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発汗注意報、目疏原隆三郎の諦念、気怠い甘さを残してる、里佳子、

四月一日

受刑者が刑務官を先生と呼ぶのを廃止すると法務省が発表した時、そんな慣習があったとはじめて知り、驚いた。
名古屋刑務所で刑務官たちが受刑者に暴行や暴言を繰り返していた問題が2022年に発覚し、同省は先月、「組織風土の変革」として、先生呼称や受刑者の呼び捨て、ガリ(散髪)、物相(食事を入れる器)といった隠語を廃止すると打ち出した。

読売新聞(日刊)3月31日「広角多角」

午前十一時五一分。緑茶、スープパスタ。寝ている間の寝汗がすごかった。ベッドとはいえ敷布団にカビが生えないか心配。やや頭が頭痛状態だが今日は図書館の休館日なのでゆっくり安静に過ごそうと思う。病み上がり特有の倦怠感。嵐の後の静けさ。鼻はまあまあ通っているがコンタックはいちおう飲んだほうがいいか。きのう正午ごろ母親が食べ物とかを持ってきたがだるかったので外出は控えた。入浴も控えた。もちろん酒も飲まなかった。これで五十時間以上一歩も外に出てないことになる。風邪でなかったら気が狂うだろう。臥しているあいだは落語ばかり聴いている。本を読むのにもそれなりの体力が必要らしい。一時間以上は読めない。げんざいプルーストの『失われた時を求めて』を一日二頁ずつ読んでいる。ロバート・ダーントン『猫の大虐殺』はさいきん二章に突入した。労働者の反乱の気配がある。橋本治『江戸にフランス革命を!』と『蓮と刀』も読んでいる。彼の文章は読んでいるとときどきすこし腹が立ってくる。いかにも「自分以外はみんな馬鹿」だと言いたげだから。伊丹十三の『女たちよ!男たちよ!子供たちよ!』も読んでいる。伊丹十三の書くものは別役実の書くものと同じくらい気に入っている。きょうはもうだるくて書けないのでその中の「朝鮮野球」の冒頭部分を引いておわる。

「そろそろ、紅白歌合戦の裏番組を考えにゃいかんなあ」
プロデューサーがいったから一座は俄に賑かになった。会議が始まるまでにはまだ少し時間がある。紅白の裏番組は、こんな時、恰好のトレイニングになるのだ。
「あのね、これには幻の名企画っていうのがあるんだな」
プロデューサーがみんなを制しながら真面目な顔でいった。
「へえ、どういうんです?」
「皇室歌合戦」
「ハハア――」
「天皇家が集ってね、喉自慢をやるわけよ。美智子さんが、ねむの木の子守唄を唱うとかさ、皇太子がチェロを弾くとか」
「サンサーンスの白鳥かなにか――」
「皇后はどうなります」
「皇后はねえ――ウーン――金剛石も磨かずば、とかさ、火筒の響き遠ざかる、とかさ、それもんですよ」
「じゃあ天皇は?」
「こりゃもう決まってる」
「ハハア――」
「君が代ですよ、君が代」
「ウーン、なるほど、これは相当いくだろうねえ、三十パーセント、いや、五十パーセント、いや、もっといくかな」
「ね? だからさ、企画出すなら、この程度の奴出してよ」

そろそろ洗濯機の終了音が鳴るだろう。洗濯物干したら昼飯だ。

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