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400字エッセイ

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2022年1月の記事一覧

身体全体で体験したい

寒さが厳しくなったこの季節、寒さに耐えようと布団の中で身を縮めたり、静電気を怖がって指先だけでドアノブを回そうとしたりする。 でも、布団の中では大の字になった方が毛布が温めてくれる面積が増えて、身体全体が暖かくなるし、指先だけでなく手のひらでドアノブを掴んだ方が静電気が分散してバチッとこない。 こういうことって他にも当てはまるものが多くある気がする。 苦手なことや嫌いなこと、恐れを感じる物事に対して身体全体で経験しようとしないことで、物事の部分的なことしか体験することが

1度目ではピンとこないこと

友人に薦められた歌を聴いてもピンとこない。自分の好みじゃないなと諦めていると、リピート再生機能で繰り返し再生されてしまった。しょうがなくそのまま聴いていると、意外に良いかもと思えてくる。5回のリピートが終わった後、その曲をプレイリストに追加した。 これって歌だけじゃないかもという考えが脳裏をよぎった。初めて食べるクセの強い料理も、舌がその味に慣れると美味しく感じるようになる。1度目の視聴ではイマイチに感じた映画も、2回観るといつの間にかお気に入りになることがある。 そして

“Can I help?” ではなく “I need help” で強まる人間関係

誰しも、困っている人がいたら助けたくなるし、人の役に立ちたいという気持ちを持っている。何かに貢献できていると実感する幸せは、何事にも代え難いからだ。 貢献することで幸せを感じられるこの仕組みこそが、人を社会的な動物たらしめていると思う。か弱い生き物であるぼくたち人間は、お互いに助け合うことで、何とかこれまで生き延びてきたんだろう。 しかし、ぼくたち人間は助けることは大好きだけど、助けられることに対して負の感情を持つ傾向がある。助けられることに気後れと引け目を感じてしまい、

後に取っておいたらなくなってしまう

豚カツが大好きだった兄は、食事に豚カツが出るといつも最後に取っておいた。それを見て僕はいつも「豚カツ食べる前に地震がきて食べられやんくなってもええの」と笑いながら問いかけた。 食べ物くらいならいいかもしれない。でも、人に対する願いや言動を「後に取っておく」と、大きな後悔が残ることがある。 感謝の気持ちはすぐに、何度でも伝えればいいと思う。家族と会う機会が減っていると感じるなら電話すればいいと思う。電話がだめならLINEでもいい。誰かと一緒に行きたいところがあれば、すぐに予

息が白くなる寒さの朝

家の中でも息が白くなる寒さの朝、恐る恐る水道栓を上げると水が出ない。水道管凍結防止作戦はまたも失敗したようだ。昨晩用意しておいた水をT-falで沸騰させて熱々のコーヒーを淹れ、水に潜らせて電子レンジで柔らかくした餅に、味噌と熱湯を加えた簡易味噌汁で腹ごしらえする。残りのコーヒーを入れたボトルを携え、外に出た。 町を眺望できる丘を目指し、寒さで固まった足を一歩一歩踏み出す。真冬の冷たさは手袋と靴を簡単にすり抜け、手足を刺すように痛めつける。余りの痛さに耐えられず、手袋を外して

気がづいたら台所に居る

母はいつも台所に居た。もちろん、ずっと台所に居たわけではないけど、母が台所に居る様子をリビング側から見ていた視点がやけに記憶に残っている。母は何をするにも台所に居た。料理するだけではなく、小さいスツール椅子に座って読書し、食事し、歌っていた。そんな母を、いつも不思議そうに僕は眺めていた。 台所が独立した家に住み始めると、僕も母と同じように、いつも台所に居ることに気づく。台所でコーヒーを飲み、音楽を聴き、本を読む。家で行う営みがほとんど台所で完結している。どうしてずっと台所に