夫の身だしなみは妻の仕事?
職場にいつも皺が寄ったワイシャツを着てくる男性社員がいた。革靴も黒ずんでいて、無精髭は日常茶飯事。身だしなみに無頓着。私はその男性とはほとんど関わりが無かったから、彼の身だしなみなんて知ったこっちゃなかったが、休憩室で彼の噂話をしている女性社員たちに出会ったことがある。
「あの人、いつも皺だらけのワイシャツ着てるわよね」
「わかる。だらしない格好。たまに体臭もきついし」
「奥さんは何してるのかしらね」
この職場ではなくても、似たような話題をよく聞く。ご近所さんの井戸端会議で、親戚の集まりで。似たような話題を何度も耳にした。男性の身だしなみについて噂話をする際、何故か「奥さん」というワードが出てくるのだ。
女性が身だしなみを整えていない場合は、何故か本人の責任になる。シャツに皺が寄っていても、寝癖がついていても、「旦那は何してるのかしら」とはならない。不思議だ。
もちろん、夫の服を選ぶのも身だしなみを整えるのも楽しいって人もいるだろうし、妻に選んでもらう服が大好き! って人もいるだろう。夫婦の在り方はそれぞれだ。
周囲が夫婦の関係性にあれこれ言うのはどうなのか? って話だ。
「夫の身だしなみ=妻の仕事」と決めつけ、夫が身なりに無頓着だと、何故か妻がだらしないとされる。それは違和感しかない。
今や共働きが大多数の時代だ。妻が夫の服を用意し、アイロンをかけて、ネクタイを用意して……という時代ではない。というか、専業主婦だったとしても、夫の身だしなみ管理を妻の仕事とするのは違和感がある。
私の母は専業主婦だったが、父親の服や身だしなみについては、それほど言及していなかった。というのも、私の父親は服に対してこだわりが強く、服選びも服の管理も、ほとんど自分でやっていた。私が父の日に服をプレゼントしても、襟の角度が気に入らないという理由で着てくれなかったことがあるくらいだ。もう二度と服はプレゼントしない。
「夫の身だしなみ=妻の仕事」とするのは、男性にも失礼な気がしてならない。
夫が自分で頑張っておしゃれしても、妻の手柄になるわけだ。実際に、そう言っている人を見たことがある。「あの人はいつもおしゃれね。きっと奥さんのセンスがいいのね」と。
いや、夫が自分で選んだかもしれんやろ? 男性が自分で服を選ぶという発想は無いんか。
夫にも自分でおしゃれさせろよ。服選びが好きな男性だっているでしょ。
……とまあ、これはあくまで私が住んでいるド田舎での話なので、他の地域ではもっと価値観アップデートされているのかもしれない。けど、私の周囲はまだまだこんな感じ。
ここまで「夫の身だしなみ=妻の仕事」という考えが徹底してると、ある意味おもしろい。
清潔感や、身だしなみ。それは異性に対して求める最低ラインの条件だったりもする。
「イケメンじゃなくてもいいから、清潔感がある人がいい」
「美人じゃなくていいから、身だしなみはしっかりしててほしい」
恋活や婚活において、これらの言葉は、男女関係なく聞くような気がする。確かに身だしなみをしっかり整えている人は男女関係なくモテる。その身だしなみと清潔感が一番難しかったりもするんだけども。
男も女も身だしなみが整っている相手を求め、そして、自分自身も見た目に気を遣う。しかし、既婚者になった途端、夫の身だしなみは妻が整えていて当然、みたいな空気を周囲が押し付けてくる。
こんな空気は早いとこ世の中から消えてほしい。