「鉄腕ダッシュをやれ!」
車の中でTOKIOがジャニーズの曲をカバーしたCDをかけている。ジャニーズの曲は分かりやすくて、なんだか元気になり勇気を貰えるので良い。ジャニーズの曲はテレビから流れてきていたので大体知っている。ただ音源として聴いたことはなかった。
僕はそもそも音楽を聴かない人間だったのだが、10代後半から洋楽にかぶれた。大体60年代70年代90年代の洋楽にかぶれた。それで「ジャニーズなんて聴いてられるかよ」と思っていた。ただ、今は一周回ってジャニーズが良いのだ。もう洋楽なんて聴きたくない。
TOKIOといえば、『鉄腕ダッシュ』だ。僕が敬愛する養老孟司さんが「若いやつは『鉄腕ダッシュ』をやればいいんだよ」と本に書かれていた。『鉄腕ダッシュ』では、TOKIOのメンバーが第一次産業をやっている場面がよく流れていた。養老孟司さんはよく著書の中で、「田舎に行って体を動かせ」と言われている。もう絶対と言っていいほど、何回もこれを言われている。また、参勤交代を推奨されている。「田舎に行け」と言われている。
僕は10代後半くらいの頃に養老孟司さんと宮崎駿さんの対談本を読んだ。今となっては内容を覚えていないが、「現代人はけしからん。焚火のやり方もしらん」とか「ナイフの使い方もしらん」とかそういったことを言われていたと思う。それで僕はひどく傷ついた。僕は地方在住なのだが、いわゆる山や海が見えて、田んぼがたくさんあるような田舎には住んでいない。地方の町で育った。田舎に行って体を動かしたことがなければ、火の熾し方やナイフの使い方もしらない。「ああこれは僕に対して言っているんだ」と思った。「これだから僕はダメなんだ」と思った。どうやら坂口恭平さんも宮崎駿さんのドキュメンタリーを見られた時に同じようなことを思ったらしい。
それで当時の僕はアホなので親に言った。「なんでこういうところで育ててくれなかったんだヨ」とアホなことを言った。恥ずかしくて仕方ない。そんなド田舎で育ったら育ったで文句を言うだろう。都会に憧れを抱くだろう。
僕は10代後半から20代中頃にかけて養老孟司さんの本にハマっていた。今となっては内容を覚えていないが、何となくだが、養老孟司さんの思想が頭にこびりついている。
それで、就職するときに僕は何を血迷ったのか、林業をしようと思った。ちなみに僕はガリガリである。それで、林業の組合かどこかに電話をかけた。
「もしもし。林業に興味があるのですが・・・」と僕。
「興味があるくらいでかけてくるな!」と電話を受けた人。
とこんな具合で面食らってしまい、林業は諦めることにした。そう。林業は興味があるくらいで志してはいけないのだ。とはいえ、どこから林業という発想が出てきたのか自分でも恐い。あわよくば林業をしていたかと思うと、もっと恐ろしい。
そんな僕も今は鬱でヘロヘロだ。おまけに30歳無職ときている。ただ、何とかなると思っている。逆を言えばチャンスだ。どこにも属していないんだ。何にでもなれるチャンスだ。僕は時折、何にでもなれるという自分と何もできないという自分に出くわすことになる。まあ何にせよ、なんとかなるだろうと思っている。
というわけで、養老孟司さんが「田舎に行って体を動かせ」と言うので、それに憧れる。そしてTOKIOは『鉄腕ダッシュ』でそれをやっていた。だから養老孟司さんは「若い奴は『鉄腕ダッシュ』をやれ」と言っていた。TOKIOの曲を聴きながら、そんなことを思ったのであった。