学会遠征編ショート版 第46話 さらばバンコク
搭乗
18時を過ぎたあたりで国際線の搭乗手続きを始めた。帰りもJALなので、スマホでチェックインした。もう荷物の預け入れも慣れたものである。しばらくスーツケースとはお別れだ。荷物を再三確認し、預け入れた。じゃあな、しましま。スーツケースにつけたシマエナガのストラップ"しましま"がまた僕を呼んでくれることだろう。搭乗までもうしばし待たなければいけない。まずはとりあえず明日の予定の確認からだ。明日は昼にクゥちゃんと会う。そのための手土産はもう用意してある。命のあるものがいいとのことだったので、徳島とバンコクでそれぞれキーホルダーっぽいものを買っておいた。昼飯は高くない日本食でお願いした。そして夕方からは高校の友人、武人と会う予定だったが…忙しいようなので今回はパスとなった。彼も大学院生で忙しいことは熟知している。仕方がない。夕方は一人でゆっくりしよう。あとは帰りの新幹線だ。自由席でいいので予約しようとしたが、エラーが起きてうまくいかない。おそらく、海外wi-fiではうまくいかないということなのだろう。諦めて向こうについてから考えることにした。
あとは残りのお土産も考えておきたい。研究室の分は買った。個人に渡したい分も買った。そのため残りは家族用とバイト先だ。やっぱり王道のドライマンゴーか。ついでに自分用にチキンカレーヌードルのもとと、グリーンカレーのもとを買った。空港値段なので少々割高だが、いいものが買えたと思う。お酒も街中の仕入れ店に引けを取らないほどたくさんの種類が置いてあった。いつもの銘柄の色違いまであり、興奮するには十分なほど美しい棚が揃っていたが、税関に引っかかりそうなので買わないことにした。中には15万バーツ(60万円以上)するウイスキーなどもあったが、これは今の自分には手が出せない。ショーケースの向こうは別世界なのだ。
時刻は21時を回り、もうそろそろ出発の時間となった。アナウンスでチケット拝見の番が来たことを知らされたのでその列に並んだが、自分の番が来たところで「君は違う」とはじき出された。よく見たら列の番号が1文字違ったのだ。恥をかいたが、周りは知らない人ばかりなのでノーダメージだ。もう少しわかりやすい列番号にしてほしいと嘆くのは負け惜しみなのでやめておこう。自分の番は一つ隣の列で、もうあと数十分後にやってくる。まだ時間があるので、小腹を満たすためにサンドイッチ屋さんに行った。そこは具材を自由に選べるところだが、そのシステムがよくわからなかったので、適当に指をさしていたら適当なものが出来上がった。暇つぶしには十分だ。そして、手持ちの最後の現金、34バーツを使って何かできないかと歩き回っていた。たいてい35バーツ以上の商品ばかりでギリギリ使えないが、やっとの思いで30バーツのプリッツを見つけた。これが正真正銘この国最後の買い物だ。残った1バーツコイン4枚は記念メダルとなった。今までは貴重なお金として大事にしてきたものだが、日本に行けばひとたび価値を失ってしまう。お金というものの貴重さと無意味さを学ぶには最適な教材となるだろう。そのプリッツも待ち時間に食べてしまった。未練はない。
こうしてようやく改めて乗り込み準備の時間がやってきた。今度は間違いない。半券の番号を何度も確かめた。日本に帰れるというのはなんだか安心感なのか、それとも名残惜しさなのか。人生初の海外旅行で気持ちが舞い上がった3日間だった。いや、その前の徳島や淡路島なども人生で初めて行くところばかりで面白かった。やるべきミッションはすべて終えた。あとは無事に帰ってお土産を渡すだけである。飛行場ではバスで搭乗口まで移った。飛行機の席は、帰りだけ予約で来たので通路側ではなく窓側の席にありつけた。乗り込む際は窮屈だったので、もしかしたら通路側の方が便利だったのかもしれない。なんなら、通りがかったビジネスクラスの方がもっとゆとりのある空間だった。そうか、ランクが上がればあんな席も選択肢になるのか。だったらファーストクラスは…。バンコク時間22:05、飛行機は無事離陸した。