学会遠征編ショート版 第19話 余韻浸れず
悪あがき
クゥちゃんから返信がきた。やはりここは写真だけでも興奮するらしい。植物園も見どころだとのことだったので、そこまで行ってみることにした。たしかに、その室内は生い茂っているようだ。気になったので中に行ってみたら、もちろんだが入館料がいることが判明した。もちろん安くない金額である。どれくらいの時間で見て回れるのか聞いてみたら、だいたい40分くらいと言っていた。確かに、見てみたい。大ボリュームなコンテンツになりそうだ。しかし、自由に使える時間はあと20分くらい。敢無く断念することとなった。いつかまたリベンジだ。ここに来る言い訳ができたと思えばいい。中には入れなくても、外に少し植物の展示が漏れ出しているので充分だ。くらしのみどり。枯れている。他にもどこの地方の植物なのかわからない生態系を覗くことができ、これで満足することにした。バス停への帰り道でももう少し楽しみたいという気持ちは抑えられなかった。時間と欲望との戦いである。域とは違ったルートで戻ったが、そこにはそこで新しい景色が構えていた。やはりこの幾何的な設計はけっこうそそられる。水の流れがより一層清く見えた。行きで見た広場の様子も、ここからなら確認できてしまう。こうして2階を練り歩いていると、建物が現れた。そこに入ってみたら、なんとびっくり。最初に来たあのお高いホテルではないか。そう、わざわざ外に出て道を探す必要なんてなかったのだ。今更気づいても遅いが、これで少し時間が浮いた。何かできるほど余っているわけではないので、またそのホテルをうろちょろしていたら、また「チェックインですか?」と訊かれた。なんというサービス精神だ。まるで高級店ではないか。
こうしてまたバスに乗ることになった。本来は16時に明石に到着する予定だったが、バスが数分遅れたので乗る電車も少し遅れそうだ。予約なし、しかもSuicaで乗れるのがどれだけありがたいことか。この4日間でここまでじっくり味合わされることになるとは当初思わなかった。地元の高速バスもつい最近交通系カードが対応するようになったのだが、やはり乗りやすさは全然違う。人はけっこう乗っていて、何人かは補助席に座っていた。この道中、島内に保育園があることに驚いた。もちろん、人が住んでいるので、保育園が自然発生することくらいおかしな話ではない。中学校もあったが同様だ。それでも、これらが存在するということは、短期ではなく長期で生活していることになる。こんなところにも人が住んでいるんだ、というのが正直な感想だった。四国の時もそうだ。これはけっして悪い意味ではない。自分の知らなかった世界に、社会というものが存在していたのだという、ある意味で革命というか、思考の中でビッグバンが起きている気がしたのだ。自分もそう思われる側の地域に住んでいたので、受け入れるのは苦ではなった。およそ2時間の淡路島滞在で、できることは少なかったが、多くのことを考えるいい機会になった。こうして再度舞子でバスを降りた。今度はJRに乗るため下まで降りる。4日ぶりに本州の地上に足を踏み込んだ。ここでも日本語が使われているようだ。どこに乗り場があるのか。北へ歩いたり、近くの施設に入ってみたりしたが全然見つからなかった。スーツケースのタイヤがすり減るので早く見つけたいところだ。気づきにくかったが、乗り場を見つけることができたので電車に乗った。西向きの電車で、明石へ。こんなにたくさん電車が来ることに改めて感動してしまった。ここは本州である。関西の都市圏である。少しの区間電車に揺られて、明石駅で降りた。