2024年ふりかえり
新年明けましておめでとうございます。2020年にハイレゾ対応ライブ配信システムとして発表した「Live Extreme」ですが、昨年は空間オーディオ技術と拠点間伝送技術を重点的に強化し、より魅力的なソリューションに成長させることができたのではないかと思っています。更に昨年は、コルグ・グループ直営の配信スタジオも開設し、Live Extremeによる高音質・高画質配信を手軽にご利用いただける環境も整いつつあります。
今回はこの1年を各ウェブメディアに掲載されたニュースや特集記事とともに振り返ってみようと思います。
配信スタジオ「Studio Extreme Tokyo」開設
Live Extremeには、4K映像対応、ハイレゾ音声対応、空間オーディオ対応といった特長がありますが、これを活かした配信を行うには周辺機材も対応のものを用意する必要があり、容易ではありませんでした。
そこで、2024年4月、下高井戸「G-ROKS」スタジオ内に「Studio Extreme Tokyo」という配信スタジオをオープンしました。このスタジオは、Live Extreme Encoderはもちろんのこと、
4K対応カメラ(5台)&スイッチャー
96kHz DANTE対応デジタル・ミキサー(2台)
7.1.4chミキシング&モニタリング環境
高速インターネット回線(2系統)
全ての常設機材に精通したアシスタント
を常備しており、Live Extremeの性能に見合う、高音質・高画質のコンテンツ制作を行うことが可能です。(もちろん、YouTubeやインスタライブなど、Live Extreme以外の配信にご利用いただくこともできます。)
また、Studio Extreme Tokyoは隣接するG-ROKSの各音楽スタジオとも10Gbpsのネットワークで接続されており、G-ROKSのどのスタジオからも、常設機材を利用した配信が可能となっています。
Studio Extreme Tokyo活用事例
Studio Extreme Tokyoからは、YouTubeを含め既に多くの配信が行われていますが、Live Extremeによるハイレゾ配信を行った例として、現在でも視聴可能なのが、次にご紹介する「声優のささやき」です。
これは、声優専門月刊誌「声優グランプリ」、VR映像プラットフォーム「VR MODE」、そしてコルグの共同プロジェクトによる配信で、人気声優2名の本気朗読を、Studio Extreme Tokyoで収録された【8K3DVR映像】と【ハイレゾ・バイノーラル音声】により、キャストがまるで目の前にいるかのような体験ができる映像コンテンツとなっています。
本企画第1弾として、涼本あきほさん・結名美月さんの二人芝居の映像コンテンツが、2024年10月12日より配信開始されています。
空間オーディオ配信技術の開発と活用
Live Extremeは、2023年より空間オーディオ配信に対応しておりますが、昨年も空間オーディオ配信に関連した新技術の開発と活用に特に力を入れました。
九州大学研究工学院と「DSDアンビソニックス配信技術」の協働開発プロジェクト始動
九州大学芸術工学研究院・城一裕准教授は、2023−2025年度の研究として「特異な音響空間内における音を知覚する体験の設計とその配信技術の開発」を開始していますが、コルグは本研究のために「Live Extreme」の8ch DSDライブ配信システムを提供しています。
さらに、九州大学芸術工学研究院とコルグは『原音場の再現性に優れたアンビソニックスと、時間領域での再現性が極めて高いDSDとを組み合わせた配信技術』を協働で開発中です。アンビソニックスは、「チャンネル・ベース」「オブジェクト・ベース」とも異なる「シーン・ベース」という独自の考え方に基づく立体音響技術で、3次元空間の360度全ての音声を記録、ミキシング、再生することが可能です。完成はもう少し先になりますが、このアンビソニックスとDSDとの組み合わせは、世界初(コルグ調べ)の画期的な試みとなります。
世界初!一般向け96kHz AURO-3Dライブ配信実施
2023年12月にリリースされた「Live Extreme Encoder v1.12」は、AURO-3Dのライブ配信に対応していますが、本機能は、同月26日にNHKホールで行われた「N響第9チャリティーコンサート」の関係者向け実験配信で、さっそく本番投入されました。
その2ヶ月後、コルグはWOWOWとシンタックスジャパンの協力のもと、一般向けとしては世界初となる96kHz AURO-3Dによるインターネット・ライブ配信イベントを実施しました。これは、山梨県清里にある「萌木の村 オルゴール博物館 ホール・オブ・ホールズ」で演奏された自動演奏楽器とマリンバのセッションをAURO 9.1 (96kHz/24bit) でライブ配信するもので、日本向けとアメリカ向けの二度にわたって実施しました。
日米それぞれ100名限定ではあったものの、事前にLive Extremeの公式サイトからお申し込みいただいた一般の方がライブ視聴することができました。
MPEG-H 3D Audioライブ配信への対応
Live Extremeはこれまで、空間オーディオ・フォーマットとして、「AURO-3D」および「Dolby Atmos (擬似ライブ/オンデマンド配信のみ)」に対応してきましたが、2024年6月のOTOTENにて、新たに「MPEG-H 3D Audio」(以下、MPEG-H 3DA) のサポートをアナウンスしました。
MPEG-H 3DAは、ソニーが提唱する「360 Reality Audio」の基盤となっているほか、日本の次世代地上デジタル放送での採用も決定しており、今後の普及が見込まれています。
「Live Extreme Encoder v1.14」では、チャンネル・ベースでは最大22.2ch、オブジェクト・ベースでは最大24エレメントでのライブ配信に対応しています。
STB再生アプリ「Live Extreme Experience for TV」の公開
Live Extremeは当初より、「4K映像+ハイレゾ音声」という特殊な配信をPCやスマホのWebブラウザで再生できることを売りにしてきました。特別なソフトをインストールすることなしに手軽に再生できる、という特長は今後も堅持していきたいと思っていますが、空間オーディオのマルチスピーカー再生となると、ソフトのインストール以前に、PCのOS設定自体が煩わしくなってきます。
この問題に対処するため、コルグは2024年8月に、Android TV, Fire TV, Apple TV用再生アプリ「Live Extreme Experience」を無償公開しました。このアプリでは、ロスレス/ハイレゾ音声(最大192kHz/24bit, 7.1ch)はもちろんのこと、代表的な空間オーディオ・フォーマットである、Dolby Atmos、AURO-3D、MPEG-H 3D Audioの再生に対応しています。
世界初!Dolby Atmosロスレス配信に対応
従来、Dolby Atmosのインターネット・ストリーミング配信を行う場合、データ量を抑えるために、ロッシーな圧縮コーデック(Dolby Digital Plus)が利用されてきました。一方、Blu-ray Discなどのパッケージ・メディアは、大容量かつ高ビットレートでの転送が可能なため、より高音質なロスレス・コーデック(Dolby TrueHD)が利用されるのが一般的でした。このため、同じDolby Atmosであっても、配信とパッケージ・メディアでは音質に差が生じていました。
Live Extremeでは、2024年11月よりDolby TrueHDでのオンデマンド配信/疑似ライブ配信に対応し、Blu-ray DiscやUltra HD Blu-rayと同等の音質をインターネット配信でも実現可能となりました。
本機能を使った配信第一弾として、MR.BIGの最新映像作品「The Big Finish Live」より名曲 "Just Take My Heart" を、ロスレスのDolby Atmosを含む各フォーマットで無償配信中です。(2025年11月28日まで)
4K映像+ロスレス音声の拠点間伝送
Live Extremeに搭載された4K + ロスレス音声配信機能は、一般家庭への配信だけでなく、安価なインターネット回線を活用した拠点間伝送システムとしても利用できるはずです。昨年はLive Extremeの拠点間伝送機能を強化、応用することにも力を入れてきました。
ヤマハ「Distance Viewing」での活用
ヤマハ株式会社が開発を進める「Distance Viewing」は、ライブ時の迫力あふれる音を完全再現しながら、大型スクリーンを用いた等身大映像と、ライブさながらの照明演出などで、そのパフォーマンスをステージ上によみがえらせる次世代ライブ・ビューイング・システムです。
2020年10月の発表以降、事前収録したライブの音響・照明・映像を、後日、ディスタンス・ビューイング会場で再現するという形で実施されてきましたが、2024年2月2日に初めてリアルタイムで遠隔配信することに成功しました。そして、その配信システムとして利用されたのがLive Extremeでした。
当日は、4K (65Mbps) 映像とともに、7chのステム音声に照明制御信号(GPAP)を加えた、合計8chの48kHz/24bit音声をLive Extremeでリアルタイム伝送し、従来のライブ・ビューイングとは次元の異なる、超高臨場感のライブ・ビューイングを実現しました。
16chの非圧縮PCM音声 (最大192kHz/24bit) 伝送に対応
上記イベントで利用された「Live Extreme Encoder v1.12」は、FLACフォーマットの制限により、最大でも8ch音声の伝送しかできませんでした。これは家庭向け配信としては十分なチャンネル数と言えますが、ステム音声用としては、必ずしも十分とは言えませんでした。
2024年5月にリリースされた「Live Extreme Encoder v1.13」では、ライブ・ビューイング用システムとして利用されることを想定して、最大16chの非圧縮のPCM音声(最大192kHz/24bit)を映像とともにHLSでライブ配信できるようになりました。
これを再生できる環境は限られているため、不特定多数への配信には不向きですが、再生環境を完全にコントロールできるライブ・ビューイングにおいては、ステム音声用としても立体音響用としても有効に利用できます。
ブルーノート・ジャパンにLive Extremeが常設導入
2022年にBlue Note Tokyoで行われた「RON CARTER & BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA directed by ERIC MIYASHIRO」と「CASIOPEA-P4 ~Special First Live~ P4」の2公演は、Live Extremeによって4K映像 + ハイレゾ音声で配信され、家庭でも会場さながらの臨場感が得られると大きな評判になりました。
そこから2年の月日を経て、遂にLive Extremeがブルーノート・ジャパンに常設導入されました。これにより、Blue Note Tokyoの演奏をブルーノート・ジャパンが全国に展開する拠点や一般家庭に、ハイレゾ音声でライブ配信できるようになっただけでなく、恵比寿「BLUE NOTE PLACE」内に新設された「BNJ Studio」に4K映像+16ch PCM音声を伝送し、再配信することで、空間オーディオでのライブ配信も実現可能となりました。
2024年にブルーノート・ジャパンが行った配信のうち、下記の公演で実際にLive Extremeが利用されました。
通算配信数200公演突破
2020年10月の初配信以来、Live Extremeを使った配信は年々増加傾向にあり、2024年は年間73公演、通算で210公演となっています。
開発者にとってはその1つ1つが感慨深い配信でしたが、ここでは、レビュー記事がメディア公開されているものをいくつかご紹介します。
N響ドラクエコンサート〜そして伝説へ•••〜
2024年5月6日に東京芸術劇場にて開催されたNHK交響楽団による「ドラゴンクエスト・コンサート ~そして伝説へ…~」。実はN響がインターネットで有償配信を実施するのはこれが初めてのことで、光栄なことにLive Extremeが採用されました。映像 (FHD) も音声 (48kHz/24bit, stereo) も非常に高いクオリティで、日本が誇るN響の配信にふさわしい素晴らしい内容でした。
JAZZ NOT ONLY JAZZ
2月のオルゴール博物館からのAURO-3D配信に続き、8月にはWOWOW主催による有料チケット制配信(オンデマンド)が行われました。内容はジャズドラマー石若駿率いる「The Shun Ishiwaka Septet」が、豪華アーティストと奏でる一夜限りのスペシャルセッション「JAZZ NOT ONLY JAZZ」で、6月21日にNHKホールで収録されたもの。WOWOWでの本放送に先行してインターネット配信するという実験的な試みでした。
Live Extremeでの配信音声は、通常ステレオ(48kHz/24bit, 96kHz/24bit)のほか、AURO-Headphonesによるバイノーラル音声(48kHz/24bit, 96kHz/24bit)、さらにAURO 11.1(96kHz/24bit)、AURO 13.1(48kHz/24bit)の6種類で、視聴者が切り替えて視聴することが可能でした。Live Extremeでできることをフル活用した何とも豪華な配信で、チケット価格以上の価値が提供できたのではないかと思います。
尚、本配信では、Live Extremeが昨年新たに提携した電子チケット販売サービス「teket」が採用されました。
今年の展望
昨年推進してきた拠点間伝送技術と空間オーディオ配信技術については、まだ発展の余地があり、今年も強化していきます。
拠点間伝送については、現時点では最大16chのPCMまでしか伝送できませんが、各所より更なる多チャンネル化の要望があり、何とか対応できればと思っています。また映像についても、2020年当初よりライブ配信は4K SDR (H.264, 65Mbps, 30fps) が上限となってきましたが、ライブ・ビューイングでは、H.265コーデックやHDR(ハイダイナミックレンジ)といった高画質化技術の重要性が高まってきます。
空間オーディオ配信については、対応フォーマットについてはおおよそ網羅できたと思っておりますが、Dolby Atmos (Dolby Digital Plus) のライブ配信対応が残っており、できるだけ早く実現できればと思っています。DSDアンビソニックスがどう化けるかも楽しみです。
2025年は、PrimeSeatで世界で初めてDSDライブストリーミングを実現した年から10年、Live Extremeを発表してから5年という節目の年です。これまで培ってきた配信技術の総まとめを行うとともに、何かメモリアル・イヤーに相応しい“凄い”配信にチャレンジできればと思っています。
今年もよろしくお願いいたします。