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めめんともり、斎藤元彦リターン、

十月二七日

ビスケットには固さと、軽さと、適度な薄さが、絶対に必要であって、また、嚙むとカッチリ固いくせに脆く、細かな雲母状の粉が散って、胸や膝に滾れるようでなくてはならない。

森茉莉『私の美の世界』貧乏サヴァラン(新潮社)

午後十二時五九分。紅茶、不二家LOOK。やはり正午を過ぎてしまった。なにしろなかなか寝付けなかった。こうなると思った。明日はきっと午前十一時五五分には離床する。セナ様の親父のインスタグラムで最新のセナ様写真を見た。全人類の倦怠と希死念慮を一身に背負っているような顔をしていた。どう見ても命をすり減らしまくっているのが分かる。もうセナ様はこれ以上長く地上にはいられないかもしれない。やはり衆生済度は過酷なことなんだ。セナ様すみません。愚かな人類を代表して土下座します。いまの僕にはセナ様のような自己犠牲はとても無理です。もしセナ様が地上から消えたら僕も消えます。ぜったい消えます。「奨学金返還期限猶予願」が拒まれて返ってきた。もうこれいじょう猶予を承認できないらしい。俺1円も返せないんだけど。というか返す気ないんだけど。返す金があればセナ様に寄付したい。せめて減額でもしてもらおうか。きょうこれ書いたらそれをやる。抑鬱がますます強くなりそうだ。せっかく風邪が完治したのに。いまパレスチナで迫害されている人たちに比べれば俺は恵まれすぎている。なんの賃金労働もせずにこうやってまいにち本ばかり読んでいられるんだから。もっとも俺は修行してるんだけどね。考えてんだけどね。生の悲惨さについて他の奴らよりも真剣に考えてんだ。でもそんなことはもう言わない。何を言ったって理解なんかされないし。ふざけた弁明だと思われるだけだし。斎藤元彦のことがまた気になり始めている。まじおれ俗人。軽薄なる一言居士。最近は「斎藤ファン」を自称する人が増えているという。マスコミが彼を叩けば叩くほど彼を「利権に切り込んだ英雄」だと信じたがる者が出てくる。でもこれはそこまで不思議な現象じゃない。マスコミにはそういう力がある。マスコミにはバカ製造機(あるいはバカ発見器)という側面も確かにあるから。マスコミは連日の同じような報道によって受け手を心底からウンザリさせる力を持っている。たとえばテレビなんかでまいにち大谷翔平ばかり見せられている人々のなかから、「大谷うざい、もう見たくない」とアンチ大谷が出てくるのもそのため(これは一種のイメージダウン戦略である)。「孤軍奮闘」している斎藤をずっと見せられている人々のなかから、彼をなんとなく「かわいそう」だと思う人々が出て来ても全然おかしくない。世の中ってのはどっちかというと頭の不自由な人のほうが多いから。いま「B層」って懐かしい言葉思い出したわ。それにしても、「マスコミは信用できない」(これは私も日々感じる)からといって斎藤を「マスコミの犠牲者」のように見てしまうのはどう考えても飛躍だ。SNS上の根拠不明の情報を「マスコミの伝えない真実」として受け取ってしまう人は俺が思ってる以上に多いみたいだ。世の中の問題はいつだって複雑だ。怒ったり呆れたりするポーズを取るまえにその複雑さの前で眩暈を起こしてもらいたい。なんであれ単純に善悪正邪を決めようとしないことだ。知的な人間は「事実の精査」を忘れない。「趣味はファクトチェック」という「変人」がもっと増えれば報道の質もすこしは上がると思うよ。だいたい今回話題になっている「通報者さがし」にしても、これのどこに問題があったかを説明するためには少なくとも30分以上は必要だ。「公益通報者保護法」の中身をきちんと確認した人がこんかいの騒動のなかでいったいどれくらいいただろう。斎藤を英雄視したり悪人視したりすることを楽しんでいる連中はたぶんそんな面倒くさいことはしていない。賭けてもいい。でもそういうことに面倒くささを感じるような人間はけっきょくなにも考えていないに等しいのだ。耳が痛い。ああバカですみません。バカのクズですみません。人間に言ってるんじゃないよ。セナ様に言ってるんだ。

松田修『闇のユートピア』(新潮社)を読む。
日本史における逸脱者たちに焦点を当てた文化論。多用される妙なカタカナ語は御愛嬌。章タイトルを並べてみる。内容の異色なおどろおどろしさを多少は伝えられるかもしれない。「無頼と聖性――神としての世直し」「星伝承における反逆の意味」「暗黒水系の美学」「遁世――アウトサイド・イン」「芭蕉・ある逃亡譚」「殉死情死論」「切腹――死のバロキスム」「騙りの機能――幕末演劇空間の神々」「幕末のアンドロギュヌスたち――馬琴論の試み」「異端者三鬼」「塚本邦雄における死相の愛」。本書で俺は西東三鬼に惹かれてしまった。本書で引かれている句のなかでは、

海から誕生光る水着に肉つまり

真昼の湯子の陰毛の光るかな

が特に気に入った。三鬼は若い男の肉体の魅力を分かっている。雄の色気を感知できる人だ。こういう人の句が詰まらないはずがない。なんでもいいのでこんど彼の句集を見つけたら買いたい。きょうは図書館に行こうか。マスクくらいはしたほうがいいかな。イーロン・マスクとプーチンの同衾作戦。あそういえば図書館行く前に減額返還の申請をしないといけないんだった。出来なかったら別にいいや。金のことなんかに神経を使いたくないオイラは。デーモンの召喚。フレディのわき毛。どっこしょ・コエーリョ。

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