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1990年3月22日(木)

【煉瓦亭:山村 静香・扇 開次】
「いよいよ明日発表だねー」
「そうだな」
 店内のテーブルについてすぐに、笑顔を浮かべながら言葉を発した山村 静香に対して、扇 開次は冷静に返事を返した。ここは喫茶店『煉瓦亭』。お昼少し前の時間であり、まだ店内はそこまで混んでない状況である。本日山村は『岩田屋伊勢丹』で買い物をする予定があったので、一緒に来ないかと扇を誘ったのである。よほどのことがなければ山村の話を断ることはないので、今日もいつものように一緒に買い物に行くことになる。そこで一旦『煉瓦亭』に集合して、ランチを食べてから街に行くことにしたので、先に店についていた扇はテーブル席に座って小説を読みながら山村を待つ。すると少し遅れて入店してきたのである。
「じゃあランチ2つ頼むね」
 こういって山村は本日のランチセットを2つ注文し、運ばれてきたお冷を少し喉に通した。
「何かこんなワクワクって大学の合格発表以来だから1年ぶりだよね」
「そうーだね」
 明日冒険者の1次試験の発表が行われるので、いつも以上にテンションが高い山村に対して、扇は読んでいた小説を一旦閉じてバッグに入れて、軽く返事を返す。元々冒険者になることに扇はそこまで思い入れがないので、別に明日の合否にもあまり興味がないのである。ただ、山村が合格で自分が不合格のパターンだけはやめて欲しいと思っているので、気になっているのはそれぐらいだ。
「何か開次は大人だねー」
 先程からの低いテンションの対応に対して山村が少し不満な声を上げる。すると扇は軽くため息をついて、返事を返す。
「別に大人じゃないよ。結果をあくまでも結果として受け止めるだけってことだよ」
「それを大人だと人は言うわよ」
 思ったよりも真剣に返事を返してくれたが、その返事の内容が少しずれていたので、山村は軽く笑顔を浮かべて突っ込みを入れたのである。

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