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時系列で見る『日台複数籍問題』

前回こちらの記事

で紹介したように
令和4年8月8日付け法務省民一第1688号民事局民事第一課長回答」により

台湾出身者で日本国籍を有する者について、届出内容から日本国籍以外の国籍を有していることが総合的に確認・判断できる場合には、国籍法13条の趣旨を踏まえ、届出により日本国籍の離脱を認める取扱いに変更した

https://www.nichibenren.or.jp/document/complaint/year/2021/210924.html

とのことです。台湾関係者にとっては、かなり驚かされる内容です。
 今回は、これに至るまでの日台複数籍問題を時系列的に振り返ってみます。



1972年:日台断交

 1972年9月に、「日中国交正常化」を受けて日台間の公式外交関係は失われました。

1974年:昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答

 日本と台湾当局との間の国交が失われたあと、日本は台湾当局をどのように扱ったのか?
 国籍法で「日本国籍者が台湾(当局)へ帰化手続きを取った場合」の扱いについては
『昭和49年10月21日付戸1976号那覇地方法務局長照会』に

日中国交回復後帰化したとして台湾政府発行の帰化証明書を添付した国籍喪失届の取り扱いについて」
 日中国交回復後に中華民国に帰化したとして台湾省政府発行の帰化証明書を添付し国籍喪失届があった場合の取り扱いについて、このたび別紙証明書を添付して国籍喪失の届け出がなされたが、該証明書により中国国籍を取得したものと認め、所要の手続きをすべきかどうかにつきいささか疑義がありますので、何分のご指示を得たく、照会いたします。

昭和49年10月21日付戸1976号那覇地方法務局長照会

という、問い合わせがあったのに対し
『昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答』で、

本年十月二十一日付け戸第一、九七六号をもって照会のあった標記の件については、不受理として取り扱うのが相当と考える。

昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答

と回答している例があります。つまり、日本国民が、台湾当局に対し帰化手続きをした場合でも、台湾当局発行の帰化証明書では日本国民が外国(中国)国籍を取得したものとは認めない、と言うのです。

その後、約半世紀の扱い

 2019年に出た、情報公開・個人情報保護審査会による答申
「令和元年度(行情)答申第295号」https://www.soumu.go.jp/main_content/000654465.pdf
の14頁には、法務省側から、

ウ  また,国籍喪失又は国籍離脱の手続の際に,台湾当局発行の証明書を国籍証明書として届書に添付された場合には,受理することができないことは,国籍法の規定から導かれる当然の帰結であり,文書を作成又は取得していない。

と言う説明が出てきます。
 「文書を作成又は取得していない」などと平気で答えているところを見ると、国籍喪失について『昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答』という文書が存在したことは、法務省の組織の中では忘れ去られてしまっているのかもしれません
 元の根拠文書は忘れ去られたにしても、法務省が自ら説明しているように
国籍喪失又は国籍離脱の手続の際に,台湾当局発行の証明書 を国籍証明書として届書に添付された場合には,受理することができないことは,国籍法の規定から導かれる当然の帰結
・・として、長年扱われてきたわけです。

2016年:蓮舫氏国籍問題の報道

 2016年に、蓮舫氏の国籍問題が報道で取り上げられるようになった際には、こうした背景事情を全く無視して「日台間の二重国籍」だ、「義務違反」だとする決めつけが行われました。
 この場面で、法務省はこれまでの扱いについて積極的な説明をしなかったばかりか、選択義務対象であることを匂わせるような情報の出し方をしていました。
 政治的な攻撃のネタに利用されることは明白でした。役所は与党の政治家に忖度してこれを黙認したのでしょうか?

2021年:日弁連勧告「日台複数籍者の国籍選択に関する人権救済申し立て事件」

 2021年9月に、日弁連から 日台複数籍者の国籍選択に関する人権救済申立事件(勧告) が出て、この中に

1 台湾籍を選択する方法が認められておらず、日本国籍の選択宣言を行うことしか認められていない日台複数籍者に対して、国籍法14条が規定する国籍選択を求めてはならない。
2 日台複数籍者に対して、日本国籍の選択宣言を行わなかったとしても、国籍法上の義務違反に当たらないことを周知徹底するべきである。

との勧告内容が盛り込まれました。「選択肢が複数用意されているのではないのだから、選択を迫るのはおかしい」と言うわけです。

2022年:令和4年8月8日付け法務省民一第1688号民事局民事第一課長回答

そして今回の「課長回答」に至ります。
 「制度上選べない立場」の人に「選べ」と迫ることの矛盾を日弁連から指摘されたわけですが、これに対して小手先で辻褄をあわせ「選べるようにしたのだから、もうこれでいいだろう?」とでも言わんばかりです。

まとめです

 1972年の日台断交以降、国籍法上の国籍喪失又は国籍離脱の手続については、「台湾政府発行の証明書」では外国籍の証明と認めず、受理しないと言う扱いをほぼ半世紀にわたり続けていました。
 その根拠文書は『昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答』にあります。
 蓮舫氏の問題が報道された際、(蓮舫氏本人はともかく)その背後にいる一般の日台複数籍者の立場を考えるならば法務省は
「昭和49年の民事局長通達で、日本国民が持つ台湾当局発行の国籍証明では外国国籍の証明と扱わないことになっていたので、重国籍者の義務の対象にならない」という趣旨の説明をして、一般の誤解を解くのが、人権を尊重することをモットーとしている組織の本来の在り方だったと思います。
 蓮舫氏を「義務違反」とする無理な「筋立て」を中心に据えて、それに矛盾しないように運用を変えていくという今回の対応は、いびつさが目に余ります。「無理が通れば道理引っ込む」です。こんな妙なつじつま合わせを見過ごしてしまって良いものだろうか、と思います。

(追記)
※『昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答』を『令和4年8月8日付け法務省民一第1688号民事局民事第一課長回答』で覆すというのもかなり違和感があります。
 先例を覆すというならば、その先例と同じ民事局長クラス以上の職位の者から発せられるのでなければおかしいのではないでしょうか?


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