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微笑みの表現

仕事でインドのチェンナイに来ている。

日本から持参した本をすべて読んでしまったので、チェンナイ市内の本屋で村上春樹さんの「女のいない男たち」英語翻訳版を購入した。原書(日本語)は未読だったが、映画「ドライブ・マイ・カー」を視聴済みだったので、英語でもすんなりストーリーに入り込むことができた。

英語に訳されることで、いわゆる村上春樹らしさはどうなるのだろうと勝手に心配していたけど、杞憂に終わった。何かとセリフを繰り返す場面が多かったり、リアリティとアンリアリティが融合して軽い船酔いの気分にさせられたり、一見重要そうでないことに重きを置く登場人物であったりと、村上春樹ワールドを満喫できた。

チェンナイからさらに南に位置するテンカシへ移動する夜行列車で、チームメンバーが買ってくれたチャパティを右手でちぎって口に放り込みながら、「女のいない男たち」を左手で開いた。会社の先輩から「"女のいない男たち"は、微笑みの描き分けが多彩」と聞いたのを思いだし、微笑み(smile)っぽい表現に気を配りながらページをめくる。

意識しなければ何となくやり過ごしていたであろう「a suitably rueful smile」に遭遇した。結婚しないと決めている男が、付き合っている女性から別れを言い渡されるときに浮かべた微笑みである(女性には本命の彼氏または夫が存在する)。「適度に悲しげな微笑み」とでも訳すのだろうか(日本語→英語→日本語へ訳し返す?)?

向かいに座る女性が、スーツケースを座席の下に収納するのに手間取っていたので手を貸した。無事に収納が済むと、女性は手を合わせてお礼を言ってくれた。あの女性が浮かべた微笑みは何と表現したらいいんだろう。

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