おしゃべり図書館
そのドアが開くと、懐かしくて、新しい匂いが迎えてくれます。
そして私の後ろでドアが閉じれば、外界の肌に合わない生活音やたくさんの色が重なった景色から遮断されます。
私は、そんな図書館が好きです。
たとえば「静かに過ごす」という当たり前のルールが私をまず守ってくれます。
本当はいけない事かも知れませんが「むやみに話さなくてもいい」これはとても楽な時があります。
集まる人々は何かを学びたいとか、知りたいとか、そんな自分に入り込んだ場所なので、あまり他人を気にしていない気がします。たくさんの本と自分の意識の中で会話しているのでしょう。
そして不思議なことに、話し声は聞こえないはずの図書館で、とても楽しそうな問いかけが、毎回決まって聞こえてきます。
声に耳を傾けてみると、それはいつもは誰かの大きな声に消されてしまう、私の中の心の声でした。
少し不思議で、そして嬉しくて、私はいつもより聞き上手になって、そんな声を拾い上げます。
良いも悪いも答えは無くて、誰の機嫌を察することも無い、少し身勝手かも知れませんが、穏やかな声です。
小さい頃から誰かの期待に応えることを最初に考えてしまう…そんな武装をしながら生きてきたけれど、歳を重ねて少しずつ盾を置き、槍を置き、鎧を脱いでいった暮らしの日々を話す声。
いつもは消されてしまう小さな声ですが、今日はじっくり耳を傾けてみようとと思います。