見出し画像

1991年4月3日(水)

【煉瓦亭:多田隈 五月・佐々木 雫・江村 香奈恵】
「え、五月大丈夫なの?」
「大丈夫ー」
 すごく心配した表情を浮かべた佐々木 雫の言葉に多田隈 五月は軽い表情で言葉を返した。ここは喫茶店『煉瓦亭』。ランチ時間でもあり、多くの客が訪れている。彼氏と別れたことをきちんと報告しないといけないと思い、多田隈は本日佐々木と江村 香奈恵をランチに誘ったのである。多田隈が彼氏と別れた旨を説明すると、一瞬で場が凍りつき、佐々木と江村 香奈恵はすごく心配した表情になる。多田隈は彼氏を溺愛しており、以前からもし別れたら生きていけないだの、死なばもろともだの言っていたからだ。
「大丈夫なら良かった」
 江村はすごく安心し、目の前の紅茶を口に運ぶ。大丈夫だと言ってるし、様子も変わりないようなので、少し込み入ったことを聞いてみる。
「で、いつ別れたの?」
「先週の土曜日。4月頭に会いに来てくれるって言ってたから、いつ来てくれるかを連絡したらもう会えないって言われた」
 冷静な感じで多田隈が答える。先週の土曜日、ということはまだ4日しか経っていない。多田隈の性格と彼氏への感情からすればこんなに早く立ち直れるはずがない。そう考える佐々木と江村だったが、その理由を多田隈が口にする。
「で、とみたんが代わりに彼氏になった」
「あ、そうなんだ」
 少し間があいて、佐々木が言葉をかえす。想像していなかった言葉に佐々木も江村も呆然としたからだ。ただ、多田隈が短期間で立ち直っている理由としては納得できる。
「でも元気そうで良かった。富田君が好きになったんだ」
「うーん。彼氏と別れる前から大好きだったよ。彼氏がいたから彼氏じゃなかっただけ」
 相変わらずの多田隈理論だが、この辺りは多少理解ができる。とにかく立ち直ったことに安心し、二人は安堵する。
「じゃあ富田君と仲良くしないとね」
「もちろんだよ。とみたんはやさしいんだよ。でももし今とみたんが別れるとか言ってきたら私、とみたん殺してでも別れない」
「ちょ、五月、もしそういうことになったら、すぐ私たちに相談するんだよ」
 少し恐ろしい笑顔を浮かべながら言葉を発する多田隈に二人は即座に突っ込みを入れ、多田隈を正気に戻す。今後も多田隈の様子には注意が必要だと二人はお互いに認識しあった。

いいなと思ったら応援しよう!