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慌てたってしょうがないとき

人身事故のため、次の羽田空港行き列車がいつくるかわからない状況の京急蒲田駅は、フライトの時間に間に合うかどうか不安で落ち着かない人々で埋め尽くされていた。

不安で落ち着きがない人は外から見るとすぐにわかるんだなあと、早めに家を出たので時間に余裕がある僕は呑気に眺めていた。しかも、不安は簡単に伝染するようだ。1人が駅員さんに現在の状況を尋ね、駅員さんが曖昧な答えを返すと、周りの人は駅員さんを更に問いただしたり、同伴者と不安な気持ちを共有したりしている。

そんな不安や焦りが蔓延する状況で、列の後ろに並んでいた中老夫婦の明るい声が、重苦しい空気への唯一の対抗者だった。

「あんた、ちゃんと靴を点検してって言ったじゃない」「昨日は問題なかったんだよー」

聞いてみると、フライト出発時間まであと1時間もないらしい。

「慌てたってしょうがないもんな!」

ペラペラになった靴のソールを剥がしながら男性は愉快に笑っていた。

400字エッセイ書いています。

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