昔、耳の中にダンゴムシを入れた話②
ある日、母が私の耳掃除をしていた時、耳のだいぶ奥のほう、何やら堅い壁のようなものがあることに気づいた。耳の器官か皮膚の病気かを疑った母は、私を耳鼻科に連れて行った。
この段階で、もう私はダンゴムシのことをすっかり忘れちゃっていて、自分も何かしらの大病に罹患してしまったのだと思っていた。…うん。やっぱりアホだったんだろう。振り返ってみると我ながらそう思う。
耳鼻科にて、何本もの銀色の器具を駆使しながら、その器具の針のような細い先端で、例の壁をつっ突いた先生は、
「………石?」
と呟いた。
先生「これ、どうも小石のようですね。🤔」
母「石?😳」
私の心の声「……石?🙂?」
先生「ええ。石ですね。😓」
母「石って、体内で作られた石ってことですか?😳💦」
私の心の声「……石?🙂?」
先生「いや、たとえばふざけて耳に石を入れたとか…😅」
母「人間から石が出来るんですか?😱」(※テンパりすぎて話聞いてない)
私の心の声「……石?🙂?」
先生「…まあ、取れそうなので取りますね……😅」
母「えっ、人体から石が作られるんですか?😱」(※テンパりすぎて話聞いてない)
私の心の声「……石?🙂?」
先生「よっ、取れました。」
母「ギャアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
黒っぽい球体だが、所々に中心部にめがけて白いスジが入っている。よく見たら少し裂け目があって、細い線が飛び出している。それはまるで虫の足みたいで……………
私の心の声「……………‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎💥💥💥😳💥💥💥‼︎‼︎」
私の声「ダンゴムシ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
…思い出した。そうだ。今全部思い出した。ああ、忘れていた。今の今まですっかり忘れきっていた。けど、そうだ。そうだった。これはかつて耳の中に入れたダンゴムシだ!
雷に打たれたかのような衝撃とスピードで記憶喪失状態から回復した私は、思わず子ども特有のつん裂くような声で叫んだ。
懐かしい彼の名が診察室に響き、そしてたちまちに響き去っていった。
私以外のその場にいた人間は、一体全体何が起こったのかわかっていない様子だった。母は相変わらず、いや、なおのこと悲鳴をあげている。もしかしたら人体からダンゴムシが錬成されたと思っていたのかもしれない。
一番最初に反応したのは先生だった。やはりお医者さんは頭が良い。すぐにことを理解して、また何故かわからないが、急にお湯が沸騰したように、ボルテージMAXという感じの表情と語気で、興奮しながらこう言った。
「本当だ!ダンゴムシだ!!!!凄い!!!僕これもらっていいですか!?」
以上が、私が昔、耳の中にダンゴムシを入れた話の顛末だ。
どうして先生がダンゴムシを欲しがったのかわからない。
ダンゴムシが好きだったのかもしれないし、単に珍しかっただけかもしれない。
その後の私の説明を聞いて、何か研究にでも使われただろうか。
いや、それ何の研究やねん。
けど人間の耳の中で数年間の時間を経たダンゴムシなんて、そんなサンプル他にどこにもないだろう。
…さて、ここで、改めて結論なのだが、耳にダンゴムシは入れないほうがいい。その理由やデメリットは明白。ダンゴムシが死んでしまうというその一点だ。
今でも本当に、そのダンゴムシには申し訳ないことをしてしまったと思っている。私はもう二度と耳の中にダンゴムシを入れない。なんてこう言うとふざけてるように聞こえるかもしれないが、私はもう二度と、金輪際、耳の中にダンゴムシを入れない。
どうかこの記事を読んで皆様も、耳の中にダンゴムシを入れないようによろしくお願いいたします。