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私は自由に泳ぎたい人間
父は回遊魚。群の中に居て、ずっと泳ぎ回って、違う群の中に移動したりする。
母は貝。自分の世界に閉じこもって、誰かと一緒に居たいと思っても、殻があるから近寄れない。
私は…。クラゲでありたいと願う。カクレクマノミだ。
旦那は、イソギンチャク。
イソギンチャクさんは、守ってくれる存在なのだが、何かをしてくれる訳でもない。
でも、「遠くに行ったら食べられちゃうよ〜。」って言うから、とりあえず近くにいる事にしている。
けれど、私はこっそり近場の旅をしている。
すると、フワフワと波と流れと一体化する、クラゲに出会う。
私はその姿に憧れる。
自分も毒を持ち、誰から狙われるでもなく、のんびり気ままに流れていきたい。
そう思って、またイソギンチャクの所に戻る。
心地よいと思っているけど、自由に大きな世界で泳いでみたいと思ってしまう。
イソギンチャクは、危ないというけれど、こうやってちょっと離れたとて、無事なんだよな。
そう、思いながら、遠くのイワシの群を眺めている。
地面から管みたいな物を出し、突然獲物をパクリと挟み込む貝の姿を見る。
ここに、この姿に産まれてしまったら、別の生き物にはなれない。
それでも、少し旅をして、まだ見ぬ世界を感じる位は許されたい。
それで一生が終わってしまっても、良いと思うのだが、多分、自分が思っているより世界は広いのだろう。
しかも、すっかり臆病になってしまった。
ここにいれば安全。
本能がそこに留まらせようとする。
でも、この場所でだってやれる事はあるかもしれない。
そんな事を考えて、今日もイソギンチャクの周りを泳いでいる。
自分は毒を持っていると思っていた時もあった。
自分の、姿は特に特徴もないと思っていた。
まずは自分の姿や形を知って、どんな泳ぎ方が出来るか学んでいく。
どんなに憧れても、クラゲにはなれない。それだけは、諦めなきゃいけないのだと思う。
それに、本当になりたいのは別の魚なのかもしれない。まだまだ知らない事が多いのだとも思った。