学会遠征編ショート版 第48話 癒し
羽田脱出
もう日本語が通じる場所だ。恐れることは何もない。まずはスーツケースを回収しに行った。あのベルトコンベアを見るのは少し好きだったりする。あのスーツケース1周したな、と回転寿司屋の人気のないネタを見守るような気分になれるからだ。僕のスーツケースにはシマエナガのストラップ"シマシマ"がついている。大切な我が子だ。コンベアが4,5週ほどしたのを見届けたところで息子がやってきた。いつみてもかわいいシマエナガだと思っていたら、全身黒ずんでいた。飛行機の中でごみなどが付いたのだろうが、個人的には「日焼けして帰ってきた」と解釈した。あんな暑いところで一緒に冒険したのだから、黒くなってもおかしくはないのだ。
次に関税のチェックだ。怪しいものを持ち込んでいないかのチェックである。恥ずかしながらこの仕組みを知らなかったので少し戸惑ったが、書類を書いて提出すればいいだけの話である。タイの空港でお酒など買っていようものならきっと面倒なことになっただろう。シンプルに野菜や果物を買ったとしてもそうだ。入国審査も完了し、晴れて日本の土地に足を踏み入れることが可能となった。
3月半ばの早朝。ここ東京は、意外にも今回滞在する地域の中では最も寒い地域である。今の自分はタイ上がりで涼しい格好をしている。トイレの個室で長袖に着替えた。顔も洗って新しい1日の始まりだ!
張り切っていこう!
頑張ろう…
自分の体は当の昔に限界がきていることを思い出した。飛行機でも十分に寝られたとはいいがたい。無理しなくていい、長いベンチはどこもたくさん空いているんだ…
30分だけ横になろうと思った。荷物は鍵をかけてあるし、最低限の防犯は施したつもりだ。それにここは日本である。少々気は緩んでいるかもしれないが、30分だけなら大丈夫だろう。そう思って少しの間目を瞑った。
2時間が経過していた。当然と言えば当然のことだろう。寧ろ、2時間で打ち止めできたこと自体が奇跡なのかもしれない。11時にクゥちゃんと新橋で待ち合わせの予定だったが、まだ時間はある。とはいっても今この状態で会うと、たぶん臭くて汚いと思われる。汗拭きシートではぬぐい切れない汚れだってあるのだ。一応人に会うのに汚いのはよくないだろう。そのため事前に銭湯に入ってから行くと伝えたら、近辺で午前から営業してそうなところを検索してくれた。なるほど、空港から4kmかぁ、歩けると思ったが、冷静さを取り戻した。粕谷駅まで電車を使った。いわゆる町中にある銭湯、というようなお店だった。
サウナは別料金のオプションで追加できるようだが、そこまで時間があるわけでもないので入浴だけにした。ここはシャンプー等は用意していないということだったが、全然問題ない。タイで使う用として持ってきておいた試供品のシャンプーたちを、今まさにこの場面で使えばよいのだ。お店の人にスーツケースは預けてタオルを貸してもらい、風呂場に入った。祝日とはいえこんな午前中はやはり平均年齢が高かった。これが年の功というものなのか。体を洗って湯船に浸かった。そういえば、今回の旅で初めてお湯に入ったかもしれない。徳島でもタイでもユニットバスの簡素なシャワールームだったので、肩まで温まっていられるのは幸せなのだと改めて実感した。他にも電気風呂やバブル風呂、水風呂まで十分に楽しんで出てきた。本当は服もコインランドリーにぶち込みたかったのだが、道中見つけられなかったことはクゥちゃんに了承してもらった。体は清いのでマシな方だとは思う。便に入った牛乳を買って水分補給し、新橋へと向かった。
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