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【短編小説】あなろぐ!蛇王ナーガ様

「人間、これはなんだ?」
「スマホだよ。遠くの人と連絡が取れたり、調べ物ができたりするの」
「ほう……薄くて軽いのに、便利な板だ。そんな機能を併せ持っていたとは」
「板って……ナーガの世界にはこういうのないの?」
「主な連絡手段は手紙だ。調べ物は蔵書室へ」
「意外とアナログなんだね」
「あなろぐ」

 長く尖った爪でコツコツと画面を叩いているのは、ある日突然異世界からやってきたナーガと名乗る青年だ。黄色の目と立派なツノ、頬に浮かぶ鱗は明らかに人間のソレではない。彼と出会ったのは、その派手な格好に誤魔化しのきくハロウィーンだった。紆余曲折あって放っておけず、もとの世界に帰れるまでうちで匿うことにしている。
 話を聞く限り、ナーガは蛇の王? らしい。探究心が強いのか、こちらの世界に興味津々で、暇さえあれば「あれはなんだ?」「これはどういうものだ?」と質問が飛んでくる。最初の頃は困惑したけど、慣れるとちょっと楽しい。ちょっと大袈裟なリアクションが新鮮だし、モノや文化を褒められるとなんとなく嬉しい。たまにテレビでやってる「海外の反応」みたいなのを見てる気分と同じかな。

「ナーガ、お腹すいてない? 何かつくろっか?」
「ああ、頼む」

 特に料理へのリアクションが抜群で、私のつくるフツーのごはんにも大喜びしてくれる。作りがいがありすぎて、腕が鳴るのだ。

「じゃーん! お待たせしました〜」
「これは……」
「オムレツだよ。ちょっと焦げちゃったけど、味はおいしい! はず!」
「……っ」
「ナーガ? オムレツ嫌い?」
「いや……その、だな、んん゛、我が国では、焼いた卵を相手に食べさせるのは……求婚と同義だ」
「きゅ……エッそうなの!? ヤダ言ってよ!!」
「む……返せ、食う」
「だめだよ! だってこれ食べたらけっ……結婚する、ってことでしょ?! 王様ならそのへんもっと慎重にならないと!」
「文化の違いだ」
「柔軟だね!? ……あのさ、王様とか関係なく、そういうのは好きな人に取っといたほうがいいよ」

 黄色いオムレツの乗った皿を取り合っていたが、こちらに伸びるナーガの手がぴたりと止まった。

「なら、なんの問題もない」
「そうそ……は、え、なんて!?」
「わからないか? 僕は人間のことを好い」
「わ、わああ!」
「なぜ騒ぐ? 僕があなろぐだからか?」
「アナログの使い方ちがうし! 〜〜っ、あああ、もう!」

 きょとんとした黄色の目に見透かされるようで、根負けした私は彼の前にオムレツの乗った皿を置き直した。

「求婚……とかはとりあえず置いといて、冷めないうちにどうぞ!」
「む、情熱的なぷろぽーずだ」
「話聞いてた!?」

作者: イ九

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