日台間の籍の問題は、蓮舫さんのことを一旦忘れて!(1)
※ファクトチェック歓迎します
蓮舫さんを忘れて!
台湾関係者、特に日台複数籍者(台湾籍を持つ日本国民)についてのここ8年間の不幸は、日台間の籍の問題が、蓮舫さんという大変個性的な野党政治家と固く結びつけられたうえで騒ぎにされてしまったことです。蓮舫さんを貶めるためなら、なんでもありだという、悪意のプロパガンダの「とばっちり」をうけてしまったのが、「一般」の「日台複数籍」者です。
たとえば「日台間では、国籍法上の重国籍扱いはなかったはず」
と言うような方向で何か書くと
「何だ?蓮舫の味方をするというのか?」
という方向から「ずれた」論点で攻撃してくる人がいたりします。
過去の記事をつけて「蓮舫は、こんなことを言うヤツだぞ、庇うのか」などと言ってくる。
そこじゃないんです。
蓮舫さんのことは、一旦忘れてください。
・ごくごく普通の、一般的な日台国際結婚家庭
・・妻が日本籍で夫が台湾籍、
・・妻が台湾籍で夫が日本籍、
そういう家庭に生まれ、日本の政府には日本国籍の登録、台湾当局には台湾籍の登録がある子供が、自分のことを「国籍選択義務」の対象だと認識しなきゃならないような、客観的・具体的な情報が現にあるのかどうか? が論点です。
義務対象だ、と主張する側の理屈
《日本のほかに台湾の籍があるから「二重国籍」。だから法律上の「二重国籍者」の義務を果たす必要がある。》と言う理屈です。
引用されるのが法務省の「国籍選択制度」に関する情報。
これを持ち出して、「お前らはこんなことも知らんのかっ、選択は義務なんだぞう!」と居丈高に言うわけです。相手が「ぐぬぬ」となることを確信して、鬼の首を取ったかのような鼻息の荒さです。
なるほど
・「重国籍者」は「重国籍者の義務(国籍選択義務)」の「対象」
だという理屈は、上記の通り、法務当局が公表しています。これはたしかに、一つのファクトではあります。
ですが、
・「台湾当局の籍を持つ日本国民の場合、重国籍者扱いだ、義務対象だ」
だという話は、当局から公式に出たものではない、一部の「自称評論家」などが「二重国籍だ」と声高に言いつのっているだけです。
法務当局から出た情報で、目一杯それに近いかな?と思われる表現は、2016年10月18日に当時の金田勝年法務大臣が記者会見で述べた説明「台湾出身の重国籍者は選択義務対象だ」とするものです。
台湾出身の重国籍者とはなにか?
聞き手は、うっかりすると「台湾出身の重国籍者」と言う表現を、「台湾当局の籍を持つ日本国民」のことだと思い込んで納得してしまいかねないところですが、意味するところは全然違っています。
少し考えてみてください。例えば、日本人の父、台湾人の母の間に日本で生まれた子供を「台湾出身の重国籍者」と表現できるものでしょうか?
本来、「重国籍者」の定義を示すべきだった箇所で「重国籍者は義務対象」という表現をして取材の記者を丸め込んでしまった。これって、要は「重国籍者」は「重国籍者の義務」の対象だ、と言っているだけ、循環論法による「叙述トリック」です。
私が義務対象にならないはずと主張する理屈
・「ある立場の人が、国籍法上で、一律に『外国の国籍を有する日本国民(重国籍者)』の扱いになる。
というような説明がされているなら、そういう立場の人が、国籍法の条文上『選択義務対象』となることは、私も納得できます。
具体的に言うと、もし、
(※)「台湾当局に籍を持つ日本国民」は、一律に『外国の国籍を有する日本国民(重国籍者)』の扱いにしています。
と言う風に法務当局が一般向けに案内していたのだったら「そうなんですね」と納得するだけの話です。
この場合、台湾と国交がないだろ、とか、国と認められていないじゃないかとか、そんなことは問題ではありません。それは論点じゃない。
だけど実際はどうでしょう。決して、公式に(※)のような説明がなされたことは無かった。それどころか、台湾に関しては「重国籍扱いの対象じゃありません」と関係者には過去繰り返し説明されてきたのです。
2017年10月 東京法務局からの電話説明
まず、これは私自身が、2017年に東京法務局に問い合わせたときの回答内容です。
こういうやり取りがあって、私は納得して引き下がりました。
後に、この時の説明の根拠について情報公開請求した際、法務省側は、
などと回答。「電話での回答は不正確」「担当者が資料を確認していなかった」と、アクロバティックな論法で、ちゃぶ台返しをしてきた。
驚きましたけど、べつに、ちゃぶ台返ししても良いんですよ。
ですが問題はその後、説明が不正確だったからといって、
・正しくは台湾籍を有する日本国民を,日本側は一律に二重国籍者と扱う。
というふうに説明したわけではありません。法務省の説明は、それまで一応は明確に説明していた内容を、「あいまい」、「どっちとも取れるような状態」に後退させて、うやむやにしてしまっただけでした。
うやむやにすると、声の大きい人たちが自説での決めつけをしてくるのです。それを見て素知らぬふりをしている法務当局の倫理的責任が問われましょう。
2018年4月 広島法務局の説明
電話回答で答えられない、とか、資料を確認していなかったとかいう理屈で、私への説明が不正確だった、としましょう。それはそれでいいですよ。
では、ほかの台湾関係者にはどう説明してきたのか?
調べれば・・・いやもうこれは、いろいろ文献から出てきます。
ちくま新書「二重国籍と日本」には台湾籍を持つ日本国民に関して、「国籍選択届」の提出が必要なのか問い合わせた際の回答として
と記載されています。
2018年7月 神戸法務局の説明
これも、ちくま新書「二重国籍と日本」からですが、
2016年 法務省の説明
少し遡って、2016年の多田恵氏の論考
「二重国籍問題が導く日本版・台湾関係法 戸籍を管掌する法務省の恣意的な解釈を排すために」には、多田氏が法務省に確認したときの回答として次のように記されている。
法務当局がどう言い繕おうとも、様々な場面で、多くの人が、伝聞ではなく、当局から直接こうした説明を受けてきたのは明らか。
もしかして、「全部電話説明だから無効だ」って話にするんですかね?
もし、こうした過去の説明の内容が間違っていたなら、その旨をはっきり示して訂正情報を公開すべきではないですか?
法務局の民事行政部長が・・
ただ、法務局の人も大変だな、と思った件。
これまでの説明を全部ひっくり返して、上からの圧迫で無茶なこと言わされていること、一般当事者に向き合う立場の方は困っているのではないでしょうか。
2022年、東京法務局の民事行政部長が法務省本省に問い合わせています。
別添資料、これは
・台湾当局発行の国民身分証
・台湾の戸籍謄本
・台湾パスポート
ですが、台湾当局発行のこういう書面があっても
「届出人を外国の国籍を有する日本国民と認めることはできないものと考えます。」
という見解を述べているわけです。
「外国の国籍を有する日本国民と認めることはできない」ということは、国籍法14条1項の条文は
こうなっていますから、そもそも14条の対象と扱う根拠が無い。法務省本省のエライ人達に対する精いっぱいの皮肉かな?と感じました。
なお、仮にある時点で扱いが変更され、その時点以降、ある立場の人を一律に「外国の国籍を有する日本国民」と扱うことになったにせよ、それは、変更以降の話です。
当事者が変更以前のことに遡及して批判されるいわれはないのです。