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日本が失われた30年で構築した物

日本経済の過去を振り返ると、GDP成長率は低迷し、所得格差は拡大しているようで、失なわれた30年という言葉も頷けます。どうして日本は低迷してしまったのだろうか?と考えてしまいます。確かに、この30年で失なわれた物があるかもしれませんが、何か獲得したもの、あるいは構築したものはないのでしょうか?何かあるはずだ、と感じるのですが、それをうまく表すことができませんでした。

私は趣味でスペイン語を学んでいるのですが、スペイン語のテキストの中に、「なぜ僕は日本が好きなのか」(¿Por qué me gusta Japon?)
という短い文章があって、それを読んでいるうち、これが日本が構築した物ではないか、と思いつきました。そのテキストの文では以下のように書かれています。

日本は豊かで創造的で独自の文化を持つ国。安全で平和でサービスの質が高く、全てがうまく機能している。人々は親切で、相手に敬意を払い、公共心があり誠実だ。紛失物が見つかったり、お祭りの後が綺麗に片付けられているのを目にすると、僕は日本が大好きであることに気づく。

昭文社が出版している世界国力ランキングによると、豊かさという点では、GDPが4位、GNI(国民総所得)は3位(IMF、2022年)、一人当たりGNIランキングは31位とのことです。創造性や独自の文化という点では、ノーベル賞の受賞者数で、日本は7位(28人)だそうです。ノーベル賞のランキングによると、1位アメリカ、2位イギリス、3位ドイツ、4位フランス、5位スゥーデン、6位スイス、7位日本。上位は欧米の国が占めていますがアジアでは日本がトップです。日本のアニメが世界中で人気になっていますが、その独自性が評価されているのではないでしょうか。日本のトイレは清潔で、世界一ではないか、と感じます。祭りの後片付けとか、試合後のスタジアムのゴミ拾いとか、日本人は綺麗好きなのかもしれませんが、これらの点は誇れる事だと思います。日本の新幹線は正確で安全です。日本の平均寿命は世界一です。上記世界国力ランキングによると、もう一度訪れたい国のランキングで、日本が1位になっていました。(ちなみに、2位はイタリア、3位はスペインです。)もう一度訪れたい国で1位ということは、それだけ外国人から好かれている国だと言えるのではないでしょうか。

かつて、1980年代、日米貿易摩擦が生じていた頃、日本経済は好調でしたが、欧米諸国からは嫌われていました。エコノミックアニマルなどと揶揄され、日本人は働き過ぎ、とか、金儲けしか考えていない、といった批判を受けたことを覚えています。当時は、ジャパンアズナンバー1という本がベストセラーとなり、日本型経営がもてはやされたりしていました。あの頃、確かに経済的には成功していたものの、欧米諸国から尊敬されていたとは思えません。日本は、政治は3流でも経済は1流だ、などと言って、日本人は自国の経済力や技術力に自信を持っていましたが、やや慢心があったように思います。

80年代、日本は一人勝ちのような状態でした。一人勝ちを続けていると嫌われます。良いものを安く売って、たっぷり儲けて何が悪い!という考え方は一理ありますが、相手方にも事情があります。一人勝ちではなくウインウインの状況を、あるいは近江商人の3方よしといった考え方で、自分のことだけでなく相手のことや世間のことをも考慮に入れることが重要だったのに、それが不足していたのかもしれません。

90年代、バブルが崩壊し、不動産価格や株価は暴落しました。金融機関は多くの負債を抱え、その処理のためにコストを削減しました。私の勤めていた会社でも、従業員の福利厚生施設が全て売り払われました。企業はコストカットの方向へひた走り、デフレ経済へ突入しました。その頃から、企業の不祥事などが次々と明るみに出て、コンプライアンスが叫ばれるようになりました。リーマンショックもありました。阪神淡路大震災や東日本大震災など各地で大きな地震が何度も発生しました。このような状況のもと、日本経済は勢いを失い、日本人は自信を失ってしまったのかもしれません。

確かに近年の日本は、失なわれた30年と言われても仕方ないような元気のない時期が続いたように思います。けれども、日本に来る外国人観光客の数は鰻登りですし、上記のように、日本が好きだといってくれる外国人は増加しているはずです。この30年、失なわれた物もあったでしょうが、得られた物もあったはずです。この得られた物は、これからも大事に守っていかねばなりません。上記のテキストで褒められていた点、即ち安全で平和、親切さ、相手への敬意、公共心、誠実さといった美点を維持しつつ、創造的で独自の文化を活かして、心の豊かさと経済的な豊かさの両方を保持するような、そんな日本になってほしいと思いました。



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