コーヒーを淹れて、「想い」を交換する。世界を巡る旅人との出会い。
「旅をしながらフリーコーヒーを振る舞ってる人がいる。この半年は、姫路にいるらしい」
そんな噂を耳にしたのは、1ヶ月前くらい。コーヒー豆を焙煎している動画配信をたまたま見たとき、彼の周りで流れている時間は、"普通"と少し違っているような印象を受けました。
フリーコーヒー。
名前の通り、出会った人に無料でコーヒーを淹れて出す。なぜそんなことをしているのか、どんなことを考えながらやっているのか、それが知りたくて、実際に姫路にあるお店(のような場所)に行ってきました。
彼の名前は、西川昌徳さん(以下、まささん)。
(まささんのFacebookより)
静かに流れる川のすぐ横に建つ古民家で、外にはテーブルと椅子、そして珈琲を入れるカウンターが置いてありました。
お家の中は、初めて来たとは思えないくらい心地よい空間でした。時計はどこにも置いていなくて、ただのんびりとそこに居続けたくなってしまうような場所。
まささんとパートナーのほのかちゃんが出迎えてくれて、コーヒーを飲みながらおしゃべり。ふと外を見ると、いつの間にか真っ暗になっていました。
時間の感覚がなくなる場所。2人の雰囲気が、そんな場をつくっている気がします。
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もし無料でコーヒーを振る舞ってくれる人と出会ったら、あなたはどんな気持ちになり、その後どんなことをするでしょうか。
「ラッキー!」と思って何度も飲みにいく?
応援したくなってお金を払う?
それとも、別の方法でお返しをする?
どれが正解だなんて決まっていないし、なんだっていいと思います。ただ、代金が決まっているコーヒーだと「美味しい」以外の気持ちは生まれにくい。もちろん「ありがとう」の気持ちだってある。けれどフリーのコーヒーを出されたとき、人の気持ちは、きっともっと動く。
どんな風に動くのかは人によるし、タイミングにもよると思います。もしかしたら、動かないこともあるかもしれません。
いろんな変化の波が生まれるのが、フリーコーヒーなんだと思います。その波は、まささんとそこに訪れた人の間だけで起こっているのではなくて、その先にも広がっていくもののような気がします。
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私は今年の夏に結婚し、親戚や友人からはたくさんのお祝いをいただきました。そのお返しはどんなものが良いだろう、と夫婦でずっと考えていました。
モノを買って贈るだけであれば、ネットで探してポチッと押せばすぐにできる。けれどそのように贈ることが、今の私たちの気持ちを伝えるベストな方法なのかと考えたときに、何かが違うと感じていました。
そんなときにまささんのコーヒーを思い出し、「自分たちで焙煎からやってドリップコーヒーパックを一つ一つ作らせて欲しい」とお願いしてみることにしました。
お返事は、OK。
先日朝9時にお邪魔して、ドリップパックを作らせてもらいました。
まささんに教わりながら作業がスタート。まずは焙煎機に豆を入れます。
機械を回し、20分以上かけて豆を焙煎。
その後は、剥けた皮を振るい落とす。
扇風機で熱を冷まして、
一旦、瓶の中へ。これを4回ほど繰り返します。
機械で豆を挽いたあとは、一つ一つパックに入れていきます。
さらに小袋に入れ、シーラーで封をします。
そして、完成。
朝から作業を始めて、160個のドリップパックを作り終えた頃には外は真っ暗になっていました。
黙々と作業をしながら結婚のお祝いをしてくれた人のことを考える時間もあれば、まささんやほのかちゃんとそれぞれの生き方や価値観をしゃべる時間もある。贅沢な時間だったなと思います。
スマホやPCを開けば、コーヒーなんてすぐに買って送れる。けれどこうして時間をかけて作ってみると、1つのドリップパックに込める想いは、ポチッと買った商品とは深みが全く違う気がしてしまいます。試しに自分たちで焙煎したコーヒーを飲んでみると、なんだか味もいつもと違う感じが。
1つのドリップパックに入っている豆の量や種類が変わらなかったとしても、味や飲んだときの気持ちはきっとそれまでのストーリーによって変化するのだと思います。
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まささんは普段、訪れた人にコーヒーを振る舞います。私たちがドリップパックを作ったその日も何人かの方が訪れ、まささんのコーヒーを飲んで帰っていきました。フリーコーヒーなのでもちろん代金は決まっていません。
お菓子を持ってくる人。育てた野菜を持ってくる人。お金を渡す人。まささんのストーリーを聞きにくる人。悩みを相談する人。ただのんびりと過ごす人。きっと、いろんな人が訪れるのだと思います。まささんは訪れた人との時間を、丁寧に、大切に過ごしているように見えました。
会話の中で、彼は「自分の人生をかけて実験している」と話してくれました。フリーコーヒーを振る舞い続けることで生きていけるのか。そして、どんな変化が起こるのか。
これから何十年も続くかもしれないし、終わるかもしれないし、それは誰にもわかりません。これは実験だから。
まささんの人生をかけた実験に、ほんの少しだけでも参加させてもらえたことが何より嬉しいことです。本当に、ありがとう。
まささんの公式サイト:
Twitter:@charimasa