17 未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!
<2章:レエリナサウラと秘密結社>
No.46 ガッシュクロース公爵夫人の手紙(牡丹&琴乃)
間宮琴乃は、私を柱柱にくくりつけていた縄を解いてくれた。
「大丈夫?」
私に優しく声をかけて乱れた振袖を素早く整えてくれた。
「本当にお美しい振袖ね。」
それから、髪も整えて私の頬を濡らしていた涙も拭いてくれた。
私は申し訳ないと間宮沙織に頭を下げて、平謝りした。
「あなたを拉致してきてしまい、本当に申し訳ないです。」
「沙織と間違えたのね。」
間宮琴乃はそう言うと、私の顔をはたとみて言った。
「話してくれないかしら?何が起きているのか。」
「これが、ガッシュクロース公爵夫人が文官に渡した手紙よ。」
私は、間宮琴乃に、黒薔薇の刻印が押してある手紙を見せた。
「ガッシュクロース公爵夫人?」
間宮琴乃はいぶかしげに見つめる。
私は兄に危うく犯されそうになったことの憎悪から、琴乃に全てを話すことに決めた。兄には今後一切協力しない。協力するフリすらしない。私が協力しなくても兄は理由を悟っているはずだ。胸を触られた。揉まれてはだけてしまった着物をきちんと正す。兄は着物の裾を割って膝を入れてきた。私が抵抗につぐ抵抗をしなければ、何が起きていたかと思うとゾッとする。
私は絶対に負けない。あいつは獣だ。血が繋がっていなくても、あってはならない犯罪だ。犯罪について貴和郷一族が語れないのは私だって自覚がある。でも、それとこれは全く別物だ。
私は犯罪に一ミリも手を染めない。私は父とも兄とも違う道を歩む。そもそも、今回の兄の気色悪い趣味には、反吐が出るほどの嫌悪感がある。
今後、私の体には私の承諾なしに誰にも指一本触れさせないわ。当たり前だ。
私が忍びとしても最高レベルに強くなるよう教育を受けた力の全てを、こういった反吐が出るほど不埒なやからを地球から成敗するために使ってやるわ。兄には二度とこんなことができないようにしてやる。
「ぜんぜん、何が書いてあるか読めないわ。」
間宮琴乃はその手紙を見てつぶやいた。
私は琴乃に話し始めた。まずは、父が心臓発作を起こして亡くなるきっかけになった手紙からだ。
◇◆◇◆
黒のネットワークという隠語がある。とある秘密結社を指す。マブリマギアルナアブロッシュ。
1512年の秋のある日、ガッシュクロース公爵夫人は、文官に手紙を託した。黒い薔薇の刻印を押して、蝋で封をしている。それには、とある指示書に対する回答がしたためられていた。黒のネットワークの秘密要員同士でやりとりするものだ。
「黒よ。大至急、大公までお願い。」
文官は、一目見るなり、静かに頭を下げて辞した。速やかに馬を走らせて手紙を運んだ。
◇◆◇◆
「何?黒のネットワークって・・・」
琴乃は何のことかわからない様子で私に聞いた。
「黒の秘密結社よ。数億年前の地球で始まった秘密結社よ。中世ヨーロッパを起点としているわ。あ、人間の3週目の中世ヨーロッパの方ね。」
「御意」
「黒の秘密結社は、中世ヨーロッパを起点として各時代、各国に脈々と細く長く強靭なパイプを築いていたのよ。そのネットワークは、信じられない強さで網目のように伸びているわ。」
「それは伸びに伸びたあげくに、現地球を支配する私たち忍びの世界にまでもつながっているの。間にあるのは数億年の時空よ。」
私は琴乃に話し始めた。琴乃は真剣な表情で聞いている。
「つまり、大昔の悪い組織が時空を超えて私たちの時代にまで影響してきているのね。それはわかったわ。」
琴乃はうなずいた。
「一方で、黒のネットワークに対して、赤のネットワークというものも存在しているのよ。」
「赤?」
「そう、赤は我々の時代に広がっているネットワークよ。」
「赤のネットワークは、人間が滅んだ後の地球で栄華を誇る「忍びと恐竜」時代、つまり現在を起点とする秘密結社よ。」
牡丹はそう言ってため息をついた。
「そして、我が貴和豪一門のトップは、赤のネットワークの一員なのよ。特権階層で強烈なネットワークを築いている。」
牡丹は気だるそうな表情でゆっくり言った。
「あなたの可愛いい妹さんを狙っているのは、中世ヨーロッパを起点とする黒ネットワークの秘密結社の方よ。妹さんの命を狙っているわ。」
「な、なんで沙織がそんな目に・・・・」
琴乃は絶句した。顔が青ざめている。
「でね?黒の奴らに乗じて帝の抹消を狙っているのは、我が赤ネットワークの秘密結社側よ。」
「まあクーデターね。わたしは賛成できないんだけど。」
赤の密書には「赤いボタンの花」の刻印がある。「赤いボタンの花」は赤の象徴であった。
あの日、私(貴和豪牡丹)の父がショックのあまりに亡くなった日、貴和豪本家に届けられた手紙は、ガッシュクロース公爵夫人の出した黒薔薇の刻印がされた手紙だった。
貴和豪一門の忍びの中でその手紙の文字を解読できたのは、私の父、それにもう一人。その娘の牡丹、つまり私だ。
私の兄はその中身を解読できなかった。私(貴和郷牡丹)は、幼き頃から、「黒と赤のネットワークを繋ぐもの」として、育て上げられた一門の中でも特別な忍びであった。
「これが、ガッシュクロース公爵夫人が文官に渡した手紙よ。」
私は、間宮琴乃に、もう一度黒薔薇の刻印が押してある手紙を見せた。
「やっぱり、何が書いてあるか全く読めないわ。」
間宮琴乃はその手紙を見てつぶやいた。
「でしょう?兄にも解読できなかったのよ。私も解読できないフリをしたわ。」
「で、一体全体、なんて書いてあるのかしら?」
「そこには、妹さんが何をしたのかが書いてあるのよ。」
No.47 貴族の社交会 舞踏会で舞う淑女の記憶(1)沙織
私の恋紅色の髪は、今の地球では珍しくはない。
その日、私はゲームで中世ヨーロッパに召喚されていた。
この話は、誰にも話したことのない『私の懺悔』であり、心奥深くにしまっておきたい過ちの話である。
ゲームに参加して、ひとしきりプテラノドンとして飛んだ後に、私は賑やかな王都を探索していた。
色鮮やかな出店が立ち並び、何かの芳しい香りが漂い、最初のうちは私は物珍しさも相まって、夢中で歩いていた。
けれでも、何かの拍子にふと気づくと、寂しい通りに入り込んでしまったらしいことに気づいた。
まずい。そう思って元の賑やかな通りに戻ろうとしたのだけれども、突然、柄の悪そうな男たちに取り囲まれてしまった。
「助けて!」
思わず叫んだが、誰にも聞こえなかったらしく、誰も助けには来なかった。
私は手裏剣を使って、なんとか男たちを追い払って逃げようとした。
しかし、かなりの集団で襲われてしまい、袋小路に入った所で完全に追い詰められた。
しまった。
私は目の前が真っ暗になるような落胆を感じた。頭が熱くなり、息荒く肩をする。なんとかこの危機的状況を脱しようと考える。
早くゲームの解放が始まって欲しいと祈ったけれども、まだゲームは続行中のようだ。
「ジョリーナ!」
その時、通りがかった男性が大声で私に声をかけた。
その紳士は、偶然通りかかり、男たちの集団に金貨の袋を投げて私を救いだしてくれたのだ。
「君は、随分と奇妙な格好をしているな。」
そう言って紳士は馬車まで私を運んでくれた。
紳士が私のことをジョリーナと呼んだこととは覚えている。襲われて頭を打っていたことと、空腹のあまり何時間も空を飛んだ疲れで私は気を失った。
目が覚めた時、私は天蓋付きのベッドに寝せられてドレスのような寝巻きを着せられていた。
「え?ここはどこ?」
私は目を開けた瞬間、自分がいる場所が実家でないことに気づいた。しかも、寺子屋時代から習った地球に関する記憶が指し示すのは、人間の貴族の館にいるようだという点だ。
まだ中世ヨーロッパからゲーム解放されていないのだ、そう私は思って落胆した。
No.48 貴族の社交会 舞踏会で舞う淑女の記憶(2)沙織
「さあさ、ドレスに着替えて。」
私は、とある一族の館にいた。だいぶ後の世に、黒い貴族と呼ばれる一族の館であった。
たいそう豪華なドレスを鏡の前でゆっくり着付けられる。髪も結いあげられる。首にも宝石がついたネックレスをつけられる。
「ジョリーナ、素敵よ。あなたの赤い髪は本当にこのドレスに生えるわ。」
召使いも紳士も皆々が口々に私をほめそやした。
私にそっくりの娘が数ヶ月前に病死したらしく、紳士の妻とその母は失意のあまりに気が触れそうにまで憔悴しきっていた。
最初に私を見た紳士の妻は、私を娘だと思い込んでしまった。私は自分の正体を明かせない。また、なぜかゲーム解放もなく、颯介からの呼び出しもパタリとなくなり、食べるものもなく、寝るところもなく中世ヨーロッパに放り出された状態だった。
結局、私は誘惑に負けてしまった。こんなに都合の良い話があるわけがない。私を運よく娘と思うなんて奇跡のようなものだ。
「できません。」
何度も紳士に断った。
私は断ったけれども、紳士に頼み込まれて最後の最後に、この奇跡のような話を引き受けてしまった。娘の祖母が私を見ておいおいと泣くので、その様子に断れきれなくなったのもある。けれども、本来であればお断りするのが正しいことだと頭の中ではわかっていた。
「今日の舞踏会はずっと楽しみにしていたんだから。」
そう娘の母親と祖母に言われて、私は娘のために仕立てられた豪華なドレスを着せられた。
そして、事件のあった舞踏会に参加したのだ。
事件は、この煌びやかな貴族の舞踏会で私がとある男性に求婚されたことで始まった。王家の息子だった。
「結婚していただけますか。」
「え!」
この時点で私は何かがおかしいと思うべきであった。都合が良い展開が続いている。ありえない展開だ。王子は私に迫ってきた。
挙句の果てに、私はドレスを脱がされそうになった。
そして、ことは起きた。
この夜、王家の息子は暗殺されるはずだったことが、このあと分かったのだ。
しかし、忍びの私は、その王子を忍術で救ってしまい、暗殺を阻止してしまった。華麗に手裏剣を使った。術も使った。武力ももちろん使った。
連続回転で空中を舞い、相手に飛びかかり、素手で技を決める。壁も走り、屋根も走り、敵を本気で成敗しようとしてしまった。忍びの本気を見せてしまった。
「なぜお前は邪魔をする?」
敵はそう叫んだ。
どうやら、私は王家の息子を誘惑し、王家の息子とともに葬り去られるはずの娘として送り込まれていたようだ。
この現場を目撃したのは、暗殺を仕掛けた側だ。私がどうやって暗殺を邪魔したのかを目撃されてしまった。
もっとも最悪だったのは、暗殺を阻止し終わった時に颯介からの呼び出しがきたのだ。私は誰も見ていないと思い、そのままプテラノドンになりきる術でなりきって飛び立った。
もしかしたら夢ではないかと何度も思ったが、実際に起きたことで間違いない。
私はこの話を帝にしなくてはならない。きっとお叱りを受けるだろう。許してくれないであろう。
貴和豪一門の忍びに命を襲われたときに、私は悟ったのだ。引き返せないし、取り返しがつかないことを私はしたのであろう。
私は歴史を変える行動をとった。禁断のゲームに参加して、忍びと人間が関わっただけでなく、私はしてはならない行動をとったのだ。
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