母
もの凄く久しぶりにお酒を飲みましたね。
母。半世紀以上前の話?
えっ? 当時の若い頃の話ですか。良いですよ。聞かせて下さい。
旅行ですか? 19〇〇年代では珍しいですね。
えっ? 『ソ連』? はぁ、まぁ、ロシアの前の国ぐらいには知っていますが。
空港に着いたら銃を構えた兵隊がいる? 大丈夫ですか? まぁ、笑ってましたから大丈夫なんでしょうが。
ベルリンの壁? 近づいたら撃たれる? 怖くて行けなかったと。
母。それは行かなくて正解だったのでは。撃たれていたら私は今頃この世にいなかったですよ。
物がなさすぎて使いかけの歯ブラシも盗まれた。いやぁ、それは信じられない話ですね。
面白いです。所々記憶が霞んでいるようで。頑張って思い出してみてください。私、気になります。
どうだったっけ? 思い出してみてって?
母、誰かと勘違いしてませんか? 私は知りませんよ。生まれてませんからね。
指をトントントントン。母、頑張って記憶を辿っていますね。
たしかそうだったはず! 覚えているでしょ?
いや、母。ですから私は存じません。同調を求めても、半世紀以上前の時代を私は共に過ごしておりません。
う~ん。たしか、あの時、どうだった?
面白いですね。私は聞くだけです。半世紀以上前の話を生で聞ける。
携帯がないから苦労した? そうでしょうね。SNSなんてありませんよね。
ただ、聞いてて思います。
当時も必死だったのですね。若くて体力の有り余る母。
そのDNA。きっと少なからず私も受け継いだのでしょうね。
懐かしそうに笑い、今の時代と変わらぬ笑顔で乗り越えていた母。
未来は誰もわからないと言いつつ、令和の時代の私に話す。
懐かし思い出話を一緒に聞くことは、私でも出来ますよ!
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