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月曜日の憂鬱〜インナーチャイルドを抱きしめて🩷

月曜日の朝は憂鬱だ。

子供の学校があるからじゃない。
もうこの春から、家に子供はいなくなってしまった。
登校時間を気にしながら、朝の支度をする。という長年の習慣は、もう必要なくなった。

主人は月曜日は夜勤になることが多く、朝はゆっくりだ。
なのに体は長年染み付いた、朝の習慣を覚えている。

ただ月曜日に限って憂鬱なのは、どうしたわけだろう。

月曜日と木曜日はゴミの日だ。
朝からゴミ出しをしないといけない。
そのせいだろうか…

記憶をたどってみると、ふと子供の頃のことに行き当たった。

小中学生の頃、学校へ行くのが嫌な時があったのだ。
特に何かがあったわけではなかったのかもしれない。
ただ自分とまわりの人との間には、何かいつも見えないベールがかかっているようだった。

私はみんなとは違うんだ。

そんな思いが私を苛んだ。
何かが変だった。
それは宗教のせいだろうか?と思っていた時期もあった。
何故かと言うと、うちの家には『お盆』はなかったからだ。

『お盆』てなんだろう。
あの丸いお盆のことかなぁ?
そうじゃないみたいだ。

それに『お正月』はあったが、それよりも『クリスマス』のほうが大事だった。

「クリスマス?」

友達に聞かれた。

「イエスさまがお生まれになった日なの。」

私は物知り顔でそう答えると、

「イエスってなんや?」

不機嫌そうに、その子はまた質問してきた。

田舎では、まだ『クリスマス』は今みたいに、誰もが知る行事ではなかった。
ましてや小学生の子供が、『イエスさま』のことを知る由もない。

やっぱり私だけが、何か変だった。

星占いのことを友達から聞いて、母に話した時には、

「それは迷信です!」

と、ピシャリと言われた。

それで、次に友達から星占いの話を聞いた時には、

「それは迷信や!」

と言ってしまっていた。

『純粋培養』と言えば聞こえはいいが、なんとも融通がきかない子供だった。

母は、すぐ上の兄が、神父になるために神学校へ行く。というような家庭で育った、生粋のクリスチャンだ。
結婚する条件は、相手がクリスチャンであることだったらしく、父は改宗したそうだ。
父の両親は、二人とも戦争で亡くなっていた。
父を育てた祖父もすでに亡くなっていて、
その点、改宗はしやすかったのかもしれない。

そんな転勤族の親を持ち、幼い頃から引っ越しを繰り返していた私は、行く先々で、いつもまわりとの違いに悩んでいた。
それで長い間、この『違い』は『宗教の違い』だと思っていたのだが、本当はそれだけじゃなかったのだ。

私は成長して大人になり、結婚して、子供が生まれた。
幸せなことだと思う。
しかし、『◯◯ちゃんのお母さん』という肩書きを持ち、子供を介してそのお母さん(ママ友)とお付き合いすることになると、また悩み始めた。
私には、いつも気になることがあったのだ。
たぶん小さなことだったんだろう。
それを人に話しても、

「気にしすぎ」

と言われた。

この『気にしすぎ』という言葉は、長く私を苦しめた。

気にする自分がいけないんだ。

と思ったからだ。
どんどん自己肯定感は下がって行った。

私は『◯◯ちゃんのお母さん』という、誰かに附属した存在なだけでなく、母親としてできそこないなんだ。

と思った。

『できそこないなお母さん』

そんなの子供たちだって可哀想だ。
だけど、当時の私はそんなふうに自分のことを思うしかなかった。

だから、あんなに『何か』になりたかったのだろうか。

苦肉にも、子育てが終わりに近づいた頃、病気になって、二度手術をした。

もう私の役割は終わりなのかもしれない。
ここまでくれば、私がいなくても、子供たちは立派に育っていくだろう。

そんなふうに思ったりもした。
私の中からは、良くも悪くも生命活動に必要じゃないものは、削ぎ落とされていった。
もう『何か』になる必要はない。
私は『わたし』だ。
私以外のものになれようはずもない。 

月曜日になると憂鬱なのは、子供の頃からの心の傷を、無意識に思い出しているからなのだろうか。

『インナーチャイルド』というのかな?

いいんだよ、気にしすぎだって。
気になるんだから、しょうがないよね。
それにその分、細やかに気づけることだってあるのだから。
きっと役に立つことだってあるよね。

『多様性』というけど、なかなか違うものを受け入れるのは難しい。
そして『多様性だから』と、押し付けるのも違う気がする。
相手の事情をよく考えずに、そうするのではなく、

「そんなこともあるよね!」

と、朗らかに笑ってもらえたら…
そんなふうに思うのは、私だけなんだろうか?

私はぎこちない腕で、そっと胸の奥の『子供』を抱きしめた。


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