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破滅願望は〈良識〉の敵ではないのよ、

十一月七日

「わかって頂けると思いますが、私は聴衆だとか群集に親しむことが習癖になっているのです。人はアルコール中毒から癒ることはできましょう。しかしおそらく、己惚れからは癒ることはできますまい」

プリニエ『醜女の日記』(関義・訳 新潮社)

午後十二時四二分。紅茶、カロリーメイトみたいだがカロリーメイトではないバー状の菓子。老貝という町で後ろに誰かを乗せながら自転車で走りまくる夢を見る。これだけ「感じの悪い日記」をまいにち書くのも大変だ。しかしトランプがあそこまで大勝するとは少しも思ってなかった。四年間、さびれまくった「地方」でも集会を開きまくった成果か。白人男性の焦り票だけであんなに大勝できるものなのか。ラティーノや黒人の男性票が相当数トランプに流れたということでいいのか。いま国内の物価が上がっていることも大きかったのか。ハリスの「キャラ」が薄かったというのもありそうだ。けっきょくイスラエルを止められなかったバイデンの二番煎じじゃないか、というウンザリ感が民主党へのウンザリ感につながった(連邦議会上院では共和党が過半数を奪取した)。今回の大統領選についてはほっといてもやがて細かい分析がなされるだろう。トランプはグローバルにものを考えることが嫌いな「素人政治家」であり、勇ましいことを叫んでいるわりには、アメリカが「世界の警察(覇権国)」であり続けることなどほとんど望んでいない。彼のなかにモンロー主義(孤立主義)の変種を見出すことはそれほど間違ったことじゃない。それにしても俺の当落予測はだいたい外れる。前の自民党総裁だって石破氏が勝つとは思わなかった。こんなの当たったって外れたってどうでもいいのだけど。選挙なんて「大規模な児戯」以外の何物でもないから。各種選挙の当選者なんかを予測する公営賭博があったら面白いかもね。投票率も上がるんじゃないか。収益の半分以上は国庫に納めてなんかの財源にすればいい。不正がめっちゃ横行しそうだけどね。まあ不正のカタマリみたいな自民党がずっと政権を掌握しているような国だからそんなのカンケーねえ、そんなのカンケーねえ。もうだるいわ。一口大に切った鶏胸肉に醤油とショウガ(チューブでいい)とアオサとマヨネーズをからませて炒めてみた。わりと美味だった。ショウガがいいアクセントになるのでニンニクとレモン果汁は入れなくてもいい。写真貼るわ。俺のステキ生活を自慢させろ。ああこの絶倫料理をセナ様に食べてほしいわ。

アオサをキザミノリにしてもいい、
シャキシャキが欲しいときは小松菜を一緒に炒める、

千田有紀『日本型近代家族 どこから来てどこへ行くのか』(勁草書房)を読む。
著者は専門は家族社会学だという。「核家族」という言葉の扱い方は専門家によってもけっこう違う、ということは分かった。家族は社会とは切り離せない。社会から完全に独立した家族なんてありえない。だからとうぜん時代によって「家族」をめぐる社会通念も変わる。フィリップ・アリエス『〈子供〉の誕生』(みすず書房)で論じられているように、「子供」像も不変ではない。俺にとって家族論といえばまずはエマニュエル・トッドなんだ。俺はトッドが大好きなんだ。家族形態とイデオロギーの関係を彼ほど鮮やかに説明できた人間を俺はほかに知らない。たしかトッドは人類史における「核家族」の原始性をよく強調していた。彼の学説に対しては批判もたくさんあるんだろうけど。そういえば丸谷才一は「ひいきの学者」を作ることの知的効用を『思考のレッスン』(文藝春秋)のなかで説いていた。ただあまりにもひいきにし過ぎるとその欠点が目に入りにくくなるかもしれないので注意が必要。僕はひところ鈴木大拙や井筒俊彦の本を熱心に読んでいたが彼らの限界もそれなりに知っているつもりだ。ところで人々が結婚したがるのはなんでなんだろう。結婚して「家庭」を持ちたがる人の気持ちが私にはぜんぜん分からない。あえて窮屈で不条理な経験をすることで自分を成熟させようというのだろうか。「ロマンティックラブ(イデオロギー)」という概念が社会学にはある。この本でもけっこう論じられている。がいして現代においては恋愛促進系の言説がかなり幅を利かせている。アニメも映画も小説も歌謡曲も「恋」や「純愛」が大好きだ。だから「恋愛下手」あるいは「非モテ」とされる人たちが劣等感や焦りと関係なく生きるのが難しくなっている。誰もが「たかが恋愛」とは言えなくなっている。何だかんだ言っても多くの人は、「恋愛を経て結婚してこそ一人前だ」と信じている。結婚したがる人がいまだにこれほどいるのは、こうした「恋愛・結婚を通した承認欲」が誰のなかにもかなり強く残っているからなのかもしれない。「性的パートナー」がいないことは不名誉なことなんだ、と誰もが多かれ少なかれ思い込まされているからなのかもしれない。もしモテたいならそんな慣習性の思い込みに苦しめられている凡庸な頭の悪さをまずは何とかしたほうがいいと思うんだけどね。頭の悪い人間がモテたためしなんかないんだから。だいたい馬鹿なのにモテたがっている時点でもう超絶キモいのよ。モテたがる暇があるなら思索か読書でもしなさい。そして孤高を愛しなさい。孤高ってとってもセクシーじゃない? そろそろ図書館に行かないと。急いで飯を食う。明日は遠出したいな。洗濯もしたい。神々のバーベキュー大会。大乱闘スマッシュボーイ。寸止め海峡日本海。

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