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58.【読書と私】⑭ある男/平野啓一郎:小説という技法で人生が詰め込まれてる

平野啓一郎の作品には、後期分人主義小説という括りがあるようで、その中の『マチネの終わりに』 『本心』は読んだ。そして、二つの作品の間にあって、なんとなく飛ばしていたようだった『ある男』を読み終えた。平野氏の作品と知る前に映画の予告で知っていた作品。

映画の予告でも耳にした“愛したはずの夫は、まったくの別人でした”のフレーズにあるように、

ある日突然夫が自己で命を落とす。悲しみに暮れるなか、「大祐」が全くの別人だという衝撃の事実が…

文庫本あらすじより

と、先が気になる内容でもあり、休む間も惜しんで読みすすめられた。確かに面白かった。だけど、先の二つの作品に対して、どこか盛り込み過ぎな感じはあった。他の方の感想文を見ても同様のことをみかけた。

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小説を分類するとしたら、恋愛小説・ミステリー小説・歴史小説・SF小説…とジャンル別の分類があるが、他に小説を書こうとして書かれたものと、小説という方法で何か伝えたいものとあるようにも思う。それらが混在しているというのもあるだろう。

以前に『死刑について』を読んでいたことは、この作品を読む中で背景が感じられるところもありよかった。盛り込まれたことに対しての必要性は十分に感じられた。しかし、それ以外にも、夫婦間にあること、ルーツに関したこと、親子、子ども目線のこと、物語…本当に表現を選ばなければ、ごった煮のようでもあるが、一つ一つの素材が丁寧に下ごしらえされているので、ぎりぎりのところで纏まっている。もう、飽和すれすれに近い状態。

なんで、ここまでなっているんだろうと思うと、小説のベースとして、少なからず自分の生き方って反映されるものだと思うが、この作品結構自叙伝的な部分が多いのではないかと想像された。だから、よく著書の中に出てくる「醇化」がされきっていないようで、私も性急に読むところがあったからかもしれないけど、これまでの作品に比べて「誤読」が生じやすいような文を度々感じた。

でもいい、そういうところも、平野啓一郎にして発展途上なんだと感じられて。実際、この後の『本心』は、文章がすっきりとして構成ともに完璧な仕上がりになっていたようにも思う。

ということで、タイトルの『ある男』って誰のこと?と思いながら、この小説をベースに、なかなか豪華なキャストで創られた映画の方も改めて観てみたいと思っている。映画の予告の時には、そこまで思わなかったんだけど、小説と映画の対立しない共演が成り立つなら、見てみたいという願いで。

         平野啓一郎(1975ー )
         『ある男』2018
 
📚他の読んだ本
『本の読み方/スロー・リーディングの実践』2006/2019
『私とは何か「個人」から「分人」へ』2012
『マチネの終わりに』2016
『本心』2021
『死刑について』2022




 

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