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渡辺久志氏の「蓮舫氏「二重国籍」の期間はなかった ー人権と国籍ー」について(5)

渡辺氏の論考はこちら

(渡辺氏の論考は、たびたび改訂されていますので、今後、当方の記述内容と、かみ合わない部分が生じるかもしれません。その点はお含みおきください。)

本稿は、渡辺氏の論考に関する

からの続きです。


有識者の見解

今回は、渡辺氏の論考のうち

7.有識者の見解
(1) 奥田安弘(国際法)

の部分に関してです。

奥田教授の見解

2017年7月13日放送のTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」から
渡辺氏が引用している箇所は

いずれにせよ重要なのは、法務省は蓮舫氏の外国国籍喪失届を「不受理」としておきながら、「国籍選択届を出せ」と行政指導をしたという点です。なぜなら、国籍選択を求める時点で、法務省は蓮舫氏が「二重国籍である」と判断してしまっていることになるからです。
 さきほど申し上げた通り、台湾の国籍喪失許可証を添付した外国国籍喪失届を「不受理」とするのは中国の正統政府として中華人民共和国政府を承認し、その国籍法を適用するという立場からの判断であるはずです。ですから、蓮舫氏が日本国籍を得た時点で、中国国籍は失っていることになる。ところが、「二重国籍である」と認めたということは、逆に言えば「台湾の国籍法を適用します」ということを法務省自身が認めてしまったことになるのです。

2017年7月21日 SYNODOS,
蓮舫氏の『二重国籍』は問題なし。説明責任は法務省にあり

ここについて、国籍法の権威でいらっしゃる奥田教授の指摘に対し、法務省は何も答えていない。知らぬ顔の半兵衛をきめこんでいる。奥田先生も(少なくとも当方の目についた限りの文献では)それ以上この件を追求することもなく、言いっぱなし。それきりになっている。
 このあたりの議論が、総括もされずにそのままになってしまっているのが当方は極めて残念です。
 中でも、

なぜなら、国籍選択を求める時点で、法務省は蓮舫氏が「二重国籍である」と判断してしまっていることになるからです。

と奥田教授が書いた部分は、特に残念だと思っています。これ、法務省の「叙述トリック」によって奥田教授の「権威」が利用され、はからずも、一般人に対する欺罔的な誘導に、加担させる形になってしまっているのではないか・・・。(法務省が自分では言わず、「ミスリード」したい内容を奥田教授の言葉として言わせている。)

 国籍法の専門家である奥田教授が、
法務省は蓮舫氏が「二重国籍である」と判断してしまっている
と言う風に見解を示せば、その(法務省の)判断妥当であろうとなかろうと、一般当事者側は、法務当局のそういう判断には従うしかあるまいな、と思ってしまうでしょう。
 いくら国籍法権威の奥田教授が、専門の解釈論で「おかしい」と指摘したところで、それを聞いた素人が解釈論でやりあって勝てるはずない。で、あきらめてしまう。

 ただ、法務省側が、蓮舫氏が「(国籍法上の)二重国籍である」と判断した、あるいは「台湾当局の籍を有する日本国民は一律に(国籍法上の)二重国籍と扱う」と言うふうに説明した事実はないのです。

出せば受け付けられる国籍選択届のトリック

 奥田教授は、同じ2017年7月13日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22の中で、国籍選択届に関して

《この国籍選択届の用紙には「従来の国籍」を記入する欄があります。しかし、ここに「台湾国籍」と書くわけにはいかないので、「中国国籍」と書くことになります。ということは、中国国籍があると法務省が判断しない限り、国籍選択届は「不受理」となります。(以下略)》

(引用元「蓮舫氏の『二重国籍』は問題なし。説明責任は法務省にあり/奥田安弘×荻上チキ」 - SYNODOS - https://synodos.jp/opinion/politics/20135/
とまで断言した予言的な説明をされていました。
 ところが、直後の7月18日の蓮舫氏記者会見では受理された旨が公表された。不受理じゃなかったわけです。

 奥田教授からは、これを受けて7月26日付で次のような補足がされています。

《国籍選択の宣言日が記載された戸籍は、国籍選択届が受理されたことを示しています。しかし、日本が承認した中華人民共和国政府の国籍法によれば、蓮舫氏は、国籍法14条1項にいう「外国の国籍を有する日本国民」に該当しないので、国籍選択届は、本来「不受理」とすべきです。それを受理したということは、違法な行政処分の可能性があります。
いずれにせよ、台湾が未承認だからといって、外国国籍喪失届を不受理としておきながら、その未承認の台湾の国籍法を適用した場合にしか認められない国籍選択届を受理したことは、どのように説明がつくのか、それを明らかにする責任は法務省にあります。》

まあこれが、
・それみたことか、出せば受け付けられる。
・奥田先生の「不受理になります」という説明は間違いじゃないか・・!
 と攻撃側を勢いづけてしまった。

 でもこれにはトリックがあります。
昭和59年11月1日付法務省民二第5500号通達「第3 国籍の得喪に関する取扱い」の「5 国籍選択の届出」には、次のように記載があります。

《(1)新国籍法第14条により、外国の国籍を有する日本人(以下「重国籍者」という。)は、一定期間内に国籍の選択をすべきこととされた。日本の国籍の選択の宣言をしようとする者は、市区町村長に対してその旨を届け出なければならないが(法第104条の2)、その届け出があった場合には、明らかに外国の国籍を有しないものと認められるときを除き、届出を受理して差し支えない。》

 そして、この扱いは現在も有効です。法務省側は、現在もなお、この扱いを踏まえた対応をしている。2021年段階の日弁連の調査報告書にもそれを示す法務省側説明が紹介されています。

日弁連調査報告書(2021年9月16日) 4ページ
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/complaint/2021/210924r.pdf

 役所側が「外国籍がある」と判断しなくても、受理できる仕掛けになっているということです。
 当人が、「国籍選択届(日本国籍選択宣言)」の「現に有する外国の国籍」欄に「外国」名を書いて提出すれば、(例えば自ら「中国」と記載して提出するなら)外国政府の証明書面で確認することなく受理してしまいますよ、ということを堂々と述べているのです。

 国籍選択届(日本国籍の選択の宣言)については、役所側としては、実際に届出人が重国籍者であることを確認したうえで届け出を受理するのではなく「明らかに外国の国籍を有しないものと認められるときを除き」受理してしまうとする扱いであったことが分かります。
 奥田先生が書いていらした「中国国籍があると法務省が判断しない限り、国籍選択届は「不受理」となります。」というような説明は、不正確、そこには「二重国籍だ」とする確認や判断はなくて良いことがこの通達から明らかですし、蓮舫さんの届けが、出せば受理されたというのも、この通達を踏まえれば当然のことであったといえます。ここへ誘導してしまえば、受理されてしまう。蓮舫氏は誘導され、この罠に落ちたわけですね。

 奥田教授をはじめ、「有識者」の方々には、このファクトを踏まえて、もう一度この問題を総括して、情報発信してもらいたいと、当方は期待しています。
 国籍法の権威に向かって僭越な物言いになりますが、奥田先生が
法務省は蓮舫氏が「二重国籍である」と判断してしまっている
と書いていらしたことは一般の当事者に、決して少なからぬ先入観を与えています。ですから、

法務省は蓮舫氏が「二重国籍である」と判断してしまっている」と書いたのは不正確だった。そもそも法務省は外国籍の保有を書面で確認することなく、国籍選択届けを出せば受理してしまうという運用をしていた。

・・・というように、情報発信をしなおしていただくのが「後始末」の責任を果たす方法だと思います。
 繰り返しますが、蓮舫さんは制度の罠に落とされたわけです。
 法務当局がこんなトリックを使っているということの、信義上の問題を、奥田先生以外の有識者にも、是非とも、議論していただきたいなと思います。

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