1990年4月19日(木)
【煉瓦亭:多田隈 五月・佐々木 雫・江村 香奈恵】
「うん、全く知らない」
「そうだよね。私たちも知らなかったからね」
パフェを一口スプーンにすくいながら多田隈 五月が発した言葉に、江村 香奈恵が返事を返した。ここは喫茶店『煉瓦亭』。お昼を少し過ぎた時間であり、ランチ時の混雑ピークは過ぎたようで、少し落ち着いた雰囲気の店内である。多田隈と佐々木 雫、江村 香奈恵の3人は午前中はそれぞれ鍛錬場で鍛錬を行い、その後冒険者組織入り口で落ち合って一緒に『煉瓦亭』にやって来たのである。そして3人とも日替わりランチを注文し、それを食した後のデザートタイムを過ごしている。
「でも男性陣は3人とも1つ上の先輩だし、しっかりしてそうな感じ」
「もう1人の女の子も同級生だけど、しっかりしている雰囲気はある」
同じ部隊となった男性3人について江村が口にし、その後で佐々木がもう1人の女性について感想を述べた。佐々木と江村は悪魔の花嫁部隊という名称の部隊に所属し、隊員は戦士が佐々木と3回生の男性である大野 賢太と柏原 隆一郎、罠解除士は2回生の女性である山村 静華、僧侶は3回生の男性である久米 直樹である。大野と柏原は佐々木が戦士鍛錬場で一緒になるので、ある程度の人柄などはだいぶん把握できているが、山村と久米に関しては部隊編成時に少し話をしたぐらいなので、まだあまり詳細には理解できていない。
「まあ、たぶん大丈夫だよ」
全く根拠のないことを口にした多田隈はパフェのチョコクリームの部分を口に入れて満面の表情を浮かべている。これを見て佐々木と江村も何か大丈夫な気がしてきたので、軽くため息をついた後、デザートに集中することにした。