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「Le Tambour de soie 綾の鼓」伊藤郁女、笈田ヨシ:三島由紀夫「近代能楽集」を基にした、ダンサーと劇場の掃除人の恋を描くダンス・シアター
2020年10月にアヴィニョン芸術週間(UNE SEMAINE D'ART EN AVIGNON)で世界初演された作品が日本で公演。上演時間は約1時間。
能の「綾鼓」を翻案した三島由紀夫『近代能楽集』の一作「綾の鼓」(あやのつづみ)を基に、ジャン=クロード・カリエールが劇場を舞台とした物語を書き、せりふとダンス、音楽で紡ぐパフォーマンスができた。
フランスを拠点に活躍する振付家・舞踊家の伊藤郁女(いとう かおり)と、同じくフランスはじめヨーロッパで長年活動する、ピーター・ブルックの舞台に出演した俳優で演出も手掛ける笈田ヨシ(おいだ よし)が創作・出演。
「不釣り合い」な二人の成就しない恋
劇場の舞台を掃除する老人が、舞台上でリハーサルを行う若いダンサーに恋をする。ダンサーは老人を誘って一緒に踊り、鼓を打って音が出れば思いをかなえると伝える。しかし鼓は老人が打っても鳴らず、老人は絶望する。
情念渦巻く幻影のようなシーンで、ダンサーと老人は踊る。やがて現実の世界へ戻り、ダンサーは、老人がつぶやく詩をかつて自分の母も口ずさんでいたと言う。ダンサーはこれからも踊り、老人は生きる。別々に。ダンサーは、「あと1回打てば、私にも音が聞こえたのに」と言い残して去る。
踊り、老い、生きる
伊藤がダンサー役として見せる踊りは、インドや東南アジアの伝統舞踊を少し思わせる。笈田は88歳とは思えない張りのある声と踊りを披露。能のような声の出し方(謡)をする場面もあり(笈田は子どもの頃に能を習っていた)、迫力があった。笈田の存在感に目を奪われる。
フランス語のせりふが主で、日本語のせりふも少しあった。フランス語の発音は、伊藤よりも笈田の方がきれいなのではないか。
音楽は、太鼓などの楽器が舞台下手に置かれ、SPACの俳優でパーカッション演奏もするという吉見亮が生演奏を行ったほか、小道具のラジオから音楽が流れるという演出もある。吉見も能のような声を出していた。演奏も、伊藤と笈田の動きに呼吸を合わせてぴたりと決めていた。
笈田は三島とも仕事をしたという。ブルックの『ハムレット』の映像で見たことがあったが、生の舞台で見られて、演技も踊りも重みがあって魅力的で、感激した。
笈田の踊りはやや少林寺拳法のような動きも?フランスで創作したことも影響して、伊藤の踊りとともに、「アジアっぽさ」を意識しているのかもしれない。
伊藤との相性のよさと、創作における真剣勝負が垣間見える、完成度の高い作品だった。
繰り返されるフランス語の詩は、韻を踏んだ、わらべ歌のように単純な言葉から成るものだが、内容は、悲しくも、舞台上のダンスの力強さと相まって生への肯定を感じさせる。
伊藤と笈田、KAAT芸術監督の長塚圭史のインスタライブ動画が公開されている。
フランスのインタビュー動画を見ると、伊藤の方がフランス語の発音が明瞭だ。舞台だと逆に思えたのは、笈田が俳優だからか?
公演のラストで掃除人の老人が持つラジカセ(?)から流れていた歌は、Lykke Liの「Dance Dance Dance」(と人から教えてもらった)。
作品情報
KAAT DANCE SERIES 2021
「Le Tambour de soie 綾の鼓」
フランス語上演、日本語字幕
日時:2021/12/24(金)~2021/12/26(日)
会場:KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
料金:一般4,500円/U24チケット(24歳以下)2,250円/高校生以下1,000円 シルバー(満65歳以上)4,000円
演出・振付・出演:伊藤郁女、笈田ヨシ
テキスト:ジャン=クロード・カリエール
演奏・出演:吉見亮(SPAC) ※演奏・出演を予定していた矢吹誠に代わり