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『未来のアートと倫理のために』山田創平 編著:なぜ今の世界で私は芸術に関わろうとするのか
京都精華大学のプロジェクト「芸術実践と人権――マイノリティ、公平性、合意について」で行われた2年間のレクチャーやゼミなどの公開プログラムと、新たな原稿を収録した本。
多彩なアーティストや芸術関係者が登場し、どの話もとても興味深い。
最も感銘を受けたのは、山田創平「芸術が、私と世界を架橋する」。一般的に言われていることなのかもしれないが、人間は世界を直接つかむことはできず、芸術があることで世界とつながれるのかもしれない、という話。
人はすべてを知覚できないし、発生しているのと同時に知覚することもできず、認識したものは常に少し過去のものである。言語を使うことで、常に何かを選び取り、ほかの何かを排除している。芸術で表現されているものに、現実を、生きている実感を、今を、見て、感じる。その表現は、過去にはなく、未来には理解されないものかもしれないが、過去から今を経て未来へと連なってもいる。
私が小説や美術、ダンス、演劇などを必要とするのは、それらの作品表現を通して、世界や人間に触れ、咀嚼しようとするためなのかもしれない。現実は強烈で、わからないことばかりで、それでいて私とは隔たっていて、私の手は届かない。それでも生きていこうとする中で、世界とつながるために、私は人間が作った芸術表現を必要とする。
【目次】
はじめに
I 実践 編
今井朋×樅山智子×あかたちかこ「誰と、どうやって、手を結ぶ?アウトリーチ再考」
小泉明郎×山田創平「他者から生まれる倫理」
内山幸子「水平を共に目指してメキシコと五領を往来して考えたこと」
吉澤弥生「芸術労働者の権利と連帯」
竹田恵子「日本の美術界のジェンダー構造と新たな取り組み」
飯田和敏×鷹野隆大×あかたちかこ「欲望を揺らがせる身体・ゲーム・セクシュアリティ」
緒方江美 | アフリーダ・オー・ブラート「明日、突然当事者になっても、〈わたしたち〉は死なないドラァグクイーンとアートマネジメントの実践現場から」
ウー・マーリー(訳=岩切澪)「キュラトリアル・アクティヴィズム台湾の探究と実践」
II 理論 編
住友文彦「美術館は多様性を反映できるのか」
猿ヶ澤かなえ「フランスを例に考える表現の自由とマイノリティ」
三輪晃義「芸術労働者は法律によって守られるか」
山田創平「芸術が、私と世界を架橋する」
遠藤水城+百瀬文(画=鬣恒太郎撮影=堀井ヒロツグ)「小説Dedication」
執筆者プロフィール
あとがき
謝辞