中国SNSでバズって中国の騎楼がどこにあるかまとめてみた話
騎楼について
まず、私は「騎楼」が大好きである。騎楼とは中国語で、長屋状の建物の2階部分が1階部分の通路上にせり出すことで連続した軒下部分を作り出しアーケード状になっている近代建築をいう。これらは、中国大陸南部・香港・マカオ、台湾、華人の住む東南アジアの都市などに見られ、シンガポール、マレーシア等の南洋ではショップハウスと呼ばれる。
これらは、書籍によると、もともと英国の海峡植民地であったペナン、マラッカ、シンガポールで植民地政府がその規格を定めることで整備が進められ、それらの地域に多く存在していた華僑・華人が中国南方の故郷の地に持ち帰り中国南部でも多く建設された。また、海峡植民地ではなかったタイのプーケットなどにもみられ、移民の手により南洋域内でも広まったことが伺える。東南アジアではその強い日差しやスコールを避けられることから普及し、また同様の理由で中国南部でも普及したのではないか。
個人的には、欧州と中国それぞれを感じさせる要素が混合したその意匠がとても魅力的だと感じている。例えば欧州風のアールデコ調を取り入れつつも屋根の断面が中国伝統建築の様式をしていたり、中国語の縁起の良い言葉が飾られていたり、中国南方の廟や家屋に見られる剪粘(Jian Nian)や嵌瓷(Qian Ci)と呼ばれる磁器の破片を使った装飾が使われていたり。また、そのような意匠には新時代への希望が込められていたのではないか、そういった時代背景も普及した要因としてあったのではないか。SNS上では、中国南部では南方から持ち込まれた騎楼の意匠に対し「南洋風」と呼ぶ人も多いようだ。
中国SNSで
騎楼があまりにも好きなため、中国SNSで「騎楼が好きだ、旅行する際の参考としたいのでどこにあるか教えてください」と、騎楼があることを知っているいくつかの地名を挙げつつ投稿をしたのだが、意図せずその投稿がバズってしまい、ここにもある、ここにもあると1,000件以上のリプライが来た。中国も誰かが何かを言ったことに対してああだこうだというのが好きなようだが、まさにその形に当てはまってしまいリプライが多くきてしまったようだ。事情によりその投稿は非公開にしたのだが、せっかくなので個人的な旅行の参考用に地図にまとめることにした(地図にすることは主たる目的ではなく、繰り返すがせっかくなので個人的な旅行の参考用にまとめるだけである)。地図上のピンと地名を同時に表示する方法を知らないので暫定版として完全手作業によるビッグデータ処理(笑)を行った。
リプライには騎楼の存在する各都市名だけでなく、その都市内の地区名や特にどこがどのような雰囲気でおすすめだとか、いわゆる商業化された(きれいに改修されすぎて味気ない)騎楼街なのかもしくは昔ながらの生活感のある騎楼なのかについてのコメントなどを多数頂いたのだが、情報として処理しきれないため、まずは地名を地図に落とし込むに留めた。コメントの一部は後段で紹介する。
こちらが、Google Map上に地名を張り付けたものである(Google Mapが使える地域に住んでいるためGoogle Mapを使用しているが、そもそも中国ではその使用が認められておらず、それはご留意頂きたい)。市や県のランクを示す市・県級は意識しておらず、異なるレベル感の都市名がプロットされている点も容赦頂きたい。吹き出しの指す場所も必ずしも正確ではない。
そして、まとめてみて思ったのが、1) 華僑・華人が持ち帰ったといっても、これほどまでに多くの地域に見られることに驚くこと、2) それらは南洋における華人の出身地名とかなり重複していることからも華僑・華人が持ち帰った説が正しそうなこと、3) 沿岸部だけでなく内陸にも存在しており、広州、厦門などの大都市から内陸へ波及していった可能性もあること、が伺える。
SNSで頂いたコメントをいくつか紹介したい。
コメントから、心象風景としての、現在存在している/改修する前の姿で存在していた/かつて存在していた騎楼を垣間見ることができた。またコメントからは、かなりの地域で政府による一部取り壊しや、老朽化によって人が住まなくなってしまったところ、「商業化」により従来の味わいがなくなってしまったことを、「残念」だったり「当時の騎楼への懐かしさ」を感じている人々も多いのではないかと感じた。いつの時代、国でもある話ではある。日本の商店街も同じだ。一方で、「商業化」せず、人々の生活感が漂い味のある、オリジナルな騎楼が残る地域もまだまだ多くあるようだ。都市化が進み多くの住民が集合住宅に居住するようになるなかで、全ての騎楼をきれいにメンテナンスし続けるのは難しいことだし、騎楼に限らず、中国だけに関わらず伝統建築は同じような課題を持っているように思う。シンガポールでも人口増加に対応するために都市開発の過程で多くのショップハウスを取り壊し、近年になりその歴史的価値に気づき保存の取り組みがなされている。
参考:
シンガポールでショップハウス保存のワークショップに参加した話|LiveinAsia (note.com)
最後に
この壮大な南洋と中国南部の間での人と文化の交流、中国南方で騎楼の建設を企図した人々、そこで生活する人々が抱いたであろう新時代への期待感を想像するとロマンを感じずにはいられず、今回まとめてみた一個一個の地名を見るたびに胸がときめいてしまうのである。全て回るには人生はあまりにも短いが数年以内にいくつか回ってみたいと思っている。
ちなみに、SNSでのリプライで「京海市」と回答してくれた方が多くいたのだが地図で調べても出てこず、これは実は最近とても流行したドラマ「狂飙(Kuang Biao)」に出てくる架空の市の名前であった。このドラマは広東省江門で撮影され、劇中に騎楼のある風景が多く登場する。ドラマは2000年代の中国南部が舞台で、腐敗した地方政府と癒着する裏社会、そのような時代背景のなかでそれぞれ強く生きる人々を描いている。