恋愛SF小説『レディランサー アグライア編』7
アグライア編7 12章 ジェイク
竜宮城から戻って玉手箱を開けた浦島太郎は、どんな気分だったのかと想像する。今の俺のように、時代に取り残されて、茫然としたのではないだろうか。
今の主役は、ジュンやエディだ。怖いもの知らずの若者たちが、世界を改革しようと意気込んでいる。
もっとも、年齢制限にひっかかったわけではない。俺と同年代のルークやエイジは、嬉々として働いているからだ。
年齢ではなく、気力の差。俺だけが……総督の側近グループの中では、半端者だ。
ルークは技術部門、エイジは警備部門を任されて、意気揚々と飛び回っている。現場で実務を把握し、何百人もの職員たちに指令を出し、ジュンに報告したり相談したりして。
俺は一応、外交担当ということになっているが、外交の前面にはジュン本人が立っているから、さほどの意味はない。ジュンが他組織の幹部と会う時は後ろにいて、睨みを効かせている……ふりをしているだけだ。
もちろん、俺が気づいたことを、ジュンに注意することはある。あいつは嘘をついているとか、あの発言はこの情報と矛盾しているとか。しかし、それは、メリッサやユージンからも注進されることだ。エディだって気がつくだろう。
俺でなければ出来ない何か、なんてない。
情報部時代やハンター時代の経験といっても、もうかなり昔のことだし、あの頃だって、ネピアの弾避けみたいなものだった。
この違法都市で、俺には価値がないのだ。
それでもジュンにとっては、気心の知れた〝仲間〟が周囲にいることで、心労の度合いはかなり楽になるだろう。だから、自分は番犬だと思うことにした。いずれジュンが、もういいよ、あんたたちは中央に帰って、と言うまでは。
その番犬から昇格したエディは、羽根が生えたかのようだ。『総督閣下の騎士』だと公言されたのだから、無理もない。ティエンすら、負けを認めて(いったんは)引き下がった。
それでいい。親父さんだって、前々から、二人が結婚することを願っているのだ。
暮らす場所が市民社会ではないというだけで、ジュンとエディは望ましい方向に進みつつある。本当に改革が実現したら、たいしたことだ。
俺はもう、新しい時代についていけそうにないが。
ジュンの張り切り方は、見ているだけで疲れるくらいだ。毎日、勇んで総督稼業に飛び回っている。書類仕事に現場の視察、職員たちとの会議、他組織の幹部たちとの面会。そこで、娼館廃止やバイオロイドの解放について、熱く語る。
俺たちはジュンを〝闘士〟だと思っていたが、実は〝政治家〟だったのかもしれない。市民社会で議員になることだけが、政治の道ではなかったのだろう。
「あの方は、本物ですね。最初はなぜ、こんな小娘がと思っていましたが、最高幹部会は、ちゃんと見る目を持っていたわけです」
懐疑的だったギデオンのような幹部でさえ、心服させたくらいだ。トップが意欲に満ちていると、それが末端まで伝わっていき、日々の仕事に反映する。秘書のメリッサもまた、
「ジュンさまにお仕えできて、幸せです」
と顔をほころばせ、毎日、いそいそ付き従っている。メリッサも野心のある女だが、それはトップに立ちたいという種類のものではなく、有能だと認められ、頼りにされることで満足する種類のものらしい。
おかげで、ジュンの地位は当面、問題なさそうだ。最高幹部会の試みは、いまのところ、うまく進んでいる。
どこの違法都市だって、こんなに働く責任者はいないだろう。普通は各部署に有能な部下を据えたら、彼らに任せるのではないか。
しかし、若いジュンには何でも新鮮らしく、センタービルで働く職員たちとの個別面談も、まめにこなしている。人間の職員ばかりでなく、下働きのバイオロイドたちにも時間を取っていた。
何か辛いことはないか、困っていることはないか。現場から提案することはないか。
問題があれば解決策を考え、すぐに実行する。
優秀な娘なのは知っていたが、ここまで優秀とは思わなかった。若い頃の親父さんでも、たぶん、ここまで切れ者ではなかったはずだ。
いや、有能さというよりは、情熱だろう。
世界を変えようとする意欲。
それがジュンにはあり、俺たちには……いや、俺にはない。
ジュンはたぶん、母親の願いを背負っているのだ……違法組織で創られた戦闘兵器だった母親の。
彼女は人間になりたいと願い、夫と子供を得た代わりに、無理な手術で命を縮めた。ジュンはその悲劇を肌で知っているから、辺境の矛盾を負わされるバイオロイドたちを見過ごせないのだ。
おかげで側近である俺たちも、忙しく働くことになった。ジュンの要求水準が高いから、うかうかしていられない。
「エイジ、警備部隊の訓練するでしょ。あたしも参加するから、計画ができたら見せて」
「ジェイク、今後も定期的に親睦会を開きたいから、趣向を考えて。庭園で音楽会とか、湖に船を出して花火とか。その時々で、気が向いたお客が出席してくれるだけでいい。あたしの考えを、さりげなく広めておきたいの」
「ルーク、小惑星工場のバイオロイドたち、働きながら再教育できるかな? 教育プログラムを組んで欲しいんだけど」
「エディ、メリッサと一緒に、新規採用者の書類選考頼むね。面接はあたしも同席するから」
「ユージン、メリュジーヌの都合を聞いておいて。時間のある時に、あたしの考えを聞いてもらうから」
さすがは親父さんの娘、数々の事件で鍛えられているから、どんな場面でも堂々と振る舞うし、何より打たれ強い。
何かで失敗しても(他組織の幹部を怒らせるとか、困った人材を採用してしまったとか)、反省してすぐ立ち直る。
「幹部たちの序列を無視したから、まずかったんだ。次は、地位の高い順に話していこう。メリッサ、順位表を頼むね」
「採用する時には、前の前の組織にまで、聞き合わせをした方がいいんだね。エディ、それを標準手続きにしておいて」
「先週会った幹部が、今週にはもう、この世にいないなんてね。組織内の対立まで、目配りしないといけないんだね。ジェイク、把握を頼むよ。できる範囲でいいから」
最高幹部会がジュンを選んだのは正しい、としみじみ思うようになった。この子には、統率者になる素質があったのだ。中央にいたら、歴史に残る政治家になっていたかもしれない。
〝リリス〟に匹敵する〝連合〟側の看板なんて、まさかと思っていたが、この調子なら、十年後にはそうなっているかもしれない。いや、五年後か。
「もしかしたら俺たち、ジュンの子分になるために《エオス》に集まったのかもしれないな」
とルークがしみじみ、言うほどである。
彼は《キュテーラ》に好きな女を残してきているから(ジュンが卒業した学校の教師らしい)、ここにいるのも精々、数年のことだろう。妹同然のジュンのためにここまで来たが、本来は市民社会で何の不満もなかったのだ。
「ま、おかげで、珍しい体験をしているよ」
警備隊長を任されたエイジは、彼らしく、淡々と地道に部隊を強化しつつある。基礎訓練、出動訓練、戦闘訓練。また、都市の隅々まで巡回して、事件の芽や、各組織の内情を掴もうとしている。
どこの店が流行り、どこの店が傾いているか。見所のある人物は。用心すべき人物は。
エイジも郷里に婚約者同然の女性がいるから(何代も続いた格闘技の道場を受け継ぎ、弟子を集めているという)、やはり、数年の辺境暮らしにすぎない。その間に、最大限、ジュンの足場を固めてやろうとしている。
エディもまた、よくジュンに付いて回っていた。まだ二十代だから、頑張りが効く。何よりも、愛するジュンのためだ。こいつだけは、生涯、ジュンから離れまい。
俺がジュンの側にいる必要性は、もう薄れた。鬼軍曹は、そろそろお役御免だ。もちろん、まだ数年は支える方がいいだろうが、その先は新しい人材も集まってくるはずだし、エディが補佐していれば、大きな失敗はないだろう。
親父さんも、懸賞金リストから外されたのだから、もう以前のような危険はない。これからは、ジュンの名声が父親を守るはずだ。軟禁生活から解放されたら《エオス》で仕事を続けるだろう。ドナ・カイテルと再婚するかもしれないし。
だが、俺はどうする。
《エオス》に戻っても、そこにジュンがいないと思うと、気が抜けた風船のような感じだ。こんなざまでは、とても副長の役目を果たせないだろう。
いっそ、船乗りなぞ辞めた方がいいのかも。
貯金はあるし、何年かぶらぶらしていてもいい。何か、新しい目標を見つけるまで。たとえば、田舎で小さなホテルを経営するとか。牧場で馬を育てるとか。
そう、これまでは、ジュンを守り育てることが、俺の最重要任務だったのだ。しかし、ジュンはもう一人で飛べる。それに付き添うのはエディでいい。俺の居場所は、これから探すしかないのだ。
***
総督の一方的な布告は、《アグライア》の住人たちに衝撃を与えていた。
『強制売春は禁止。人身売買は原則として禁止。バイオロイドの虐待は禁止。この布告に違反した者は、都市から追放する』
都市のあらゆる場所にその布告が掲げられ、繰り返し宣伝されたが、最初はみんな、半信半疑で模様眺めをしていた。違法都市の常識に、真っ向から逆らう内容だったからだ。誘拐してきた人間を売る公開市場も、種々の制限を課されることになる。
「まさか、本気じゃないだろ」
「女の子だからな。理想主義なんだよ」
「そんなこと、実際には不可能だと、すぐわかるだろ」
それでも、威嚇的な護衛部隊を引き連れたジュンが繁華街を見て歩き、のうのうと営業していた幾つかの娼館に乗り込んで、支配人や人間職員たちを逮捕し、手錠をかけた姿で連行すると、その噂はすぐ辺境中に広まった。
「おいおい、本気かよ」
「仕方ない。しばらく謹慎するか」
「くだらない。俺はここから出ていくぞ」
「うちはとりあえず、様子見する」
ジュンが行く先では、いかがわしい店は客を追い出し、慌てて扉を閉めた。バイオロイドの子供に性的サービスをさせていた店では、責任者が表の道路に蹴り出され、ジュン本人が銃を片手に凄んでみせた。
「布告を知らなかったのか? それとも、知っていて無視したのか?」
そこで平身低頭して謝ればよかったものを、二流組織の下級幹部である支配人は、ジュンが小娘だからと甘く見て、言い返した。
「あんたにそんな権限はない!! 辺境は自由な場所だ!! 他組織の商売に口を出すのはやめてもらおう!!」
ジュンは黙って銃のトリガーを引き、その男の股間の布地をレーザーで焦がしてみせた。狙いは正確だったが、もちろん、服の下の皮膚や筋肉もただでは済まない。
通行人が遠巻きの輪を作る中、急所に火傷した男は道路に転がって泣き叫んだが、オレンジ色のドレススーツ姿のジュンは、その頭を土足で踏みつけた。
「おまえが売り物にしていた子供たちは、もっと痛かったはずだ!!」
人々が一斉に、シャッターチャンスと考えたのは無理もない。強気な美少女が銃を片手に男を踏みつける画像は、たちまち世間に溢れ出す。
「三時間以内に店を畳んで、この都市から出ていってもらう。三時間経って、まだうろついていたら、その時は、そこにぶら下がっている目障りなものを蒸発させる」
脅しだと思いたいが、ジュンはおそらく本気で言ったのだろう。その男もそう感じたらしく、三十分後には従業員を引き連れて、街から逃げ出していた。
俺たちもまた、その様子を一部始終撮影して、ネット上で公開した。むろん、ジュンの指示である。それが真実の映像であることを、ジュンの追っかけをしていた他組織の情報部門もまた、世界に広めてくれた。
市民社会でも、大勢の市民がこの一件を報道番組で見たはずだ。安全な小島に隔離され、バカンスを楽しんでいる親父さんとバシムも。
それ以後、繁華街からは強制売春の店がなくなった。隠れて営業している店すらなかった。路上で客引きをしていた女たちは消え、裏通りの街路は、ただ歩き過ぎるだけの場所に戻った。
そういう点、辺境は変わり身が早い。
残っているのは、煽情的なダンスやストリップを見せる店、女の子が隣に座ってくれるバーやクラブ、違法ポルノやその種の小道具を売っている店くらいだ。それも経営者や支配人たちが、
「こういう業務内容ですが、構わないでしょうね」
とセンタービルに問い合わせをしてきた上でのこと。
もちろん、ブティックや雑貨屋、武器店やレストランのような店は、普通に営業を続けている。
ただし、バイオロイドを売る店はなくなった。ジュン個人を恐れたというよりは、ジュンに好き放題やらせておく最高幹部会の意図を察したのだろう。これは、辺境の最高権力者たちが認めている、社会的実験なのだと。
俺としては内心、どんな反動が来るか恐ろしく、知り合った女たちにこっそり尋ねて回った。大抵の男より聡明な彼女たちが、この状況をどう見ているか。
――これは予想していなかったが、《アグライア》に来てからというもの、俺たち《エオス》のメンバーは、市民社会でモテていた以上にモテまくっている。とにかく、出会う女性から、軒並みデートに誘われるのだ。組織内でも、組織外でも。
辺境では、人間の女性はまだ数が少なく(男女比は九対一と言われている)、その分、どこの組織でも大事にされているが、彼女たちにとってみれば、
「自分から辺境に出てきた男は、ほとんどチンピラ」
なのである。バイオロイド美女を奴隷にして当然と思っている男たちは、〝本物の人間の女〟から見ると、人間失格らしいのだ。
「その点、あなた方はまともだから」
「可愛い妹のために、辺境まで出てきたんですものね」
ということで、断るのに苦労するほどの誘いが来る。最初は警戒もしたが、やがて、彼女たちは本当に、安心できる男と交際したいのだとわかってきた。
「不老不死が欲しくて辺境に出てきたけど、寄ってくるのはろくでもない男ばかり。デートなんて、もう十年していないわ」
と嘆く女たちが、《アグライア》内だけで何千人もいるのだ。
「これはもう、ボランティアだよな」
「まあ、人助けだ」
と覚悟して、ルークもエイジもそれぞれ、仕事に支障のない程度に彼女たちと付き合っている。エディだけは、
「総督のお手付きなんでしょ」
と見られているので、誘う女性も少ないようだが。
そういう女たちは、それぞれ自分の組織で何らかの専門職に就いているので、しっかりした見識がある。俺が意見を求めると、冷静な判断を聞かせてくれる。
「正直、驚いているわ。最高幹部会が、こんな改革を認めるなんて。でも、狙いは正しいわ」
「無法地帯の中に、たった一か所、ましな場所を作ることで、市民社会からの脱出者を受け入れやすくなるでしょう」
「方向性は、間違っていないわよ」
「逆恨みする男はいるかもしれないけれど、それこそ、実力ではね返せばいいでしょ」
「問題ないわ。娼館なら、他都市に行けば、いくらでもあるんだから」
「貴重な試みなんだから、あなたたち、総督の仕事をちゃんと助けるべきよ」
長く辺境で生きてきた女たちが、揃ってそう言うのなら……男の感覚で思うよりも、ジュンのしていることは、〝辺境の掟に適う〟のかもしれない。
とはいえ、俺としてはまだ、油断できないと思うのだが。
***
「ようし。次は違法ポルノを規制しよう」
ジュンは張り切って言う。
総督就任から三か月で、《アグライア》は変わった。中央からは、軍人や司法局員、ジャーナリストたちが偵察に来るようになっている。そして、ジュンと面会し、都市内を案内されては、感銘を受けて帰っていく。
いずれ、一般市民の辺境ツアーが細々と始まるはずだ。最初は試験的に、当局の密かな監視付きで。それがどのくらいの流れになるか、まだ楽観はできないが。
幹部会議で、ジュンは計画を語る。
「漫画やアニメや小説はどんな内容でもいいけど、実写のポルノ映画は禁止する。生きた女性や子供を使って撮影するのは、悪質な犯罪だからね。そういう商品を見つけたら没収するって、布告を出すよ」
まったく、このガキは。自分の青臭い正義が、どこまで通用すると思っているのだ。
しかし、総督の布告の威力は絶大だった。繁華街の店から、実写のポルノ映画は姿を消した。
街を歩いて、抜き打ちにポルノショップを検閲しても、禁制品はもはや出てこない。
違法都市が短期間にこれほど変貌するとは、自分の目で見ても信じられないくらいだ。
とはいえ、男たちが連れ歩くバイオロイドの侍女は、まだたくさんいる。あちこちの店の店員も、大抵はバイオロイドだ。店番や在庫品の管理など、人間には退屈すぎるが、心を持たない機械では融通が利かない、そういう業務にはバイオロイドが充てられる。
「次は、バイオロイドに週一日の休日を与えるように、布告を出そう。個室と給与は、その次の段階でね」
とジュンは調子づいて言う。俺たちは顔を見合わせたが、止めて止められるものではない。
ジュンがメリュジーヌと画面越しに話すのを、横から聞いていて納得したが、最高幹部会も、改革が人寄せの宣伝になるなら、やらせてみても損はないという計算だ。
彼らにとって、辺鄙な位置にある二級都市一つなど、たいした財産ではない。辺境には他に二百以上の小惑星都市があり、必要なら、幾らでも新設できるのだから。
しかしそれでも、ジュンに無制限の自由が与えられたわけではない。影響が他都市に及ぶことは、彼らの望みではないだろう。
あくまでも、《アグライア》一か所の実験。
いつか彼らが、ジュンの都市経営が失敗したと判断したら、それまでのこと。ジュンなぞ、競り市で売り飛ばして始末をつけるのではないか。さぞや、高値が付くことだろう。これほど鮮烈な跳ねっ返り、手に入れて楽しみたいと考える男たちが、こぞって落札に参加するはずだ。
(その時は、ジュンを抱えて逃げるしかない)
そうだ。ルークやエイジが中央に帰っても、俺は残るべきだ。いざという時、エディだけでジュンを守れるとは思えない。
(いや、未練かな……)
自分がまだ、ジュンには必要だと思いたいのだ。最高幹部会が敵に回った時、俺に何ができるわけでもないのに。
***
そのうち、思ってもみなかった副産物が出現した。
いや、ジュンのファンクラブが各地に存在する以上、予期しておくべきだったのかもしれないが。
ある日、アンドロイド部隊を連れ、エディと二人で繁華街の見回りをしていた俺は、ポルノショップの店頭で、ショッキングな宣伝映像を見たのである。
どう見てもジュンにしか見えない、短い黒髪の美少女をヒロインにしたアニメである。しかも、相当に過激なポルノ。
それも、一本や二本ではない。何十本もある。触手を持つ怪物に捕まって犯されるジュン、何人もの男に輪姦されるジュン、あるいは美女を相手に女同士の快楽に夢中のジュン。ありとあらゆる設定での痴態が描かれている。
俺は脳天に一撃をくらい、足が地面にめり込み、目がくらむ思いがした。これでは、親父さんに、
『あの子をよろしく頼む』
と頭を下げられたことに、少しも応えられていないではないか!!
おそらく、市民社会にもすぐ出回るだろうから(違法ポルノは、人口の多い市民社会でこそ、大量に売れるのだ)、司法局に対して、親父さんには隠してくれるよう、頼んでおくべきか。いや、まずはバシムだ。親父さんに付いている彼に、防波堤役を頼もう。
エディはエディで、店頭で一連の広告映像を見た後、真っ青になって口を引き結び、上着の下から銃を引き抜いた。
俺が全力で止めなかったら、それを店長の頭に突き付けていただろう。勢いで、射殺していたかもしれない。その後は、映像の製作現場に乗り込んで、破壊しまくったのではないか。
「落ち着け。深呼吸しろ。布告では、アニメまでは規制していない。規制していないのに処罰したら、ジュンの信用問題になる」
「だからといって、こんな、こんな……こんなものを!! しかも、外の道路から見える場所で!!」
エディは怒りにぶるぶる震え、必死で押さえつける俺の腕を跳ね飛ばしかねない。警護のアンドロイド兵に命じて拘束させたくとも、俺とエディの命令権は同格だから、兵が立ち往生するだけだ。
「広告は、奥へ引っ込めさせよう。とりあえず、エイジたちにも対処を相談しないと」
どうにかこうにかエディをなだめ、何とか車に連れ戻すことに成功したが、俺が後から聞いた店長の言い分はもっともだった。
「総督閣下をヒロインにしたポルノ映画は、よく売れるんですよ。実写ではなく、アニメなら構わないというお達しだったでしょう」
この業界に詳しい優男の店長は、得々として語ったものだ。
「各組織の映像作家たちは、張り切って新作に取り組んでいますよ。これからも次々、新作が出ます。売れ行きがよければ、都市の収益にもなりますし、総督閣下の評判をますます高めることになるでしょう」
毅然とした美少女だからこそ、それを徹底的に貶め、犯したいという願望が、多くの男にある……らしい。俺自身、そういう願望がないかと問われれば……答えに窮する。
確かにこれまでも、中央の歌手や女優などを登場させた違法ポルノは多かったのだから、ジュンが素材にされたことは、不思議でも何でもない。ただ、迂闊な俺たちが予想しなかっただけだ。
市民社会にできているファンクラブでは、きちんとした規約や紳士協定があり、盗撮した映像などは売らない、流通させる資料や写真もきちんと吟味したものだけ、と自己規制している。
だが、辺境の商売人たちには、そんな自制は一切ない。売れれば勝ちという世界。
それにしても、あのジュンが。
忘れたくとも、店頭で見た刺激的な映像の数々が脳裏にちらついて、頭が混乱する。
俺が最初にジュンを見たのは、母親と一緒に親父さんの出迎えに来ていた、赤いリボンに白いワンピースの少女の頃だ。
その母親が亡くなった時、ジュンは髪を短く切って、男の子のような格好に切り替えた。そして、船乗りになると宣言した。
あいつがB級ライセンスを取り、強引に《エオス》に乗り込んできて以来、俺たちは心を鬼にして、弟同様にしごいてきたものだ。父親の盾になることに決めたジュンに、それしか、してやれることがなかったから。
そのジュンが誘拐されて〝連合〟に取り込まれ、この《アグライア》で再会した時は、スタイリストが付いて特注のスーツやドレスを着せ、スター並みの華やかな美少女に仕立て上げていた。
最初は、知らない女が車から降りてきた、と思ったものだ。明るいピンクの衣装で、きらきら光る宝石をつけて。その女がすぐエディに飛びついたので、やっとジュンだとわかって、たじろいだ。
たった数か月で、これほど変わるものか。
顔は同じだし、癖っ毛の黒髪も短いままだが、雰囲気が違う。明らかに、〝女〟を前面に出すようになっている。うっすらと化粧して、甘い香水の香りを振り撒いて。
確かに、いつか、バシムに言われたことがある。ジュンもいずれ、別人のように花開く時が来るだろうと。
その通り、堅い蕾だったものが、大輪の花になりかけている。よりによって、違法都市で。
いや、だからこそ、女を出すことが武器になると、本人も覚悟したのだろう。違法組織はほとんど、男たちの天下だからだ。
それでもまだ、俺たちに頼るところは元のままだったから、こちらも胸を撫で下ろした。ジュンの中身は、変わっていないと。
だが、世間の男たちから見れば……魅力的な、若い女の一人だ。清純そうに、もしくは高慢そうに見えるからこそ、陵辱したい欲望をかき立てる。
怖いのは、それが俺自身の欲望と共鳴することだ。ジュンの顔を見る時、あの映像が重ならないという自信がない。
その晩、ルークとエイジに相談したところ、彼らは数日前に、同様の映像を目にしていたという。だが、エディをどうなだめていいか迷い、言えないままだったと。
「だいたい、本人に知れたら怖いぞ」
「今度こそ、死人が出るかもしれん」
「店ごと爆破するんじゃないか」
「広場で吊るし首かも」
「いや、日本刀で斬首じゃないか」
ジュンが知ったらどう反応するか、それが俺たちには最大の不安だった。激怒するのか、冷たく無視するのか。それとも、後でこっそり泣くのか。
怒るのならなだめられるが、泣かれたらどうする。
もしや、それで意気消沈して、市民社会に帰りたいとは言うまいな。弱気を見せたら、それこそ最後だ。最高幹部会は、そんな幕切れを望むまい。
それで俺たちは(まだ怒り続けているエディを抜きにして)、怖々、ジュンの首席秘書を務めるメリッサに尋ねてみた。女性の立場では、自分がポルノの素材にされたらどう感じるか、と。
すると彼女は、細い目を細めて、くすくす笑いだしたのだ。
「殿方って、鈍いんですのね」
何、何だと。
「そんなこと、ジュンさまはとっくにご存知ですわ。だって、作り手から進呈された見本を何本か、ご覧になっていますもの」
何だって。
あれを、本人が、見ているだと。
それで、俺たちには何も言わずに、知らん顔していたというのか。
「映像作家たちはね、自信満々でしたよ。最高に芸術的な作品に仕上げたといって。ジュンさまは苦笑なさいましたが、実害はないから、放っておけとの仰せです。どのみち、この都市で販売禁止にしたところで、他都市では流通しますもの。ですから、気になさらなくて大丈夫ですわ」
俺たちには、かえってショックだった。ジュンはいつの間に、そんな大人になっていたのだ。
俺たちの動揺ぶりを見たメリッサは、涼しい顔で言う。
「ご存じありませんの? 女は男よりずっと早く、大人になるんですのよ」
いや、一般論としては、そうかもしれないが。
「男性に口説かれるのも、強引に迫られるのも、少女の頃から、繰り返し経験しますからね。男性の愚かしさも、よく承知しています。こういう作品があるおかげで、バイオロイド女性の被害が減るなら、仕方ないということですわ。いくら下劣だと思っても、まさか、男性を絶滅させるわけにもいきませんしねえ」
その、最後の恐るべき選択肢も、一応は考慮してみた、というように聞こえる。
念のため、お目付け役のユージンの意見も聞いてみたところ、
「ポルノの素材にされるのは、女としては名誉なことなんじゃないか」
と言う。
「人気がある証拠だから、放置して構わないだろう。いずれまた、他の誰かに人気が移る時までのことだ。有名女性はみんな、多かれ少なかれ、そういう目に遭っている」
そうかもしれないが……しかし、俺は平静にはなれない。あの映像が脳裏にちらつくと、しばらく、心臓の鼓動が平常に戻らない。
「エディが聞いたら、激怒するぞ。そんなこと、奴には言わないでくれ」
と頼んだが、ユージンは平静に言う。
「彼女に一生、付いていくつもりなら、そういうことには慣れなきゃならんだろう。もしもうまくいけば、ジュンは辺境で大きな発言権を持つ存在になるんだ。普通の女の子とは違う。マイナス面も覚悟しないとな」
有名税ならば、当然、エディも理解している。そもそも、ジュンが普通の女の子ではないから、魅かれたのだろう。
それでも俺たちとしては、普通の女の子として幸せになってくれ、と願ってしまうのだが。
それは、もう無理なのか。ジュンは、リュクスやメリュジーヌという魔女たちと並ぶ地位まで登るしかないというのなら。
アグライア編7 13章 ジュン
平気なはずは、なかった。
平気なふりはして、表敬訪問の映像作家たちには笑って対応したけれど、一人になってから、いたたまれずに室内をうろうろ歩き回った。
こんなもの、いくら創作とはいえ、親父やバシムの目に触れたら、どうすればいい!! エディやジェイクたちが見たら、どう思う!!
ルークなら、深刻になることを避けようとして、本物のあたしよりグラマーで、よかったじゃないかと笑い飛ばすかもしれないけれど!!
もちろん、売り物になっているのは、あたしそのものではなく、あたしを思わせる容姿のアニメのヒロインだけれど、モデルがあたしであることは、誰にでもわかってしまう。そのように描かれている。
ショックというものは、その時よりも、後からじわじわ出てくるものだ。
みんなと普通に夕食を摂り、お風呂を済ませてベッドに入っても、進呈された映像の場面がちらつき、夜中を過ぎても眠れなかった。
あんなこと。あんなこと。あたしの顔して。あたしの声音で。あたしじゃないけど。はしたない。えげつない。あれでも上品な部類だって!?
世間の男たちは、もし機会があれば、ああいう真似をしたいと思っているわけ!? あたしに対して!?
それとも、誰がモデルだろうが、とにかく若い女なら、捕まえて、徹底的にいたぶりたいわけ!?
ああ、そうだよね。だから辺境に出てきて、無抵抗のバイオロイドを培養するんだ。もし、あたしが将来、最高幹部会から切り捨てられたら、どこかに売り飛ばされて、ああいう目に……いやいや、怖い想像はやめよう。悪いことを考えると、きりがない。
にしても、男種族が隠し持っている、女への憎悪というもの……それがまだ、連綿と続いていることは、よくわかった。たぶん、どんなに優しい男でも……家庭を大事にする男でも……ああいうものを欲する面があって……だから市民社会でも、違法ポルノはずっと売れ続ける……
過去にシドにされたことが、再び蘇った。忙しくて、ほとんど忘れていたのに。アイリスが助けてくれなければ、本当に、どんな目に遭っていたことか。しかもシドなんて、まだましな部類なんだ。あいつには少なくとも、あいつなりの美意識があった。自制心もあった。
だけど、圧倒的多数の男たちは。
理屈では、これまでもわかっていた。現実に、バイオロイドの女たちは、ああいう真似を強要されている。最後にはぼろぼろになって、殺される。どこにも救いがない。
だからあたしは、一日でも早く、娼館を廃止したかった。せめて、この都市だけでも。その分、商売人たちが空想の世界に力を入れることは、よくわかっていたけれど。
あたしはとうとう起き出して、メリュジーヌに面会を申し込んだ。
生活時間は同じだろうから、もう寝ている、明日にしてくれと断られるかもしれないと思っていたけれど、少しの待ち時間で、プラチナブロンドの妖艶な美女が画面に現れた。しどけない部屋着姿だが、完璧に美しい。
「どうしたの、何か困りごと?」
そんなことでショックを受けるなんて、お子様なのねと言われると思った。けれど、他には訴える相手がいない。秘書のメリッサに対しても、強がるしかなかった。だって、あたしは上司なんだもの。
いや、何とかするなら自分でするけど(本質的な解決にはならないが、この都市内のことなら、新たな作品制作を禁止するとか、高額の上納金を命じるとかはできる)、とにかく、混乱した胸の内を聞いてもらいたい。自分では、何にこんなに動揺しているのか、分析しきれない。
怖いのも確かだが、それだけではない。自分がそういう目で見られることが……つまり、魅力的な女として見られることが……目標の一つだったのではないか。つまり、子供扱いから脱却することが。
あたしが、自分をモデルにした違法ポルノのことを訴えると、メリュジーヌは静かに頷いた。
「ああ、それね。わたしもリュクスも経験済みよ。さんざん悪役にされたり、サディストの変質者みたいに描かれたりしたわ。最近は、飽きられたのか、登場頻度は落ちたと思うけれど。〝リリス〟をモデルにしたポルノもあるわよ。これまで、見たことなかったの?」
なかった。いや、メリュジーヌたちが映画や小説で悪役扱いなのは、よく知っていたけれど。そうか、〝リリス〟もなのか。
「まあ、ショックでしょうね。それはわかるわ」
え、わかってくれるの?
「あの、あなたも……? 怖い目に遭ったりとか……?」
「わたしが辺境で活動を始めた頃は、もっとひどかったわ。男ばかりの組織で女が生き残るには、それこそ、ありったけの知恵と度胸と、そして幸運が必要だった。でなかったら、都合よく誰かの愛人にされて、使い捨てだったでしょう。わたしはたまたま、幸運だったのよ。その幸運に恵まれなかった女たちは、発狂したり、洗脳されたり、売り飛ばされたり……」
そして、知っている実例を話してくれた。若い頃に、命からがら、色々な危険から逃れたことも。
メリュジーヌも、今の地位にたどり着くまでに、地獄をくぐり抜けてきたんだ。
「でも、わたしの場合は、あなたとは少し違うかもしれないわね。今のこの肉体は、バイオロイドのものよ。もちろん、本来の脳を犠牲にしたのではなくて、最初から移植用に育てた、精神のない肉体だけれど」
ああ、そうなのか。
「自分が理想だと思う美女の姿に仕立てて脳移植したから、今は満足しているわ。元のわたしはね、陰気で、痩せぎすで、引っ込み思案で、そういう自分が嫌いでたまらなかった」
え、そうだったの。天下の魔女が、まさか、引っ込み思案だった、なんて。
「陽気に振る舞おうとしても、長くは続かないの。鏡で自分の姿を見ただけで、心が真っ暗になってしまうのよ。綺麗な友達を見て、嫉妬してしまうことも惨めだった」
今のこのグラマーな肉体は、過去と決別するために選び取った姿だったんだ。常に美しく装っているのも、強い意志の表れ。
「三十を過ぎて辺境に出たのは、人生を変えたかったからよ。元のわたしは、男たちの目には、まるで見えないもののように無視されていたわ。でも、脳移植して美女になったら、扱いが変わった。ちやほやされたし、贔屓されたし、獲物として狙われもした。最初は戸惑ったわ。でも、嬉しかった。ようやく、女扱いしてもらえるようになったと思って」
あたしは自分のことを忘れて、メリュジーヌの話に聞き入っていた。さすがは〝女〟の大先輩。
「でも、女として狙われることが日常になると、その不自由もわかるようになった。男の卑しさにも、うんざりした。常に警戒し続けていると、男が全て敵に見えてくる。自分を餌食にしようとする敵ね。女でいることに疲れて、男の肉体に乗り換えたり、中性になったりする女も見てきたわ」
あたしはまだ、そんな段階ではない。ようやく、子供から女の領域に入りかけたところ。
「何とか心と肉体のバランスがとれるまで、何年もかかったわ。それからは、理想の自分をまず演じようとした。美しく、優雅で、冷徹。演じているうちに、中身が追いついてくる。だから、外見は重要なのよ」
うん、わかる。油汚れのついた作業服の時と、美しいドレスの時とでは、自然と振る舞いが違ってくるもの。
「それに、男には善良さも、純真さもあるわ。女は、彼らのそういう面を引き出せばいいのよ。もちろん、悪い面が強ければ、排除すればいいのだし」
メリュジーヌなら、容赦なくそうするだろう。あたしだって、必要な時には殺してきた。これからだって、戦える。
「話してくれて、ありがとう」
こんなこと、おいそれとは打ち明けないことだろうに。
「あなたに成功してもらわないと、わたしの手柄になりませんからね」
澄ましたその台詞にも、今は笑って対応できる。
「あたし、恵まれているんだね」
あたしは周囲を《エオス》の仲間に守られている。父もバシムも遠くから、心配してくれている。脳移植をしたいと思うほど、自分を嫌いだったこともない。
「そうよ。あなたは元から美人だもの。ただ、ちょっと飾ればいいだけ。世間の男から注目を浴びるようになれば、当然、副作用もあるわ。それは仕方のないこと」
とメリュジーヌは言う。
「この世界では、長いこと、男たちが暴力で〝常識〟を作ってきたの。名前の知られた女でも、そうでなくても、女だというだけで、ありとあらゆる被害に遭うわ。あなたは父親が有名人だったから、その意味では、父親の名声に守られていた分があるわよ」
そういうものか。
頼れる父親のいない娘は、もっと早くから、悔しい思い、心細い思いをするものだとメリュジーヌは言う。たとえ、市民社会でも。
「危害を加えるのも男だけれど、守ってくれるのも男なのよ。もっといいのは、女同士で団結して、自分たちを守ることだけれどね。何しろ、男たちは阿呆だから。守ることと、支配することの区別がつかない男も多い」
うん。うん。
「男の下劣は仕方ない。奴らは、そういう生き物なのよ。雄の使命は、雌をはらませること。人間であっても、その本能は変わらないわ。なまじ知能が高いだけ、性欲が支配欲とからんで、面倒なことになっている。それを否定するなら、有性生殖をやめて、人間を超えるしかない」
「そこまでは、さすがに……」
アイリスや、他の実験体のように、人間ではない種族が、これから増えるのだとしても。あたしはまだ、今の自分でいたい。
「あなた、好きな男がいるんでしょう? その男とだったら、恥ずかしい行為をしてもいいのよね? 自分では、そういう空想をするでしょう?」
不意に指摘されて、言葉に詰まった。耳が熱くなる。何と答えればいいのか。振り向いて欲しい人には振り向かれず、どうでもいい連中にいやらしい目で見られる……それが理不尽で、もやもやしていたんだ。
でも、メリュジーヌは返答を求めず、淡々として言葉を続けた。
「それでいいのよ。まだ若いのだから、自分の人生を楽しみなさい。恋愛もすればいい。外野なんて、放っておけばいいの。猿の群れが、キーキー言ってると思いなさい」
そうか、外野か。猿の群れか。
「あなたに憧れる男がどれだけいても、あなたは無視して、自分のしたいことをすればいいのよ。男たちの方は、すぐまた別の憧れを見つけるんだから」
通話を終えた頃には空が明るんでいたけれど、心はかなり楽になった。メリュジーヌには、言葉が通じる。魔女かもしれないが、魔女にならなければ、生きてこられなかったのだ。
それなら、あたしも大丈夫だ。やっていける。あたしには、守ってくれる男たちもいるし、女たちの連帯もあるんだもの。
それに、もう一つ、いいことがあった。中央にいるチェリーからのメッセージだ。
『ジュンお姉ちゃま、わたし最近、小説書いて友達に見せているの。ブログでも好評なのよ。ナイジェルお兄ちゃまから、エディお兄ちゃまの子供の頃の話を聞いたりして、イメージがふくらんできたの。男性の、切ない片思いの話を書いているから、暇な時に読んでみてね。エディお兄ちゃまには、内緒の方がいいかもしれないけど。もし見られても、完全な創作だって言っておいてね』
あの子も、自分の人生を楽しく生きている。よかった。あたしが元気で頑張る姿、チェリーにも見せないといけない。チェリーが何か悩んで相談してきた時、ちゃんと励ませるあたしでないと。
アグライア編8に続く