500字小説『全部、嘘』
「明日、一緒に映画観に行かない?」
彼女は朗らかだ。誰にでも同じように接する。
「いいけど」
「ほんと?じゃあ駅前の本屋。朝10時に」
「分かった」
「遅刻しないでね」
ばいばい。
手をブンブン振ってから走り去った。
来ないだろうな。
そう思いつつ「もしかしたら」という望みを捨てきれずに待ち合わせ場所へ急いだ。
でも。
「やっぱりね…」
分かってる。彼女は嘘つき。
溜息を吐いてから、映画館へ向かった。
何を観ようと悩んでいた時、後ろから声をかけられた。
振り返ると、同じクラスの学級委員長。
その隣に。
「すごぉい、偶然ね」
「うん…そうだね」
「あなたも来るなら、誘えば良かったな。ね?」
無邪気な笑顔を委員長に向ける。
「喉が渇いちゃった。飲み物買おうよ」
私の手首を掴んで売店を指差す。
「あ、…じゃあ先に行って待ってる」
委員長が足早に去っていく。
その後ろ姿を見ながら。
「あーもうやだ、ほんっとしつこい」
「そっちから誘ったんだと思った」
「違う、前から誘われてて。1回でいいからデートしてって言われたから」
ふぅん。なのに私と約束したんだ。
「ね、このまま2人で逃げちゃおうよ。私パフェ食べたい」
分かってる。
彼女は嘘つき。
あれもこれも。
全部、嘘。