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二人のビッチと結婚して、三人のビッチを育てた。「喪う」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vol. 15

AWARDS PROFILE Vol. 15

喪う

各映画サイト評価

Rotten Tomatoes: 97%
Metacritic: 84
IMDb: 7.2
Letterboxd: 3.8

あらすじ

 ケイティとクリスティーナ、レイチェルの三姉妹は、ニューヨークにあるアパートの一室で久しぶりに顔を合わせる。三姉妹の父の余命が迫っているからだ。その再会は、長らくすれ違ったまま止まっていた姉妹の時計の針を動かすことになる...。

監督・キャスト・注目ポイント

 「ラバーズ・アゲイン」や「フレンチ・イグジット 〜さよならは言わずに〜」といった作品で、こぢんまりとしたスペースを舞台に、ぎこちない家族のドラマを紡いできたアザゼル・ジェイコブズ監督が、今作のセンターに置くのは、余命わずかな父親を看取るために久しぶりに集まった三姉妹の物語だ。毎度、オリジナルの物語と一筋縄ではいかない登場人物を操って、万華鏡のようにキラキラと変化し、二度と同じ形にはならない人間の心の美を映す監督の人間観に魅了されることだろう。

基本的に舞台はアパートメントの室内のため、舞台劇的でもある。それでも工夫がなされた照明や差し込む陽光、窓の外から覗くニューヨークの街並みが作品に不思議な広がりを持たせる。

そんな彼が当てがきしたというキャストには、キャリー・クーンエリザベス・オルセンナターシャ・リオンの三者三様、それぞれが個性的な三人。どうしてもすんなりとはいかない三姉妹の関係性をリアリティいっぱいの掛け合いで掬い上げる。彼女たちは演じるだけでなく、製作総指揮にも名を連ねており、裏方からも作品をバックアップ。またアパートに差し込む柔らかな光が印象的な撮影は、「フランシス・ハ」をはじめとするノア・バームバック作品や「レディバード」等でも瑞々しい撮影をみせたサム・レヴィが担当している。2023年のトロント国際映画祭で上映されて、素晴らしい評価を得ている。


※ネタばれはしてないとは思いますが、注意だけはしておきます。良い映画なので是非観てください。

個人的感想

 実家アパートでホスピスケアを受ける余命僅かの父を看取るために娘たち三姉妹が集まる。近しい人間に死が近づいているあの独特の緊張感を切り取りながら(隣の部屋で鳴り続ける心拍のピーピー音)、身も心も距離のある三姉妹が何とか歩みを合わせようとする。

ケイティ(キャリー・クーン)は常に手を動かし、じっとすることがない。ずっと近くに住んでいたのに、父に顔を出すことがあまりなかった。何もしないレイチェルにフレーム外から容赦なく言葉を浴びせる。

父の延命拒否の書類手続き、新聞に載せる死亡記事を考えたり手を動かすことで気を紛らわすケイティ。歌を歌ったり、ピリピリする空気を和ませようとする柔らかなクリスティーナ。そして部屋にこもって、マリファナを吸って、賭けのためテレビにかじりつくレイチェル。

クリスティーナ(エリザベス・オルセン)は夫と子供と共に離れて暮らしている。家族におけるピースメイカーだが、父の死から来るストレスに皆から見えないところで耐えている。

三者三様の死への向き合い方に自分自身を重ねつつ、彼女たちの描き分けがしっかりとなされる中で、ある意味で典型的なキャラクターたちが、物語が進むにつれて冒頭とは異なる姿を見せていく。それをさりげなくみせていく情報の落とし方が良い(冷蔵庫の腐ったリンゴ、グレイトフル・デッド、家族の歴史、etc...)。それを互いに知ることで、衝突を繰り返しながらも姉妹の心のつぶてが砕けて、一見してあった姉妹の溝が埋まっていく。

レイチェル(ナターシャ・リオン)はずっと父と同居していた。マリファナに賭け事とちゃらんぽらんな態度がケイティをイラつかせる。父のいる部屋に入ることがなく、状況を受け入れきれない感じ。

クーンとオルセン、リオンは三姉妹それぞれの個性を最高に引き出している。特にリオンの血の繋がりを超えた思いにグッとくる。彼女たちの父の言葉「人の死を映像や言葉で表すのは幻想でしかない、唯一それを感じさせるのは存在の欠如を通してだけだ」を基に、映画は終盤でサプライズを演じる。これまでのリアリティある流れを断ち切る演出に困惑しながらも、まさにこの言葉に沿ったエンディングで物語は幕を下ろす。そこには、この映画でしか生み出せない喪失と死の感覚が息づく。でもたとえどんなに哀しく困難な時でもユーモアは顔を出す。 

ジェイコブズ監督は、そこに人生の不思議を見つけ出す。喪うことで得ることもあるのだと笑顔をみせる三姉妹の表情に、この作品の芯の強さを見る。

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祖父へ捧ぐ。

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