
日台複数籍問題:法務省の「チェリーピッキング」に誘導された日弁連記事が残念過ぎる件
日台複数籍問題
蓮舫氏の国籍問題が騒がれた2016年以降、台湾関係者の間で当時の報道や一連の経緯に疑問の声が上がりました。
事はじめ
2016年、蓮舫氏は「日本と台湾との重国籍」で国籍法上の「選択義務違反」と報道されました。
しかしそもそも台湾関係者に対しては、「日本側では、日本国籍を持つ人が、台湾籍を併有している場合(日台複数籍)、法上の重国籍と扱わない」と、従来から説明されてきました。
加えて、手続の扱いについては、以下の事実があります。
日本国民が「外国」に帰化すると、国籍法11条により、日本国籍は喪失しますが、日本国民が「台湾」当局に対して帰化した場合、日本国籍は喪失しません。
日台複数籍の人が日本側に日本国籍の離脱届を出しても受理されません。
その理由は、当事者・関係者には、日本国籍を持つ人が併有する台湾籍は「外国の国籍」として扱われていないからだ、と説明されてきました。
そういう背景事情があることを踏まえれば、生まれながらの日台複数籍の当事者については、日本側の国籍法の上では「国籍選択義務」の対象ではないことは明らかだったはずです。
行政を曲げ、従来の当事者への説明をねじまげてまで「蓮舫氏は義務違反だった」という認識に世論を誘導するのは何のためでしょうか?
2021年9月、日弁連勧告
この問題について、日弁連は2021年9月に、内閣総理大臣、法務大臣に対し次のような勧告を行いました。
1 台湾籍を選択する方法が認められておらず、日本国籍の選択宣言を行うことしか認められていない日台複数籍者に対して、国籍法14条が規定する国籍選択を求めてはならない。
2 日台複数籍者に対して、日本国籍の選択宣言を行わなかったとしても、国籍法上の義務違反に当たらないことを周知徹底するべきである。
「選択」といっても、台湾籍を選んで日本籍を抜ける手続きを受け付けていないのだから、義務対象云々の話になるはずがない、ということです。
2023年、措置後照会への回答
その後、2023年になって、法務省から、日弁連措置後照会への回答がありました。
台湾出身者で日本国籍を有する者について、届出内容から日本国籍以外の国籍を有していることが総合的に確認・判断できる場合には、国籍法13条の趣旨を踏まえ、届出により日本国籍の離脱を認める取扱いに変更した(令和4年8月8日付け法務省民一第1688号民事局民事第一課長回答参照)。
とのことです。
「義務対象です」とは言っていません。「離脱を認めるようにした」とだけコメントしています。
しかし、これでどうやら、勧告を出していた日弁連までが「(過去の経緯はともあれ)日本国籍者の併有する台湾籍は、令和4年8月8日以降は法上の外国国籍として扱われるようになったのだな」という解釈で納得してしまったようです。法務省側はそんなこと一言も言っていないようですが。
あらためて確認された扱いの事実
台湾に帰化手続きを取った日本国籍の方が、日本の当局に提出した国籍喪失届が不受理となった事例が2024年(令和6年)にもあることが、あらためて確認されました。
「台湾の国籍取得」を、日本国籍の『喪失事由』として、日本側に国籍法11条1項に基づく国籍喪失を届けたところ
上記の届出は、以下の理由によって受理しなかったことを証明する。
「受理しない理由」:日本国籍を喪失したものと認められないため。
として、不受理証明書が発行された事例があるのです。
これは、つまり「日本国民が「台湾」当局に対して帰化した場合、日本国籍は喪失しない」という従来の扱いが、令和4年8月8日以降も続いていることを意味しています。
チェリーピッキング
法務省が、日弁連勧告の措置後照会に誠実に回答するのであれば
1.台湾出身者で日本国籍を有する者について、届出内容から日本国籍以外の国籍を有していることが総合的に確認・判断できる場合には、国籍法13条の趣旨を踏まえ、届出により日本国籍の離脱を認める取扱いに変更した。
という事実の提示をするのと同時に
2.日本国籍の人が台湾に帰化手続きをとった場合は、日本国籍を喪失したものと認められないため「受理しない」扱いは従来通り続けている。
という、両面の扱いを示すのが「誠実な対応」というものではなかったでしょうか。
1.だけを示し、あたかも「台湾籍」の扱いが一般の外国籍と同様になった、日台複数籍者も選択義務対象になるかのようにミスリードする。
一方で、
2.の事実は隠す。
・・・というのは、チェリーピッキングと言われる、不誠実な情報操作そのものといえるでしょう。
弁護士すらもこう誤解する
人づてに聞いた話ですが、国籍問題を専門にしている、とある弁護士さんが、この日弁連の措置後照会の記事を見て、「(台湾への帰化で)日台二重国籍にはならなくなったのね」と誤解していたそうです。
無理からぬことかもしれません、まさか法務省という法律をつかさどるお役所がこんな露骨で不誠実な誘導をするとは信じられませんものね。
日弁連の伝言ゲーム
つまり、法律専門家である弁護士にすら、現実にそのような「誤解」を生じさせてしまうような記事を、伝言ゲームのように出しているという点では、(リンクを再掲しますが)
この内容は、意図せずとも、法務省の不誠実な「チェリーピッキング」による世論誘導の片棒を担がされてしまっていることになりかねない。
このことは非常に残念だと当方は感じております。
追記)コメント欄より
渡辺さんのコメントに返信した内容ですが、(後で検索できるように)本文にも追記しておきます。
台湾籍のみの「在日外国人」についてであれば、「台湾当局の証明書に基づいて」日本側がその人の国籍をどう記録し、どう扱うかは日本の主権の問題であり(私は)そこを問題にする気はありません。当方の着眼点は、あくまですでに「日本国籍」を持つ立場の者について「台湾籍(を併有する場合)」をどう扱うかです。「台湾出身者」という区分には定義が無く、法律用語として不適切だと思います。(法の下の平等の問題)
日本人が台湾に帰化したときに、日本側では「外国の国籍を取得した」という扱いをしていない以上、生まれながらの日台複数籍の子に国籍選択を迫るのはばかげているということにつきます。