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400字エッセイ

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2021年11月の記事一覧

50円が気になる

そういえば、銭湯で受け取ったお釣り50円はいったいどこにいったんだろう。なかなか眠りにつけない布団の中で記憶の糸をたぐる。 小銭はいつも、銭湯に持参するリュックの小さい方のポケット内に申し訳程度に付けらたチャックを開けた中に放り込む。着替えやタオル、水筒、本を詰め込んだ、銭湯に行くだけにしては妙に膨らんだリュックだ。 気になってリュックのチャックを開けてみるが、50円玉は顔を見せない。それならズボンのポッケに入れっぱなしかなと、ズボンをわざわざ洗濯カゴから取り出してポケッ

どこにいても「生活」する

空腹を満たすために料理して食べ、身体の機能を保つために運動し、人の役に立って喜びを分かち合うために仕事する。洗濯することで清潔な衣服を身につけられ、定期的に掃除することでスッキリした気分になれる。道ですれ違う人やお店で出会う人に微笑みかけ他愛もない会話に花を咲かす。そんな日々を過ごせることに、布団の中で感謝しながら眠りにつく。 生きることで活動でき、活動することで生きていける。まさに「生活」だ。そして、生活の内容はどこに住んでいようと同じなんだ。川根本町に移住して1ヶ月が経

自分の存在をアピールしたがる。

新しい土地での生活が始まってから1週間、既に多くの人との出会いがあった。  初めて会う人と会話するなかで、自分の存在をアピールしたがっている自分に気づく。そして、人の話をちゃんと聴くということは簡単なことではなく、人の話を聴くためには努力が必要であることを再認識する。  自分でも無意識のうちに、相手が話している最中に返事の内容を考えたり、話題に関連した自分の経験を話したくなったり、求められてもいない助言を伝えたりしてしまう。自分と異なる相手の意見と考えを「なるほど。そうい

よくわからないけど大事そうなこと

実家に虫が出たとき、父と母は決して殺そうとしなかった。蚊やハエは手で追い払い、風呂場に出たムカデはビニール袋に追い込んで外に逃した。ゴキブリが姿を現し、僕ら子どもが固まっていたときも、父はゴキブリに手を添えることでゴキブリを逃してやった(ゴキブリの敏感な触覚を利用していたようだ)。 殺さないといけない状況のときは「ごめんなー」と言いながら、苦しまないように即死させていた。ゴキブリホイホイにハマってしまい飢えで弱っていたゴキブリを、父が神妙な面持ちを浮かべながら潰して即死させ