直観と抽象化①               

~心理機能Niと細谷功氏の著書をヒントに~                                        


■内向的直観機能「Ni」とは                                                    

 スイスの精神分析医で心理学者のカール・グスタフ・ユングは、思考、感情、感覚、直観の4つの心理機能にそれぞれ内向、外向を掛け合わせた8種類の心理機能の組み合わせに基づく「類型論」を提唱しました。現在、「類型論」に関連した性格診断が各種開発され、ネットで手軽に診断が出来るようになっています。                       

その心理機能の1つである内向的直観(以下、Niという。)の働きに関して、心理学関連の本やサイトでは様々な説明がなされています。その1つを紹介します。

内向的直観は、複数の事象や現象、概念の共通性や関連性を捉え、一つの象徴的なイメージに集約します。                        
                               
様々な経験を通して、五感から得られる情報を無意識のうちに収集し、意識下で統合的なプロセスが起こっていると考えられます。そして必要なときにビジョンが浮かび上がるのです。
                        
パターン認識が得意で、背後に働いている力、隠された意味、物事の関連性を見出します、出来事や人の行動から読み取ることのできることを把握し、次に起こり得ることを予見します。                            

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その他の心理学、性格類型のサイトにおいても概ねこのような記述がなされていますが、いずれも概念的な説明で終始することが多く、直観機能の構造やその構成が語られることは無いため、他の機能よりも難解な印象を受けます。                                

■直観とは抽象化である                                                                

ということで、唐突ですが、これは私見ですけど、直観機能とは無意識レベルで行われる抽象化メカニズムだと認識しています。そして、その生成物こそが直観、ひらめき、ヴィジョン、洞察と呼ばれるものだと捉えています。                            

・内向的直観は未来を見通す機能である                        
・直観は「今・ここ」ではないことを知覚する働きであり非合理機能という
・直観は見えないものを見ることのできる働きである              

これらは、直観および内向的直観機能(Ni)に関する記述を思い出したものです。(なので出典は不明です)直観機能は、働きに強弱、得意苦手はあるにせよ誰もが有している機能だと言われています。ですが、これらの文章はNiが現実離れした、さも特別な機能でもあるかのように表現されています。これもやはり直観自体が抽象ゆえの言語化の困難さから来るものなのでしょう。                     

ところで、最近、図書館で借りたとある書籍に、上記と同じような記述が全編にわたり述べられており、思わぬ共通性を見出してホクホクしました。                                  

書籍名:見えないものをみる「抽象の目」「具体の谷」からの脱出     
著者:細谷功                                      
出版:中公新書ラクレ                   
                   
ビジネスコンサルタントで著述家の細谷功氏は、多くのビジネス書を書いています。最も有名な著書は、「具体⇆抽象」トレーニング、という本で、すでにたくさんの本の要約・紹介動画が本の説明を挙げています。                              

ちなみに、こちらの書籍は次のような内容です。AIなどのデジタルテクノロジーの発展によって概念的な世界が益々広がる現代と、その予測不能性に対し抽象的に捉える視点を持つことで、「具体」からの視野を広げ、日々のコミュニケーション問題を解消したり、将来像を描く助けが得られるようになる、という社会生活を送るための指南書のような感じです。 

次に、その本の中から、抽象化思考と内向的直観機能との繋がりを特に感じられる部分についてピックアップしてみます。         

①見えないものの正体を抽象化概念と位置付ける                                
この本では、物体ではない、見えない概念のことを抽象化概念と規定しています。例として、国境、言葉、数字、お金、日付変更線(時間)、物差し(指標)、集団といったものが例示されています。これらは、見えないものによる幻想であり、社会に属するものがこの幻想に合意しているからこそ成立する概念、言わば共同幻想です。先の「直観は見えないものを見る働きである」という表現を持ち出すとするならば、直観は、抽象化概念を見る働きであると言えます。                                   

■抽象化とは線を引くこと                          

著者は、抽象化の基本機能は、線を引くことだと述べています。抽象化は線を引く行為であり、物と物の間に線を引く、区別(カテゴリ化)をする行為だと述べています。区別をするには、物の特徴を捉える力が必要であり、その違いを認識する能力が求められます。                             

そして、物と物との間に線を引くことは、集団の形成やルールの制定を基礎づける機能であり、社会生活上不可欠な要素です。線を引くことで社会は形成されたとも言えるほどです。                      

■抽象化とは線と線をつなげること                  

また、異なるモノどうしを線で繋げる=関係づけることで当初のモノとは異なる新たな意味、概念を生み出すことができます。                              

そして、その応用機能として、まとめてひとつにすることがあり、例えば、ナス、キュウリ、ニンジン、シイタケをひとつにまとめると野菜という上位概念を作り出す機能です。物体の次元(抽象度)を上げることにより、ナスやキュウリの具体物を野菜というひとかたまりに表現することが出来るようになります。これの応用が、手段と目的の関係です。具体は複数の手段を指し、上位概念の目的が複数の手段を束ねる関係となります。                          

Niは、具体的な事象の中から共通項や何等かの意味や目的を見出し、ある着地点へと何らかの手段をもって帰結させてゆく働きです。これは、Niが「物事を区別する」「異なるモノをつなぎ合わせてひとつにする」という抽象化をもたらす機能で構成されていることを表すものであり、Niの基本機能がまさに次元を上げること、抽象化機能そのものであることに他なりません。                             

■名付けることは命を吹き込むこと                    

本文中に惹かれる一文がありました。                      
「抽象レベルの目に見えない抽象概念がまずあり、そこに名前が付けられ、それが言葉として複数の人たちの間で目に見えない共通認識として用いられてゆくことになります。」                                 
直観もまた、誰かのなかで不意に生まれ、新しい概念として言語化され、社会のなかでその概念は強固となり、ひとつの共同幻想へと進化する。私は、この一文からも直観=抽象化のメカニズムと同義であることを捉えました。   

■その発生機序を説明できないことがまさにNiである証   

以上、私の大変に主観的なNiにまつわる構想について紹介をいたしました。本当にこれ何のこと?な文章ですよね。「内向的直観について、どのようにひらめいたか本人も上手く説明することが出来ない。」などと言われますが、いみじくもまさしくその通りで、こうして私は、なんとも形容、説明し難い確信を今日も勝手に意味づけをしている次第です。                        

以上、お目通しをいただき有難うございました。                      
                       


                 

                                           

                                   

                            
                                              


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