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35.【読書と私】④死刑について:平野啓一郎著/赤の他人の言い分について思索した
GWに入る最中、重いテーマかもしれませんね。連休中には「憲法記念日」という日もあるし、日頃意識に上がりにくいことを考えてみるのも、ありか思ってあげてみます。よかったらお付き合いください。
動機
私の中の「平野啓一郎フェア」2冊目です。この本を読もうと思ったのはこちらの記事が契機です⤵
私の平野氏著書の読書歴は、「本の読み方 スロー・リーディングの実践」に続いてこれが2冊目です。小説家に対して、小説から入らないスタートになりました。さらっと読み進められる文章で、あとがきを見ると講演記録をもとに、再構成、加筆・修正を行ったものでした。語り口ゆえの入りやすさだったのかな。
著者 平野氏について
本書は自己紹介から始まっています。法学部出身の作家です。医学部出身の作家さんは幾多といますし、辻村美月さん(最近読書したので)は教育学部卒。平野氏は「文学部出身の作家ではないという引け目がありましたが、…」と書き出していました。バックグラウンドがある方は自ずとそこに寄せられていく感じがします。
旧Twitterの投稿も見ました。note然り、公式メールレターもあったりと、発信、自己開示が多い方ですね。現代の作家の活動スタイルか、文筆活動としていろんなことが派生していくのは必然か。本を読んでいくと、「話するのが好き」ともみかけたので、多様な発信方法を好んで駆使できるのは、まさに氏が提唱する「分人」たるところでしょうか。(「分人」に関する本は後日あらたに読みたいと思っています)ご本人に関した記述では、「北九州市出身」とあり、私的にちょっと縁が出来た時期だったのも奇遇なものを感じました。尚、この書籍は博多で購入し読み始めました。(北九州市の書店さん、ゆかりの作家の本揃えていてくださいね。)
わたし的ポイント
読書感想(のようなもの)を書く時、どこまでがネタバレになるのだろうと悩ましいです。あまり内容の本質に触れないで、自分の思いを書きたいと思いながら、それでは、本のこと伝わらないだろうなと思ったり。
でも、今回は骨組みに触れるのかなと思いながら、わたし的にポイントとなったところを挙げたいと思います。
・平野氏が死刑制度についての立場を転向したこ
と、その流れ
・死に対する立場<自分の死><近親者の死>
〈赤の他人の死>
・「なぜ人を殺してはいけないか」を納得させる
根拠
・最高刑が意味するところ
・世界の潮流 死刑制度を廃止するのは
政治的判断
議論がむずかしいテーマだけに、その人がどういう立場であるかという
ことは大事な視点と知った上で、気になった存在が「赤の他人」でした。
赤の他人が言うこと
平野氏が死刑制度を必要と考える「存置派」に近い考えだった時に、反対派の立場で主張する友人の意見に<赤の他人の死>として他人事で捉えていると反発を覚えていたという記述がありました。
死刑に関したことばかりでなく、当事者が言わない、言えないでいるのに、赤の他人が、責任もない他人事だからか、煽動するように、居丈高になり言うことはあると思います。ネットでの誹謗中傷なんかも一つ。そこに正義感というのが含まれているからまた厄介で。何か一つの立場でしかとらえない人ほど声高々に言って、対する意見の人を口ごもらせてしまう。そして、傍観するしかない者を含めてそれがどこか大勢になると、何か厳しい見方しかできない世界が膠着するような。「赤の他人がとやかく言うな」とまた赤の他人の立場で言うつもりはないけど、「赤の他人」の時ほど、視点を多く持ち自分に問いかけて考えることが必要なんじゃないかと思う。
昔気に入って、手帳に記していた詩が重なって浮かびます。
一部引用します。(検索したら出てます)
…(略)
遠くのできごとに人はうつくしく怒る
(おれはそのわけを知っている
吹いていった風)
近くのできごとに人は新聞紙と同じ声をあげる
(おれはそのわけを知っている
吹いていった風)
…(略)
遠くのできごとに
立ち向かうのは遠くの人で
近くのできごとに
立ち向かうのは近くの私たち
(あたりまえの歌を
風がきいていった
あたりまえの苦しさを
風がきいていった)
今後の展望
完全な総意を得られるような問題ではないから、今後進んでいく道として期待されるのは「政治的判断」。そのためにも赤の他人ならぬ民意の広がりが必要でしょう。考える材料として、巻末には付録として世論や統計データが添えられています。その後どうなったか、ネット調べですが追加して加えておきます。
このデータを見てどう考えますか?
(1)死刑廃止国と存置国
(2020年12月31日現在)
◇すべての犯罪に対して廃止:108カ国
↓
(2022年12月31日現在)
112カ国
◇通常犯罪のみ廃止:8カ国
↓
9カ国
◇事実上廃止:28カ国
↓
23カ国
法律上・事実上廃止:144カ国
↓
144カ国
2023年にはさらに、ガーナ共和国、ザンビア共和国が事実上廃止から廃止国となっているようです。
◇存置国:55カ国(日本含む)
↓
55カ国
廃止国増も、事実上廃止国から移行したという見方もありますが、それだけ ゆるやかに進んでいくしかない案件ではあるのか。まずは、事実上廃止の道からなのか…。ちなみに、「事実上廃止」の年数は10年以上、日本について言うと、巻末資料からは2020年0ですが、2021年は3とありました。検索すると、2022年1、2023年3年ぶりに0と出ています。
また、別記事でも触れましたが、この本の中で「優しさ」について触れられているところが私は好きです。INFJ的なところかもしれません
が、罪は罪として、でも罪に至るまでの過程、環境因などは気になるところですし、被害者家族のその後も気になるところです。「本当の優しさ」
って何だろうって思いながら、罪を犯してしまう道を防げるように、救いや赦しがあるようにと祈るような気持ちになります。
ここまで書いて、結局、私の感想ってなんか観念的に流れてしまってるなと反省です。最近読書感想の記事を書く際、ついつい他の人の記事を見ています。(最初は書き終えてからみようと思っていましたが、途中でつい見るようになってしまいました。別にマネようとかではないんです。)
そしたら、自分よりか具体的によくまとめられている記事を発見したの
で、勝手ながら引用させていただきます。⤵
「無知は罪である」という言葉もあります。知り得たことで、少しでも周囲の人に優しくあれる存在になれたらと思います。「風」の詩に出てくるような声を上げてないようにと自戒をこめて(了)
追記:R6.6.23
新聞の書評で『かくして、死刑は執行停止される』菊田幸一著 作品社 2640円
が出てるのを見ました。書評の中に
89年に死刑廃止条約を採択した国連から、日本は、死刑廃止に向けて努力するようにという勧告を受けている。しかし、政府は世論を理由に「廃止」は時期尚早とかわしてきた。
また、3年間にわたる死刑執行停止が実現した後、
93年再び死刑執行がなされ、
この頃から菊田は、死刑廃止を実現するには、つまり、まず執行停止状態にするには、現状から一挙に制度の廃止を求めるよりも、代替としての終身刑の導入を促すのが近道ではないかと考えるようになる。
とありました。政府の理由にされる世論って⁈
また、菊田さんの考えには、『死刑について』にあった 死刑そのものを求めるのでなく「極刑」を望む被害者家族の思いが重なって、『死刑について』を導入として読んでみたい一冊。積読リストとしてここに記載しておきます。