400字小説『女神の選択』
雨が降る。
こんな日は、あの喫茶店で温かいコーヒーを飲もう。
「いらっしゃい。久しぶりね」
「女神は?」
「出窓よ。コーヒーでいい?」
「うん」
荷物を椅子に置いてから、出窓へ向かう。
外を眺めていた女神が振り向いた。
「仕事辞めちゃった。どう思う?」
女神は何も言わない。
その代わり小さく「にゃあ」と鳴いた。
「ずっとやりたいことがあったの。思い切って挑戦する」
女神の喉元に手を伸ばすと、ゴロゴロと甘えてきた。
「一度きりの人生だし。頑張るよ」
ありがとねと呟くと、また「にゃあ」と鳴いた。
席に戻って、熱いコーヒーを口に含む。
「孤独の世界に飛び込むのね」
「うん。その先に掴めるものがあるって信じてるから」
「そう。疲れたら、いつでも来ればいいわ」
「ありがと」
少し甘いクッキー。コーヒーの苦味。
そして、猫の女神。
私には、帰ってこれる場所がある。
「オムライス食べたいな」
「いいわよ」
女神が雨を見ている。
クルッと振り向いた。
にゃあ。
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