編み物のお陰で世界が広がった 私は2年前までは無趣味だった。 家事と育児と仕事に追われ、自分が楽しむという事をしてこなかったと思う。 しかし50代中盤に差し掛かった頃、ふと老後が気になり始めた。 これからの人生を充実させたい!‼ 最後のお別れを迎える時に「我が人生後悔なし」と言えるようになりたい‼ と強く思うようになる。 そんな中、長らく続けていた職場を退職する事になり、今後どう過ごそうか?模索する事に。 ある日、何気なくパソコンを開くと、YouTube
最終話 アミコの目に焼き付いたもの 9年間お疲れ様でした!! 朝から私の顔を見るなり、他部署のスタッフが思い思いの言葉で別れの挨拶をしてくれる。 昼休みになると、私はセッカチさんに呼び止められ診察室に案内された。 そこには受付と看護の皆さんが勢ぞろいして、最後の挨拶をするために私を待っていた。 皆がこんなことをしてくれるとは想像もしていなかったので熱いものがこみ上げてくる。 「もう今日で本当に最後なんですね。アミコさんが辞めたら私を守ってくれる人はいな
第39話 立つ鳥跡を濁さず 院長との面談は3日後の昼と決まった。 退職時は院長から嫌味を言われるスタッフ・脅されるスタッフ・退職時期を大幅に伸ばされるスタッフがいる。 その反面、辞めさせたいスタッフが退職を申し出ると、簡単に受理され、最後は「今までありがとうね」と言われ、笑顔で見送られる。 クリニックを去った先輩からそう聞いていた。 脅されるのは嫌だが、ニコニコされるのもあまり気分が良いものではない。 勿論、どんな態度に出てこようが私のやることは決まって
第38話 アミコの反撃 アコガレクリニックを辞めると心に決めたものの、その先の道は決まっていなかった。 勿論退職する時期も決まっていない。 院長に嫌気がさしたとはいえ、9年間もお世話になっていた職場に迷惑をかけるわけにはいかない。 業務の引継ぎもある。 どうしたものかと悩んでいたある日、息子たちが将来について話し合っていた。 私は、若い二人の考えを聞きたいと思い会話に参加してみる。 「これからの時代は、フリーランスとして主体性を持って働く方がいいと
第37話 決定的な亀裂 コロナウイルスが完治して二週間ぶりに出社すると、周りのスタッフは温かく迎え入れてくれた。 私が休んでいる間は、シズカさんが業務の穴を埋めてくれていたらしい。 「アミコさんの有給の残りがコロナで休んだ日数ギリギリで良かったですね」 セッカチさんから意外な言葉をかけられる。 あらっ? 有給にしてくれるの? どうやら私が休んでいる間に、コロナで休んだ人の有給問題が勃発していて、スタッフ間でひと悶着あったらしい。 私は何の努力もせず
第36話 流行病 交渉の結果、社員からパートに戻ることが決定したものの、それまでにやらなくてはいけないことがあった。 新しく受付に加わった二人に業務を引き継がなくてはならない。 引継ぎが順調に進む中、クリニックではコロナ感染第一号が現れた。 リハビリ助手の学生さんだ。 その一週間後に理学療法士の一人が体調を崩した。 院長は、インフルエンザ検査キットとコロナ抗原キットを持たせ検査させたが、両方とも陰性だったため出勤を命じた。 しかし次
第35話 後悔先に立たず 年は明け。 出勤初日、私は「パートに戻らせてもらいたい」とセッカチさんに伝えた。 「やっぱりそう言われると思っていました。年末にアミコさんが暗かったから何かあったのかな?と思っていたんです」 気づいていたのなら理由を聞いてよ。 ”社員になった事を後悔させたくない”という言葉が頭に浮かぶ。 後悔しているよ! 大いに! あなたの言葉を信じていたのに。 こんな扱いをされると疑いもせずに。 だからこそ何故? と理由を尋ね
第34話 ボーナス 暮れになりボーナスの時期が近づいて来た。 パートから社員になるメリットの大部分は、有休とボーナスがもらえる事だ。 私は、ワクワクしながらその日を待っていた。 そんな中、院長から全体ラインが入った。 今回から、ボーナスは、各部署のリーダーたちがスタッフ全員の評価をし、それを参考にして院長が金額を決める。といった内容である。 ??? 何だこのおかしな内容は? これまでは、スタッフ全員が評価表の項目毎に自分で点数をつけ、部署リーダ
第33話 困る患者 整形外科に来院する患者さんは、主に痛みを訴えてくる。 骨折など急性的な症状の場合はある程度の期間で治るが、慢性的な痛みの場合は、すぐ治る事は少なく何年も通院する事になる。 お年寄りは毎日リハビリに来ている人が多い。 オープン以来ずっと通い続けている患者さんもいる。 患者さんからいただく感謝の言葉や励ましの言葉は、私の元気の源となっていた。 しかし困った患者さんに悩まされる事もあった。 例えば、待つことのできない患者さ
第32話 ワクチン打った次の日の有給は認めない? 私がパートから社員になる際に、半年経てば有給を10日もらえるという条件があった。 「社員になったら、アミコさんが有休をきちんと取れるように協力するから。休みの日が祭日と被ったら振り替えられるようにしてあげる」 社員になろうか迷っていた頃、セッカチさんから言われた言葉だ。 しかし蓋を開けてみれば、祭日の振り替えどころか、とてもじゃないが「有給休暇を取りたい」と言える状況ではない事が分かった。 そんな中、驚愕の
第31話 搾取の意味を知る パートスタッフが、コロナワクチンの予約が出来ないことを快く思っていないと知った院長とセッカチさんは、アコガレクリニックでもワクチンを打てるように保健所に掛け合った。 その結果これ以降のワクチンはスタッフ全員がアコガレクリニックで打てるようになる。 自院でワクチンを打てるようになったのは喜ばしいことだが、同時に患者さんに対してもワクチン接種を始めた。 それは想像を絶する大変な業務であった。 アコガレクリニックは、通常業務だけでも
第30話 コロナワクチンは人の心を汚す。 いよいよ医療従事者へのワクチン接種が日本でも始まった。 ところが、ワクチンをめぐってクリニックでちょっとした騒ぎとなる事件が起きた。 アコガレクリニックは医師会に加入していないため、医療の情報がなかなか入って来ない。 コロナワクチンも例外ではなかった。 医師会に入っている病院のスタッフは、自院でワクチンを打つか、優先的に医師会会場などでワクチンが早く打てるようになっていた。 医療従事者は、一般より早くワクチンを
第29話 飛んで火に入るサワヤカさん 「来るもの拒まず、去るもの追わず」 アコガレクリニックは出戻りスタッフを歓迎している。 ここを辞めて他へ転職したとしても「戻りたい」と言えば、院長は快く迎え入れてくれるのだ。 しかし、一旦辞めた職場に戻るのは容易な事ではない。 ある日、以前受付で働いていたサワヤカさんから私のところに連絡がきた。 アコガレクリニックに戻りたいという。 彼女は、ここを辞めてから、内科を三社、眼科を一社、整形外科を一社勤め、転
第28話 報われない思い 若い理学療法士が次々とクリニックを去っていく中、そのしわ寄せは一人の人物に集約された。 “やりがい搾取”の一番の犠牲者はこの人物かもしれない。 イケメン課長だ。 最近の彼は、傍から見て感じ取れるほど元気がない。 病院のために非効率なものは全て正す、固い意思のこもったぎらついた目は失われ、肩を落として手すりに寄りかかりながらため息を漏らす彼の姿は、以前を知る者が見れば非常 に物悲しいものだった。 彼と院長は、大学病院に勤務
第27話 ブラック企業の定義 病院勤務経験がなかった私は、勤めてからしばらくの間は何が良くて何がいけないのか判断出来ずにいたが、少し勉強するようになるとクリニックのブラックな部分が目に付くようになった。 例えば、患者への注射の準備は、看護師の資格がある人のみ行えるという決まりがあるのだが、資格もない学生が注射の中身を入れている。 レントゲンを撮れるのは、ドクターか放射線技師だけのはずなのだが、アルバイトの学生や看護助手が時々やらされていた。 本人たちも違法だと
第26話 ウイルス感染対策は必要ないの? 社員になって間もなく、中国武漢市でコロナ感染者の報告が上がった。 それを追うかのように一か月後には国内でも、最初の感染例が確認される。 クリニックでは、この未曾有の事態にどのように対処していいのかわからず、右往左往しながら情報に振り回されていた。 緊急事態宣言が始まると、三蜜にならないようにと、人々が外出を避けるようになり、アコガレクリニックも患者数が25パーセントほど減った。 診察は避け、処方箋のみで来院