2023年に観た新作映画TOP10!
2023新作TOP10
2023年に観た映画のランキングを発表します。
「RRR」と「ケイコ 目を澄ませて」(厳密には二作品とも2022年の映画)から始まり、「PERFECT DAYS」で終わった今年の映画館での鑑賞と「ライ・レーン」から始まり、「マエストロ:その音楽と愛と」で終わった配信の作品を合わせた2023年に観た新作をランキングにしました。
惜しくもランクインを逃した優れた作品としては、崖っぷちポルノスターの土壇場で発するギラついた輝きがウザかった「レッド・ロケット」、のどかに見えたアイルランドの孤島が殺伐としていく友情破綻コメディの「イニシェリン島の精霊」、前作からストーリーとアクション共にパワーアップした「長ぐつをはいたネコと9つの命」、はみ出し者たちのどんちゃん騒ぎの場だった20年代ハリウッドをケバケバしく描いた「バビロン」、そしてシリーズ最長かつ二部作の前半でありながら、スリリングなアクションと、AIが絡んだタイムリーな物語で魅了した「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」が名を連ねました。これらの作品を抑えてトップ10入りした作品はこちら。
第10位
「バービー」
【ひとこと】バービー人形の映画を観て、現代社会に向けて多角的な視点を与えられるとは驚いた。笑いをあちらこちらで振りまきながら、社会の中で生きる女性が感じる喜怒哀楽をスケッチしていく。混乱を抱えたバービーの旅路が美しい。また、バービーの添え物ケンの旅路も無駄にはされない(ゴズリングの一世一代の名演)。破茶滅茶なジャーニーの果てに、たどり着く”What Was I Made For?”の問いに涙する。
第9位
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
【ひとこと】こんなに長い映画を作っても、集中力を切らすことのないスコセッシの手腕はやっぱりすごい。3時間半の間にアメリカと先住民の憎悪に満ちた関係性を濃縮する。その中でディカプリオとデ・ニーロたち、スコセッシお馴染みの共犯者が暗躍する。ただ最も大事にされるのは沈黙した先住民たちの声だ。それを体現するリリー・グラッドストーン演じるモリーの凛とした立ち姿に真の強さをみる。
第8位
「ノースマン 導かれし復讐者」
【ひとこと】バイキング?復讐譚?冷え冷えとした荒涼とした土地に苦手な言葉が並ぶが、この映画の持つ熱量はそんな不安を吹き飛ばす。父を殺された息子のヴァルハラへの道のりに男たちの骨を砕き、皮を裂き、血を吹き散らし、首がはね飛ぶバトルが待ち受ける。男たちの運命を握る女たちの姿も印象的だ。ロバート・エガース監督によるディテール細やかに作られた世界で、血湧き肉躍る大胆不敵なリベンジが繰り広げられる。最高じゃない。
第7位
「別れる決心」
【ひとこと】映像表現における究極の到達点に監督パク・チャヌクはたどり着く。思いがけずして想い合うようになる刑事と容疑者の女の物語はありがちではあるが、作品からは言葉をもってしても浮かび上がりきらない感情のうねりを感じる。完全なる呼応をみせる撮影と編集が、作品をただならぬスリリングなレベルへと引き上げる。キャラクターのちょっとした仕草ひとつ、何気ない場面に細部へのこだわりが張り巡らされていて、ひと時も気を抜かせない綿密なものとなっている。山と海という対立する主題を繰り返しながら、大きなクライマックスへと導かれる。主役カップルのパク・ヘイルとタン・ウェイに惚れ惚れ。何度観てもたまらない傑作。
第6位
「TAR/ター」
【ひとこと】映画の「終幕」から始まるオープニングからのクラシック音楽の固有名詞連発のインタビューシーンとのっけから高尚な香りの濃さがとてつもない。その高尚さのエンジンとなるのは主人公リディア・ター、その人だ。クラシック界の頂点に立ち、オーケストラでも家庭でも自分の思い通りに振る舞い、周りの人の人生に良くも悪くも影響を与えていく。自分こそが全ての支配者。「成功」という二文字が生み出した怪物のようだ。だがあるトラブルがキッカケで、漂っていた高尚さが作品とターから引き剥がされていく。身ぐるみを剥がされた彼女を待つエンディングも痛烈だ。また、ある種の希望も感じるところ、一本決まったということだろう。そこでふとオープニングを思い出す。始まりが終わりだったのだと。
第5位
「マルセル 靴をはいた小さな貝」
【ひとこと】可愛い。目を凝らすと家の隅にいる貝。大きな一つの目と小さな口がついていて、しかも靴をはいている。その名はマルセル。とぼけながら核心をつく優しい貝。祖母と一緒に暮らしている。その家の住人となった映像作家(人間)が彼らにカメラを向けることで、その微笑ましい生態と共感100%の孤独が浮かび上がる。彼らはひょんなことから、コミュニティからはぐれてしまったらしい。マルセルは家族を見つけるために大きな世界へと踏み出す。その姿に誰もが勇気づけられるだろうし、祖母からの励ましも泣かせる。どんなに小さくても世界に居場所がある。マルセルが世界とハーモニーを奏でる背中にグッとくる。
第4位
「ガール・ピクチャー」
【ひとこと】なぜだろうか。性別も境遇も彼女たちとはまるで違うのに、彼女たちが一喜一憂する度に、観ているこちらも喜び怒り哀しみ楽しくなってくる。監督アッリ・ハーパサロによるキャラクターに注がれた優しく温もりのある視線がそうさせるのだろう。もちろん寒そうなフィンランドで青春を送る主人公三人を演じるアーム・ミロノフ、エレオノーラ・カウハネン、リンネア・レイノが繊細に若さ弾ける息吹をキャラクターに注いでいるのも大きな魅力になっている。なんてことのない普通の話だけど、それが特別なのだと気づかせる青春賛歌だ。あと、サントラが最高。
第3位
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
【ひとこと】すべてが。あらゆる場所で。一度に。このタイトルの通り、すべてがあらゆる場所で一度に展開する。それはそれは混乱することでしょう。でも大丈夫。監督デュオのダニエルズはアジア系移民のコインランドリー屋のおばちゃんを主人公にして、その混乱を共感へと変換させる荒業を繰り広げる。主人公一家の苦悩やすれ違いをしっかりと見せながら、時にしょうもないネタを放り込んで、どんどんと話のスピードを上げていく。最後には家族の知られざる思いにグッとくる。マルチバースがよく分からなくてもそれでいい。物語の最後の主人公一家の表情を見れば、ジェットコースターのようにアップダウンする今作に、人生のアップダウンを重ねざるを得なくなる。
第2位
「aftersun/アフターサン」
【ひとこと】少女と父親がトルコへ旅行に行く。ただその様子を眺めているだけなのに、段々と胸が苦しくなってくる。「日が沈む前に、全部抱きしめたかった。」こんな言葉が頭に残ります。映画が終わった後もずっと。
第1位
「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」
【ひとこと】「スパイダーマン:スパイダーバース」でアニメーションの最先端に行き着いたかと思いきや、それをまた超えていく作品が誕生した。映像の隅々から感じる熱気と魂、胸躍るスパイダーアクション、そしてキャラクターたちの抱える思いや運命が大胆不敵に交わる。大量に出てくるキャラクターたちもみんな個性的だ。世界が変わるごとに絶妙にスタイルを変えてくる音楽も天才的。次回作が楽しみ。マイルズ、運命を超えてゆけ。