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渡辺久志氏の「蓮舫氏「二重国籍」の期間はなかった ー人権と国籍ー」について(2)

まず、渡辺氏の論考はこちら

(2024.6.26 改訂があったそうです。)
本稿は、この論考に関する

の続きです。


解釈論は専門家に委ねます

渡辺氏の論考中、前半部分にでてくる

1.「二重国籍」でない理由
2.複雑な「台湾籍」の行政上の扱い
 (1) 複雑になった経緯
 (2) 「台湾の国籍問題」(無国籍研究会調査)
 (3) 国籍事務の矛盾
3.在日台湾人に「中国」の法適用

こうした解釈論(このように解釈すべきだ、と言う話)については、渡辺氏はじめ専門家の方々にお任せすべき話で、私のような一般人の法律素人が割り込んで、渡り合うような議論ができる領域ではあるまい、と自覚しています。
 さらに、専門家同士が異なる解釈論、学説をぶつけ合っている場面があるとした場合、どちらが妥当か?なんてことを判断する素養を、私は持ち合わせていません。

 法律概念で自分が知っていることと言えば、入門レベルの話、「信義則」とか「禁反言」という概念くらい。(あとこれは法律に限った話ではありませんが、詐欺的な話にだまされないように論理の誤謬には敏感でいるように意識しています。)
・「信義則」は、誠意をもって行動せよ、相手方の信頼を裏切るな。(⇒欺罔的な叙述トリックで、相手を煙に巻くようなことをするな。と私は解釈)
・「禁反言」は、説明を聞いてそれを信用し、それに基づいて行動している人に矛盾した主張をしてはならない。
・・・くらいの意味でしょうか。

一般人の立場で言えること

 ある法解釈が妥当であるかどうか?などと素人判断できないにしても、
「役所が実際、これまで、どのように当事者に対して説明していたか?」「それについて、当事者の立場ではどう考えてきたのか?」というファクトは示せます。
 過去のある時点で、何らかの説明を役所から聞いて、それに従って行動している人がいる。
 そういうときに、役所側が不意打ち的に、はしごを外すようなことをしてくるのであれば、それこそ「信義則」も「禁反言」もあったものではない。法律やら行政制度やら、そうしたものが根底から信頼を失うと言うものではないでしょうか。

 そういう意味では、渡辺氏の論考中、私がもっとも関心があるのは

4.日台籍所持者は「日本国籍の単一国籍所持者」
5.法務省の「解釈変更」
6.「人権救済勧告」で手続を変更

のあたりです。
・(役所側が)従来当事者にどう説明していたか、
・もし、必要に迫られて説明を変えたのならば、妥当な変更のプロセスを踏んだか。当事者・関係者への不意打ちになっていないか?
・今現在の運用については、法律素人の一般人が納得できるような説明、十分な広報がされているのか?

といったことに注目したい。

役所は当事者にどう説明してきたか

渡辺氏の論考中

4.日台籍所持者は「日本国籍の単一国籍所持者」

には、当事者への説明事例が2つ出てきます。
・「神戸法務局」での説明例
・「東京法務局」での説明例
です。

「神戸法務局」での説明例

 引用されている、2018年10月27日付けの岡野翔太さんの記事によれば

日本側はこうした日台ハーフは、「日本国籍の単一国籍所持者」と見なしていると答えた。

「日本人」にも「台湾人」にもなれない人々——中華民国国籍「無戸籍」者を考える
https://www.nippon.com/ja/column/g00593/?pnum=3

とあります。リンク先記事内には、いつの時点で説明された内容か?が記載されていませんが、同じ著者(岡野氏)による、ちくま新書「二重国籍と日本」第4章のp113ー114には、2018年7月時点の神戸法務局の説明であることが明記されています。これは蓮舫氏の国籍騒動(2016年9月)より後になります。

 なお余談ですが、このちくま新書「二重国籍と日本」の、第3章のp85-86には、別の方が、広島法務局

日本側から見ると、台湾(中華民国)の国籍では「外国の国籍を有する」とはみなされないので、日本国籍一つだけであり、それ故「国籍選択届」は提出不要である」

ちくま新書「二重国籍と日本」第3章(著者:大成権) p86
(広島法務局の説明:2018年4月

と説明されたというファクトも出てきます。2018年4月時点の説明で、これも蓮舫氏の国籍騒動(2016年9月)より後になります。

「東京法務局」での説明事例

渡辺氏の論考では、その次の箇所に

 また、2016年の法務省・情報開示審査会の「令和元年5月9日(令和元年(行情)諮問第4号)」には、東京法務局民事行政部国籍課が次のように審査請求人に回答したと書かれています。

と書かれていますが、2016年ではないですね。リンク先を開くと、法務省ではなく「総務省」の「情報公開・個人情報保護審査会」がまとめた令和元年(2019年)の答申書ですね。
「令和元年5月9日(令和元年(行情)諮問第4号)」という法務大臣からの諮問に対しての
「令和元年11月12日(令和元年度(行情)答申第295号)」という答申書の中に書かれている内容なので、文書を特定する場合は、「令和元年11月12日(令和元年度(行情)答申第295号)」を使うのが良かろうと思います。

審査請求人は特定年月日に東京法務局民事行政部国籍課(以下「国籍課」という。)に電話で問合せを行った際,担当者から,かかる立場の者〔引用者註 「日本と台湾の籍を併有する」と称する者〕については,「日本国籍単一国籍者扱いであり,台湾の国籍を選ぼうとしても,その手続である日本籍離脱届は不受理になる。よって,そういった申請を出す必要はない。」との回答を口頭で得ている(録音あり)。

令和元年11月12日(令和元年度(行情)答申第295号)

これについては、録音がYoutubeで公開されているので、当事者がどんなふうに説明されていたのかは、実際のやり取りを聞いてみましょう。

・東京法務局担当者(以下、「担当者」と表記):こちらの、日本の方でしたら、台湾の事を国として認めているわけではないので、そうするとですね、台湾国籍と言うのが、日本の方の扱いではそもそも無いんですね。日本国籍単一の国籍を持っているというふうに扱われるんですね。

・筆者:そうなんですか?去年の金田法務大臣の一〇月一八日の記者会見で台湾籍の人も二重国籍なので選択は義務がありますよというようなことを記者会見で言われていたと思うのですけれども?実はそれを聞いて、親族の者がすごく心配になってしまいましてね、これは選択をしなければいけないのではないか、と制度をいろいろ調べてみたら、台湾籍の方を選んで日本籍を抜けるというのはできないというようなお話のようなのですけれども? そうすると・・

・担当者:台湾籍の二重国籍で・・、そうなんですね。仮に、二重国籍の方で、日本の国籍を抜ける場合、国籍離脱届と言うのを通常出すんですけれども、そうしても、台湾の方の場合だと不受理になってしまうんですね。

・筆者:不受理になりますよね、そうすると不受理なので、状態としては変わらないわけですよね?

・担当者:そうなんですね。

・筆者:そうしたら、その場合に、去年の金田法務大臣のお話だと、「選択をしていないから義務を果たしていないことになる」というようなことをおっしゃっていたと思うのですけれども、例の政治家の蓮舫さんの関係のニュースでですね。それで、こういう立場だと違法と言われては困るなと思いまして、そのあたりを確認したいなと思ったのですけれども。

・担当者:そうですね、まあただ、事実上その、申請を出しようがないので。こちらに出しても不受理になってしまうので。そういう意味ではそもそも台湾国籍だけを選択するということが、できない状態です。なので、もちろんそういう状態なので、もちろん日本の方では単一国籍として見ますので・・。

・筆者:単一国籍として見るんですか? 心配なのは、去年のその、金田法務大臣が「一般論として」とおっしゃっていたので心配だったのですけれども。政治家だから特別にあの人(の場合についてだけ)が(問題だ)というのだったら別に我々も納得できるのですが、金田法務大臣のお話では「一般論として」台湾籍の人も選択義務があると、選択していないと違法である、というようなことをおっしゃっていたと思うんですけれどもね?

・担当者:うーん、そうですね。ちょっと少々お待ちいただけますか?・・・(注:保留音が長時間にわたる)

・担当者:はい、お待たせいたしました。まあ、こちらなんですけれども、先ほど言った通り、日本にいる場合? 今台湾にお住まいなんですね?

・筆者:ええ、そうですね。

・担当者:台湾の国籍を選ぶということは、日本に離脱の届け出を、台湾でなかったら、他の国だったら出すのですけれども、それだと、台湾の場合だと不受理になってしまう。そうして、そういった申請を出す必要はないし、また出さなかったからと言って何らかの咎めがあるわけじゃないということです。

・筆者:ああ、そうなんですか。なるほど。

このやり取りを証拠提出された法務省側は弁解をしています。答申書では情報公開・個人情報保護審査会が次のように記載しています。

処分庁は,電話のみの照会や問合せにより判断を行うことはできない。したがって,特定年月日の 東京法務局の電話による問合せの回答である,一律に「台湾の籍を 有する日本国民は,日本側は当事者を日本国籍単一国籍者と扱 う。」という説明は,不正確だったといえる。 なお,当時対応した職員に聞き取りを行ったところ,記憶は定かで はないが,おそらく当時の電話での問合せに対する回答については, 資料を確認した上でのものではなかったと思う旨の回答を得ている。

令和元年度(行情)答申第295号
https://www.soumu.go.jp/main_content/000654465.pdf

「電話での回答は不正確」「担当者が資料を確認していなかった」
しかし、そんな理由で話をひっくり返せるものなのか・・。
 仮にひっくり返すことを認め、受け入れるとしても、ここにある

一律に「台湾の籍を有する日本国民は,日本側は当事者を日本国籍単一国籍者と扱う。」という説明は,不正確だったといえる。

と言う表現は決して、

一律に「台湾の籍を有する日本国民を,日本側は二重国籍者(外国の国籍を有する日本国民)と扱う。」

と言うことを意味してはいないはず。もっと具体的な判断基準が示されない限り、このままで、「台湾の籍を有する日本国民」の当事者側が国籍選択手続きをしなければならない、と解するのは誤謬ではないでしょうか。

解釈変更の時期について

渡辺氏は

 蓮舫のように日本国籍と「台湾籍」を持つ場合は、2016年頃までは、「日本国籍の単一国籍所持者」と法務局が扱っていたことが分かります。

と書いていらっしゃいますが、先に挙げたような法務局の説明があったのは、いずれも2016年以降(2017年,2018年)のことです。
 さらには、2022年段階でも、東京法務局の民事行政部長が

との認識を付して、法務省本省に問い合わせをしている。要は、「台湾当局発行」の「パスポート」「戸籍謄本」「中華民国国民身分証」の三点セットを添付して申請してきた場合でさえも、「外国の国籍を有する日本国民(二重国籍者)」と認めることはできない、と認識していたことが分かります。

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