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1990年12月4日(火)
【煉瓦亭:村川 慎太郎・榊 麗美】
「真面目だねえ」
先程食事を終え、食後の紅茶を楽しんでいた榊 麗美が思わず言葉を漏らした。ここは喫茶店『煉瓦亭』。17時を少し過ぎた時間であり、店内には夕食を食べようと来店した客が数名食事を楽しんでいる。工学部の4限目の講義を終えて帰宅中だった村川 慎太郎は、教育学部の4限目の講義を終えて帰宅中の榊と偶然出会い、2人は何となく夕食を一緒に食べることにした。冒険者として同じ部隊であり、村川は隊長で榊は副隊長なので、探索中や部隊会議の際には深く話をする場面が多々存在する。だが、2人きりで会うようなことは今までなく、今日はたまたまそのような状況になってしまったのである。『煉瓦亭』についてから村川が口にする会話は迷宮や亜獣、探索に関する物ばかりであり、確かに共通の話題といえばそこになるのだろうが、目の前に可愛い女の子と2人きりで他に話すことはないのかと榊は思わず言葉を漏らしたのである。ちなみに榊は身長こそ低めであるが、十分に可愛いルックスをしている。
「ところで村川くん話は変わるけど良い?」
話の切れ目に榊が話を始め、それに村川は少し怪訝そうな表情を浮かべて軽く首を縦に動かす。すると榊が口を開いた。
「村川くんって彼女いるんだっけ」
予想外の質問をされて一瞬村川は動揺するが、それを顔には出さないように冷静に返事を返す。
「いや、いないけど何で?」
「何でもないよ。ただ聞いてみただけ」
こう言って榊は紅茶を口に運ぶ。この後はしばらく沈黙が続いたので、一応村川も同じ質問を聞き返してみると、榊からいないという返事が帰ってきた。すると何か変な雰囲気になったのと、飲み物も飲み終わったタイミングだったので、これにて食事を終了し、帰ることにしたのであった。