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第147話 AV撮影の裏側〜『社交ダンスNTR』パッケージに込められた執念
小麦粉を使ったパッケージ
「8月に撮った『社交ダンスNTR』のパッケージ、小麦粉のやつになりました」
私が専属しているAVメーカー『マドンナ』のプロデューサー、岩永さんが言った。
「ほんまですか!?」
それを聞いて驚きと不安が半分ずつ。小麦粉のパッケージが良い感じに撮れた自信はなかった。
そして今年の1月。マドンナのXで『社交ダンスNTR』の情報が公開された。例のパッケージをドキドキしながら見る。
笑ってしまった。
「かっこ良いやん!」「綺麗に仕上げてもらって嬉しい!」の気持ちはもちろん。だたそれ以上に、岩永さんの意地と執念を感じたからだ。
———努力は報われる。
少し違う気もするが、なんとなくそう思った。
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そもそも小麦粉ってなに?
皆さんはそう思っただろう。私と男優の背後に散っている白いモノ。それが小麦粉なのだ。
なんだ、そんだけか。
まあそう思わないでくれ。このパッケージ撮影が、いかに異様で滑稽だったかを語らせてほしい。
暑くて熱いAV撮影だった
2024年8月9日。朝からうだるほど暑く、天気予報は最高気温37度と報じていた。撮影現場は体育館やプールなどがある4階建スタジオ。そこは「夏は暑く、冬は寒い」で有名だった。空調は備わっているが、建物の構造上、よく効かないらしい。
そして撮影は始まりから難儀した。
1回目の絡みのシーンを撮っている時、私は途中で目眩を起こし、手足が痺れ、動けなくなった。暑すぎて。
失神するってこういうことか・・・・・・
なんて思いながら、正常位でグデグデになったのを覚えている。視界には本当に星が飛んだ。
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そして午後、1日の中で最も暑い時間に、熱いパッケージ撮影が始まった。場所は体育館。空調なんて効くはずがない。小中高校の夏の体育館を思い出してほしい。どう工夫を凝らしても、暑さは避けられない。
私はキラキラした赤の衣装を着て、男優のトニー大木さんと位置についた。体育館の2階にはカメラマンの三浦さんと、マドンナプロデューサーの岩永さん。私たちを頭上から撮るのだ。
この時、最も過酷だったのは岩永さんと三浦さんだろう。物理的に暖められた空気は上昇する。つまり被写体の私たちがいる1階よりも、三浦さんと岩永さんのいる2階の方が、気温が高くなる。
「良い感じです。一度確認します」
1時間ほど撮ると、撮影終了の兆しが見えた。岩永さんと三浦さんが2階から降りてくる。2人はまるで茹で上がったゾンビのようだった。ダラダラの汗。フラフラの足取り。しかし暑さと必死さで、目だけは血走っている。
岩永さんは穏やかな人で、芸人の和田まんじゅうにそっくり。三浦さんは冷静で、ラッパーの小林勝行と少し似ている。そんな2人が珍しく、異様なハイテンションになっていた。
「現場のセッティングを変えます。少し休んでいてください」
あ、まだ撮るんや。
内心そう思った。
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マドンナプロデューサーはこだわった
数分後、体育館の一角に2畳ほどのブルーシートが敷かれていた。三浦さんは脚立にのぼり、カメラを構えている。
「もう十分撮れたんですが、あと少し、チャレンジをさせてください」
岩永さんが言う。
「背後に小麦粉を撒きます」
ギンギンな目が訴えてくる。
分かりました。その本気に乗っかりましょう。
私たちはポーズをとる。左右からスタッフが、両手いっぱいの小麦粉を放り投げた。三浦さんは素早くシャッターを切る。岩永さんは撮った写真が映し出されるパソコンモニターで画を確認し、さらに私たちに指示を出す。
舞い散る小麦粉。
止まらない汗。
容赦のなく暑い体育館。
そこにいる人みんながハイに、そしてバカになっていた。ただきっとみんな思っていた。
———意地でも良いパッケージを創りたい。
「小麦粉がなくなりました!」
30分ほど撮ったところで、誰かが言った。
ああ、これでやっと終われる。
そう安心したのは私だけではなかっただろう。男優のトニー大木さんも「お疲れ」と安堵のため息をついた。
しかし岩永さんは満足がいっていない様子。静かな時間が流れる。
———「もう一袋ありますよ」
恐ろしい一言が聞こえた。
戦慄が走る。
パケ撮はまだ続くんか。V撮はまだ3分の2残ってるで。今日、乗り越えられるかな・・・・・・
絶望と不安に駆られる。すると、
「僕たちはもう一袋ないです!」
トニー大木さんの声が体育館中に響いた。
わっと笑いが起き、空気が変わった。岩永さんと三浦さんも徐々に笑顔になる。憑き物が落ちたような、神から赦しを与えられたような、清々しい顔になっていく。
「きっと良いのが撮れました。ありがとうございました」
血走ったゾンビが、穏やかな岩永さんと、冷静な三浦さんに戻っていた。
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そんなこんなで撮り終えたパッケージ。正直、小麦粉の写真が採用されるとは思っていなかった。私自身「いつまで撮るねん」と疲弊していたし、それが顔に出ていることも自覚していた。
しかしどうだろう。完成したパッケージ。虚ろな目。不貞腐れた口元。疲れが顔に出ている自分を肯定するわけではないが、作品に合った良い表情をしているではないか。演者の表情を内側から作っていく、熟女ナンバーワンAVメーカー『マドンナ』、恐るべし・・・・・・。
AV業界はあくまでも女優ファーストだ。その思想を守るために、事務所やプロデューサー、監督、カメラマン、制作スタッフが、自分の感情をおし殺す場面は多々あるだろう。女優は良くも悪くも気を遣われる。おかげで守られてもいるが、みんなの腫れ物にだってなりかねない。徹底した女優ファーストを少し寂しく感じる時もある。
だから今回の撮影は、岩永さんが自分の創りたいものをぶつけてくれた気がして嬉しかった。そして最後にチャレンジした写真が採用され、結果として残せた気がした。
———努力は報われる。
岩永さんの執念と、そこに乗っかったみんなの踏ん張りが報われた作品になったと思っている。
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