上場企業の法人営業部で営業サポートとして
働いていた香澄は転職するかどうか悩んでいた。
当時の部長・中島は癖の強い人物で、
彼のハラスメントにより次々と同じ部署の先輩が退職していくさまを目の当たりにして、
このような環境に身を置き続ける事に
将来性を見出せなかったからだ。
なにより、50代の中年男性にありがちな
だらしないお腹やスーツから漂うタバコの
臭いなど、香澄の目にはその全てが不潔に映り、嫌悪の対象となっていた。
年々業績を落とす法人営業部の状況は
役員の面々からも問題視されており、
中島は課長へ降格することになった。
そのタイミングで中途入社してきたのが
一ノ瀬だ。
ヘッドハンティングによって転職してきた
一ノ瀬は37歳の若さで法人営業部の部長へ
就任し、僅か1年で業績をV字回復させたのだ。
そんな一ノ瀬と香澄の初対面は
入社1週間前に遡る。
『おーい香澄くん、ちょっと!』
応接室の扉から顔を覗かせた役員が、
こちらへ来るよう手招きをしている。
香澄はすぐさま応接室へ向かい部屋の中へ
入ると一ノ瀬を紹介された。
『香澄くん、彼は来週から法人営業部の
部長になってもらう一ノ瀬くんだ。
君に彼のサポートをお願いしたくてね。
彼はまだ37歳と若いがなかなかの人物
だから、君も勉強になると思うんだ。』
『はい、かしこまりました。』
『はじめまして、一ノ瀬です。
新しい会社で右も左もわからないので
サポートしてもらえると心強いです。』
『こちらこそよろしくお願いします。』
僅か5分ほどの短いやり取りではあったが、
一ノ瀬は香澄のイメージする部長像とは
かけ離れていた。
入社以降、一ノ瀬は前部長の中島とは対照的に、引き締まった身体にスリーピースのスーツを
着こなし、仕事はもちろん気配りも出来たため、すぐに部署内外から信頼を集める存在になった。
そして一ノ瀬が入社して1年ほど経った頃、
出張に同行する機会が巡ってきた。
香澄は一ノ瀬に対してこれまで出会った上司や
先輩には抱いた事の無い不思議な魅力を感じて
おり、この出張は一ノ瀬の考え方や価値観を学び成長するチャンスと捉えていた。
『一ノ瀬部長、おはようございます。
本日はよろしくお願いします。』
『香澄さん、よろしくね。
準備任せちゃったけど資料とか大丈夫かな?』
『はい。ちゃんと指示通り用意出来てます。』
『いつもありがとう。香澄さんは気が利くし
安心して任せられるから助かるよ。』
『いえ、そんな… 』
香澄は謙遜してみせたが内心は一ノ瀬に
褒められた事に喜びを感じていた。
大阪到着後は予定通り商談を4件こなし、
ハードな出張初日が無事に終了した。
このあとは今夜宿泊予定のビジネスホテルへ
チェックインすれば終わりというわけだ。
『よ〜し終わった〜。』
『お疲れ様です部長。
丸1日同行させていただき光栄でした。』
『光栄って… 大袈裟だよ(笑)』
『いえ、とても勉強になる事ばかりでしたし
ご一緒させていただいて嬉しかったです。』
『ははっ、ありがとう。
でも今日は疲れたろ?
オレはちょっと飲みがてらメシ食って
くるからあとは好きに過ごしてよ。』
『いぇ… あの… もしお嫌で無ければ私も
ご一緒してもよろしいですか…?』
『ん? 私は良いけど普通の居酒屋だよ?』
『ありがとうございます!
私、居酒屋大好きなんです!』
『そっか、じゃあチェックインして
荷物置いてから行こうか。
じゃ、20分後にロビーで良いかな?』
香澄は何かを期待した訳では無かったが、
20分の間で入念にメイクを直し、
余分に持ってきた下着に着替えてから
ロビーへ向かった。
20分後、ロビーで合流した2人はホテルから
5分ほど歩いた先で見つけた一軒の居酒屋へ
入った。
暖簾をくぐると店内は木曜だというのに
客で溢れ、熱気と明るい笑い声に満ちていた。
『まいど〜! らっしゃい!
2名様でよろしいですか?
ほな、奥へどうぞ〜!』
元気な笑顔と威勢のいい声で出迎えてくれた
店員が、賑わう客の隙間をぬって奥の個室まで
案内してくれた。
個室の中は多少静かではあるが、
店内の賑やかさが時折り室内にも伝わってくる。
『今日はお疲れ様。』
『部長、お疲れ様でした。』
2人ともビールで乾杯し、互いの労をねぎらった。
一ノ瀬は一気にビールを半分ほど飲み干すと
タバコに火をつけた。
香澄は前部長・中島のトラウマもあり
タバコの臭いに苦手意識を持っていたが、
不思議と一ノ瀬の匂いは気にならなかった。
『一ノ瀬部長ってタバコ吸われるんですね。』
『ああ、会社では電子タバコだけどね。
オレ、タバコ吸うくせに他人のタバコの
臭いが苦手でさ。』
『私もです!特に中島課長の(笑)』
『あ〜、彼、ヘビースモーカーだもんな〜
てか、ごめん!タバコの匂い嫌だよな?』
『あっ、いえ、大丈夫です!
一ノ瀬部長の匂いは不思議と嫌な感じが
しないので!』
『ははっ、なんだそれ(笑)』
咄嗟に出た本音…
それは香澄自身も混乱するほど矛盾したもので
あったのと同時に、一ノ瀬に対する好意に似た
感情がバレてしまったような気がして途端に
恥ずかしさが込み上げてくる。
『いぇ… その… 全然気になさらず
お吸いになってください!』
『そっか、ありがとう。
でも香澄さんに嫌われないように
吸い過ぎには気をつけなきゃな(笑)』
『部長の事を嫌ったりなんかしませんよ!』
一瞬気まずい空気になりかけたが、
一ノ瀬が笑いに変えてくれたおかげで
変な空気はかき消され、香澄は内心ホッとした。
その後は一ノ瀬が話題を上手くエスコートし、
互いの学生時代の話や趣味の話などで
大いに盛り上がった。
(部長は営業上手なだけあって
人から話を引き出すのが上手だわ…
つい余計な事まで話し過ぎてしまいそう)
会話が盛り上がると自然にお酒も進む。
香澄も一ノ瀬のペースにつられて普段より
少し多めに飲んでおり、徐々に理性の制御が
おぼつかなくなりつつあった。
第7話 『邂逅』 終わり
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