第124話 京都の海宝寺トークショー【住職×AV女優×芸人】(前編)
「藤かんなさんです、拍手でどうぞ!」
中島みゆきの『ファイト!』が流れる中、壇上へ上がっていった。
2024年11月2日、京都の『海宝寺』で行われたイベントに参加した。そして「坊主と坊主とAV女優のトークショー」というタイトルで、海宝寺の住職・荒木さんと、お笑いコンビのヤング・寺田さん、そして私の3人でトークライブをした。(以下、敬称略)
住職が「AV女優募集」の番号に電話した
寺田:この曲は藤かんなさんの本、『はだかの白鳥』の中にもありましたよね。僕は文脈も覚えてますよ。藤かんなさんがネットで炎上して、その時に事務所の後藤社長が「これでも聞いて落ち着いとけ」って言われたのが、この『ファイト!』なんです。
荒木:僕、本は何回も読んだんですけど、全然覚えられてないんですよ。
(荒木、付箋のたくさんついた『はだかの白鳥』を見せる)
寺田:かんなさん、足崩されたらどうですか?
藤:仏さんの前で股を開くのもどうかと思うんで、しばらくは正座でいせてもらいます。
寺田:これって股開くって意味やったん!?
荒木:ちゃいますよ! 座禅です、座禅。
(会場笑い)
寺田:じゃあ何の話からしていきますか。なぜ藤かんなさんをこのイベントに呼んだかというところからいきましょうか。
荒木:ヤングさんと誰かのトークショーとか、面白いんちゃうかって言ってたんですよ。でもこのイベントの主催者として、どこかで僕も出るべきだってなって、思いついたんです。ヤング寺田さんと僕と、AV女優組み合わせを。坊主と坊主とAV女優のトークショー。そこで、僕はこの通り京都なので、近くにAV事務所ないかなと思って、探したら、関西に1つあったんですね。それがエイトマンさん。
寺田:これね、実は1個しかないんですよ。
荒木:そうなんです。僕、AV事務所には全然詳しくないんですよ。見るのは見ますけど・・・・・・
(会場笑い)
寺田:なんで引け目感じてんねん。大丈夫やん。
藤:健全です。
荒木:でも抜いてきてないんで、大丈夫です。
藤:抜いてないんかい。
(会場笑い)
寺田:藤かんなさんで抜きました?
荒木:え、あああ、ええ!?
寺田:え、見てないの?
荒木:見ました。見ました。抜きました(焦)
(会場笑い)
藤:おふたりはどの作品を見られましたか?
寺田:僕はそりゃデビュー作です。本に書いてたしね。
荒木:僕は・・・・・・藤さんは、ほぼ寝取られてますよね?
藤:寝取られ、人妻、不倫がほぼですね。
荒木:僕はその寝取られのどれかを、拝見させていただきました。
藤:ありがとうございます。
(会場笑い)
寺田:それで話を戻しますが、荒木さんは藤かんなさんを知っとったんですか?
荒木:Xで炎上された時に名前は知って、何となく覚えとったんですよ。それで、エイトマンのホームページ見て、「AV女優募集」って書いてある電話番号に電話しました。
寺田:寺の住職がAV女優になりたいみたいになっとるやん。
(会場笑い)
荒木:そうそう(笑)。「誰か喋れる人いませんか?」って電話したんです。その電話に出たのが、事務所の社長の後藤さんだったんです。
寺田:社長直通なんですね(笑)
藤:どうなんですかね(笑)
荒木:海宝寺と名乗って、イベントの説明をして、トークショーにどなたか出てもらえないでしょうかってお願いして。後藤さんもびっくりしてはりましたね。
寺田:そらね(笑)
荒木:「うち、露出の多い女優ばっかりですけど、大丈夫ですか」って言うてはりました。僕も「重々承知しております」と。それで後藤さんから「藤かんなが良いと思います」と返事をいただいたんです。
寺田:「藤かんなさんにお願いします」じゃなくて、「誰か喋れる人いませんか?」ってのが若干失礼ですね。
(会場笑い)
荒木住職『はだかの白鳥』を語る
藤:『はだかの白鳥』を読んだ感想とか、印象に残った部分を教えてください。
荒木:それはめちゃくちゃあります。
(荒木、付箋がたくさん貼ってある『はだかの白鳥』をパラパラめくる)
寺田:住職がその分厚さの本もったら、教本にしか見えへん。
荒木:ジャバラ開きやったら良かったな。
(会場笑い)
寺田:この会場に、この本を読んだ人いますか? おー、結構いますね。読んだ人はきっと、後藤社長に会いたいと思うんちゃうかなと思うんです。俺はそう思った。「こんなかっこいい男がおるんかい!」って。本の中で、藤さんがAV女優になってから、会社やめさせられたり、バレエ教室やめさせられたりするんすよ。そこに後藤社長が出てきて、藤さん以上に怒ってくれるんです。「そいつらが何も分かってへんねん!」って。それで藤さんの心が楽になる。そんなことが書かれてるんです。
荒木:本読んでから、僕もずっと後藤社長に会いたかった。
(会場笑い)
藤:読んでくださった方、みんなそう言います。この本の中の人気キャラクターナンバーワンは後藤さんなんです。
荒木:そうでしょうね。あと僕は、第1章がものすごく胸にきました。
寺田:第1章は藤さんがAV事務所を面接に行く内容で、これまでの過去を振り返ったりするんですよ。で、第2章からは撮影のプレイの話になるんですよね。
荒木:大阪大学の大学院を出られて、上場企業に就職されて。その女性が、救いを求める形でAV業界に入るまでの過程、その葛藤。そして実際にデビューするまでの心情。そのリアルが、第1章、ものすごかったんです。
藤:就職する時は夢いっぱい、やる気いっぱいでいたけれども、30歳を迎えるあたりで、私、活躍できてないな、とか。もっと活躍したいけど、そこまでの実力がないもどかしさ、とか。きっと皆さんも感じたことがあるだろうモヤモヤを感じたんですね。このままこの会社に勤めてて良いんかなって、思い始めた時に、後藤さんに会ったんです。それまでAVは見てたし、興味あったし、好きやったけれども、それよりまず「この人と仕事してみたい」って強く思いました。そんなことが第1章に書かれています。
荒木:その後藤社長に会う前の葛藤がね。今が苦しくて性に逃げた。僕はそこがグッときたんですよ。
寺田:そこ良かったっすね。会社の男の人とやりまくってたんですよね?
藤:人間らしいでしょ。
(会場笑い)
寺田:しみけんさんとの初プレイの時に、「何も断らなさそうな顔だね」と言われたと。そこ、俺は自分が言われたらどうしようかなと思った。
藤:私の立場なんや・・・・・・(小声)
寺田:そこから藤さんが昔を思い出して、会社でも男に誘われたら全部ぽいぽい行ってたなって振り返るんです。この場面がむっちゃ良かった。
藤:しみけんさんは「何も断らなさそうな顔だね」ってネタっぽく言うけれども、すごい紳士な方なんです。皆さん、AV業界をどう思われてるか分からないですが、ちょっと良くないイメージ持ってませんか? 私自身、AV業界に怖いイメージがありました。でもいざ当事者になると、普通の会社よりずっとクリーン。厳密にルールを決めていて、女優を守ることを1番優先して撮影をしているんです。変な業界と思われがちだからこそ、潔白を徹底してる。本当に驚いた部分でした。
後藤社長に惚れる
荒木:救いを求めて性に逃げて、彼氏にフラれて大泣きして。そこからAVに行ったと言うのは、あまりにもぶっ飛んでるなと思ったんです。なんぼセックスが好きでも、いくらそれを自分の武器だと思っても、そこからAV女優になろうと思えるのはすごいなと思ったんです。その期間の葛藤とか、なかったんですか?
藤:意外と全くないんです。逆に、AV女優になるぞとなって、エイトマンの門を叩いてからの方がありました。なぜ全く葛藤なかったのか。これは今も不思議なところです。
寺田:「これやな!」って降りてきたんですか?
藤:そう、降りてきた。そこで出会ったのが後藤さんだったんですよね。面接で完全に気持ちを持っていかれました。
荒木:いやぁ、あの人は惹かれますよね。
藤:後藤さんと初めて会った時、「何でこの事務所は大阪にあるんか」って聞いたんです。私も不思議に思ったので。
寺田:AVの撮影は全て東京でやるんですよ。だから他も事務所はみんな東京にあるんです。
藤:そしたら後藤さんは「東京でやった方がもちろん効率的やけど、自分は関西で出身で、関西から日本一を取ると決めた。みんながありえないって思うことをやる。それが1番かっこいいやろ」って言ったんです。
荒木・寺田:熱いな・・・・・・
藤:その熱さに惹かれたんです。泥臭くて、熱い。そういうのを会社に入って日々に忙殺されるうちに、忘れてたなって気付かされました。
寺田:企業の面接の時に「私は1番をとりたいです」って言っていた気持ちは、なくなっていたんですか?
藤:会社員3年目くらいでなくなっていました。3年目って1つの山場じゃないですか。残業は多い。体も心もしんどくなってくる。上司からは「それがサラリーマンやで」と言われ、受け止めていかないといけない。でもしんどいなぁと思っている時に出会ったのが、野心の塊のような後藤さんでした。
「AV女優は出家」を語る
寺田:この本の中で一番カッカなるところは、4章だと思うんです。AVがバレて、通っていたバレエ教室を辞めさせられるところ。めっちゃムカつきながら読みましたよ。バレエ教室のおばちゃん2人が、「AV」とは言わずに「そっちの世界は」って言い続けてきたり、「結婚は諦めたんや」って言ってきたり。それで最後に「AV女優さんが知り合いでおっても、何の得にもならへんからね」みたいなことを言うんですよ。それを藤さんが後藤さんに言ったら「そう言う奴らは、自分の価値観でしか物事を判断できない奴らや」と。「AV女優は精度の高いリトマス試験紙や」って言うんです! 俺、ここで、仏教の『空』と通づるなと思ったあ!
荒木:仏教的視点で言うと、第2章の中で「AV女優になるって出家だな」って言葉があるんです。まさしくそうなんですよ。
寺田:そんな分かりやすく書いてた? 見落としてたわ。
(会場笑い)
荒木:僕は出家者です。かんなさんも出家者。僕らの出家というのは、いわゆる見返りを求めず、誰かのためになることが良いとされている。果たしてAV女優さんは、一体何人を救ってんねんって話なんですよ。かんなさんは救いを求めてこの業界に飛び込んだけれど、結果、今、何人も救っている。そら、かんなさんに見返りはありますよ。ギャラとかね。お金のやらしい話、して良いですか?
寺田:いや、今ちゃうやろ。めちゃくちゃええ話してたやん。
藤:後で後で。
(会場笑い)
荒木:今したかったな。とにかく、出家者は自分自身を見つめ直すことによって、自分の考え方とかを本などの形にする。それを世の中に出して、共感する人がいて、その考え方や生き方に、救われる人がいる。かんなさんは本名を捨てて、藤かんなという出家者になりました。個人の顔を捨てて、公の顔になりました。僕はそう解釈して、出家者だと思ったんです。
藤:そういうふうに解釈してくださって、なるほどなと思いました。私が「AV女優って出家やな」と思ったのは、今後、無防備にセックスしたらあかんなと思ったからなんです。AV女優は性病検査をきっちりするんです。月に1回は必ず、HIVとか梅毒とか9項目の病気を検査するんです。もしそのうちの1つでも陽性が出てしまったら、撮影ができなくなる。予定していた現場をバラしてしまう。みんなに迷惑がかかるのはもちろんだけれども、私もギャラがもらえなくなって生活ができなくなる。ってことは、セックスを生業にしたけれど、撮影以外でセックスしてられへんなと思ったんです。例えば今、マッチングアプリの影響で、梅毒が増えてるらしいじゃないですか。そんなんで病気もらって、生活できなくなるって馬鹿馬鹿しいですよね。
寺田:他のAV女優さんが言ってた。事務所に入った時に「鉄のパンツ履いてると思っとけ」って言われたって。
藤:AV女優ってみんなセックスが好きなんでしょ? って思われてるし、言われるんです。もちろんそうでもある。でも体も命も生涯も掛けてやってるんです。撮影の1回1回が真剣勝負。AV女優になる前は、無防備に遊んだりしたけど、もうそんなことしてられないって意味で、「AV女優になるって出家だな」と書きました。
荒木:なるほどね・・・・・・もう僕の武器無くなったんで、後は2人で何とかしてください。
(会場笑い)
———後編へつづく。