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500字小説『水色レイン』

「お帰り」
「…また勝手に。不法侵入だぞ」
「連れないこと言うな。土産がある」
いつからか、死神と一緒に過ごす時間が長くなった。
「ほら。美味そうだろ」
得意げに見せてきた。
「何だこれ」
「一番最初の雨のドリンクさ」
「雨?」
「飲んでみろ。空の味がするぞ」
空の味。あの青空と白い雲。
どんな味がするんだろうと、ずっと知りたかった。
「まさか毒が」
「入れてない。お前とは、まだ遊びたいからな」
そうか。
うちに来るのは、遊びに来てるってことか。
恐る恐る、一口飲んでみた。
「…初めて飲む味だ」
「当たり前だ。滅多に手に入らない代物なんだぞ」
「盗んだのか」
「失礼なこと言うな。ちゃんとお願いして、貰ったんだ」
「お願い…」
「何がおかしい」
「別に。お前も、可愛いとこあるんだな」
「ふんっ」
口を曲げて鼻息を漏らしてから、スッと立ち上がった。
「帰るのか」
「ああ。今からお迎えだ」
「ふーん。これ、全部飲んでいいのか?」
「土産だって言っただろう。邪魔したな」
マントを派手に翻し、ヒュルンと消えた。
途端に静かになった。

グラスに氷を入れて注いだら、綺麗な虹色になった。
まろやかで、ほんのり甘い。
最初の雨。
でも。

この世で最後の雨は。

誰も飲めない。


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