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旅の途中の常勝軍団

2016年6月18日
J1リーグ 1stステージ第16節
アウェイベガルタ仙台戦に向かう道中

ユアテックスタジアム仙台に向かうオフィシャルバスツアーは、栃木県の那須高原サービスエリアに寄った。
父のトイレを待っている間、私は手持ち無沙汰になってスマートフォンを手に取り、Jリーグ公式サイトの試合速報ページを開く。

J1は全試合が今日の同時刻にキックオフ。
昨シーズンからJ1は2ステージ制が採用され、前半戦と後半戦に分かれて王者が決まり、全試合終了後にチャンピオンシップが行われて年間王者が決まるらしい。
優勝争いをしている強豪クラブにとってはタイトル獲得の夢が広がるレギュレーションではあるが、J1残留争いをしているクラブのサポーターにとっては正直どうでもいい話だ。
同じカテゴリーながら、J1優勝争いは遠い世界のことのよう。
我らがヴァンフォーレ甲府がすべきことは、一年通してしっかり勝ち点を積み重ね、J1に残留すること。
これはどのようなレギュレーションになろうが変わることはない。

「遅いな……」
私はスマートフォンの時刻を見て少し焦る。
ツアーバスの出発時間まであと5分だ。
置いていかれることはないが、遅れてバスに乗るのは気まずい。
バスの駐車場には続々と観光バスが停まり、人々が次から次へと降りてくる。

「おっ、ヴァンフォーレだね!」

不意に声がしたので驚いて視線を上げると、初老の男性が笑いじわを浮かべて私を見ていた。
「紳士」という言葉がぴったり合う、上品な佇まいの男性だ。
私は自分の着ていた青赤のユニフォームに視線を移し、もう一度その男性の方を向く。
「あ、はい!」
思わぬ形で話しかけられたことが嬉しくて、私の声は思わずうわずる。
「今日はどこと試合なの?」
「ベガルタ仙台です」
「仙台まで行くの!? それは大変だ……!」
男性は目を丸くする。そしておもむろに自分を指さした。

「俺はこんなじじいだけど、鹿島を応援しているんだ」

男性の品の良さと「じじい」の言葉の一般的なイメージは大きくかけ離れている。
私が何も言えずにいると、男性は遠い目をして駐車場を見渡した。
「今日勝たないとファーストステージ優勝できないんだけど……。どうなるかねぇ」
「大丈夫ですよ、鹿島さん強いですから。このあいだ甲府も完敗でしたし」
男性は「いやいや」と謙遜するので、私は思いきってこう言った。

「鹿島さん、絶対優勝してください! 応援しています!」

思わず大声を出してしまい、周囲の人が視線をこちらに向ける。
しかし恥ずかしい気持ちはない。
この男性は甲府のユニフォーム姿の私を見て、勇気を出して話しかけてきてくれたのだろう。
私もその気持ちに応えたい。
この男性が応援する鹿島アントラーズに優勝してほしい。
ファーストステージが終わった時、そして今シーズンの王者が決まった時、この男性が喜ぶ姿を思い浮かべたい。
それは嘘偽りない気持ちだ。

「ありがとう! 甲府も残留できるように頑張れっ!」

男性は顔をほころばせ、私に向かって力強くガッツポーズをする。
「ありがとうございます!」
私も渾身のガッツポーズで返し、互いに笑顔で別れた。
「……お待たせ」
しばらくして父がハンカチで手を拭きながらトイレから出てきた。
本当に長いトイレだったが、今回ばかりは長くて良かった。
何も知らない父は、妙に頬が緩んでいる私を不思議そうな表情で見ている。
「ほらほら。早くバスに戻らないと」
私は父を連れてバスに戻る。
その間、スキップしたくなる気持ちを必死で抑えた。

その後、鹿島アントラーズはファーストステージ優勝を果たし、チャンピオンシップを勝ち抜いてJ1優勝に輝いた。
ヴァンフォーレ甲府は最終節でJ1残留を確定させた。
テレビで目の当たりにした鹿島の優勝の瞬間は、やはり同じカテゴリーとは思えない遠い世界のことのようだった。

しかしそれもまたいいことなのかもしれない。
互いのクラブの健闘を祈り、讃えることができたのだから。


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