職業、ライター。「取材・執筆・推敲 書く人の教科書」を読んで
「取材・執筆・推敲 書く人の教科書」。こんな本に出会いました。
ライターとして稼ぐ方法や刺さる文章の書き方ではなく、取材して文章を書くことの本質を綴った本を、ずっと探していました。
一字一句を、また丁寧に読み返したいと思えるような本は他にありません。
全480ページ。その分厚さに、著者の「書くこと」への思いがぎゅっと詰まっているような気がします。
読みながらたくさん線を引き、付箋をつけました。私がこの本の要約をすることなんてとてもできないけれど、心に残った文章を私の感想とともに、ここに残します。
書く力より前に必要な、「世界」を読む力
著者の古賀史健さんは、原稿のことを「返事」と表現します。取材に協力してくれたあなたへの返事。
誰かに手紙を書くとき、その人の表情や仕草を思い浮かべます。自分が伝えたいこととともに、どんなことを書いたら喜んでもらえるかを考えたりもします。
原稿を返事を捉えると、「いい文章を書こう」というより「こころを込めて丁寧に書こう」と思えます。
以前、すぐれた画家は「描く力」ではなく、対象を「見る力」があるのだと耳にしたことがあります。ライターが鍛えるのは、「読む力」。
質問する力ももちろん大切だと思うけれど、それ以外にも、何か違う力が必要なのかもしれない。相手の世界に浸り、相手を感じること。
人間としてどんな生き方をしているかが、取材者として現れるような気がしています。
自分を変える勇気を持つ
自分が心から相手の世界に入れたとき、その原稿はたくさんの人に届く。けれどどこか入り込めていないとき、なぜだか届かない。
私はときどき、自分を変えずに守り抜きたいと思ってしまいます。それが、読み手への届き方に現れてしまうのです。
自分を変えるのは勇気がいることだけど、何度でも自分を更新していくことで、取材者としての自分のレベルは一歩ずつ上がっていくのかもしれません。
取材者としての、「聴く」態度
インタビュアーとしての自分に言い聞かせたい言葉。
インタビューをしながらもライターとしての自分がどこかにいて、「いい記事になるだろうか?」「どこが使えるだろうか?」なんて考えてしまうことがあります。きっとそれは、取材相手に伝わっている。
私自身、取材のときに心がけていることがあります。取材の時間が、相手にとって新しい自分の気づきに繋がったり、世界が広がるような体験になるといいなと、そう思いながらやっています。
もう一度それを、心得る。
自分のこころを動かすのは、自分自身
相手の話を聴いて、さらに聴いてみたい何かがあるかどうかは、私自身の受け止め方による。一部のことにしか関心が持てないようであれば、無理矢理質問を絞り出すような状態になってしまいます。
それでは、相手にとってはもちろん、自分にとっても苦しい時間になってしまう。
心から「面白い」「もっと知りたい」という気持ちを持てるように、日々の生活の中で、色んなモノに触れることへのアンテナを立てていたい。
取材相手の「人」を読み取る
「人」を感じられる文章からは、書き手の想いも感じられる。そんな文章は、一気に引き込まれるようにして読んでしまいます。
日本語として正しい文章が書けているかどうかよりも大切なこと。
この文章は、「わたしが書く意味」を考えるきっかけになりました。
綺麗な文章を書ける人は「わたし」以外にもたくさんいる。けれど「わたし」を通して書けるのは、「わたし」しかいない。
「なにを書かないか」を考える
つい、せっかく聴いたのだからとあれこれ詰め込んで書いてしまう。
書く前に、この文章を通して何を伝えたいのかを考えたとき、きっと「なにを書かないか」が決まってくるのだと思います。
余計なものをたくさんくっつけた文章より、シンプルに本当に大切なものを残した文章の方が、きっと読み手には届きやすい。
「人」を描き、ファンになってもらう
「ファンになってもらう」。
この考え方、とても好きです。あぁ、私が大切にしたいのはこれなんだと、そう思えました。
「こんな素敵な人がいるんですよ」という気持ちを込めて、私が思う素敵ポイントを凝縮して、記事を書いていきたい。
推敲とは、「自分への取材」
ライターは、「相手を読む人」であり、「原稿を書く人」であり、「原稿の読者」でもある。
すべて自分なのだけど、その時々で立場が変化する。どの立場であっても一貫して、「問う力」は必要なのかもしれません。
「迷ったら捨てる」の原則
時には「こんなに時間をかけたのに…」と思ってしまう部分をカットすることもあるかもしれない。けれど、そこまでかけた時間や労力は、きっとその原稿全体の質を高めてくれると思います。
捨てたからといって、かけた時間や労力が無駄になるわけではない。
編集者は、「プロの読者」
編集者とライターの役割がわからず、ずっとモヤモヤしていました。
ライターとしての自分も読者だけど、編集者は自分とは違う視点を持った「プロの読者」。3人目の読者に届ける前に、まずは2人の読者で、原稿の質を高める作業をしていく。そんなやりとりができたら理想的だなと思いました。
最後に
ここで紹介した文章以外にも、この本を読みながらたくさん線を引きました。
もしもあなたが、書くことに誇りを持ち、書くことで自分の世界を広げたいのなら、この本を読む価値はあると思います。