やっちゃば一代記 実録(44)大木健二伝
やっちゃばの風雲児 大木健二の伝記
マコモ
大木が輸入野菜に手を染めたのはオリンピックの頃だ。
最初に思いついたのが中国料理に使う【マコモ】である。
戦時中、赴任していた上海周辺の沼地に密生していて、食卓にもよく上った野菜である。現地ではあまりにあふれていて、中国人の給仕が「市場で買ってきました。」と言っては、しょっちゅう食べさせられたが、それが実は沼から引き抜いてきた【マコモ】で「買ってきました。」と言っては代金をくすねていたのである。大木は知らぬふりで食べ続けた。が、多少しゃくに障る気持ちがあったから、とりたてて美味しいとも思わなかった。だが復員して再び野菜を扱うようになると、【マコモ】への郷愁がふつふつと湧き上がってきたのである。
【ジャオパイスンズ】マコモの中国名である。大木は和名よりはこの中国名にこだわった。その響きは領事館付きの警察官に着任した当時の自分を髣髴とさせるのだった。